銀幕に笑む身儘の白 其ノ捌
「『光を賜りし剣ではなく――――」
なんだかんだとゴチャゴチャ言いつつ付き合いの良い先輩と、それぞれの勝手を唄い始めると同時に躊躇も迷いもなく前へと踏み切る。
「――――闇を祝りし剣でもない』ッ!」
絶対的な速度では俺に遥かな分があり、攻め手は八割方がこちらのもの。けれども、情け容赦なくペースを押し付けてなお平然と返してくるのが最高に東陣営。
「『水を乞え――――」
何度目ともつかない拳と棍の激突。けれど俺とて学んでいる。
「『水を恋え――――」
あちらの手癖は〝記憶〟済み。拳撃の勢いそのままに旋転、衝撃を散らし逃げようとする得物を鞭のように振るった右脚の膝裏でクリップ。
然して受け流しを阻まれ体勢を崩し、舌を打つまでコンマ一秒といった顔を見せる【銀幕】へ……上下逆さまの体勢より突き付けるは結晶塗れの赤い巨筒。
緋紉連結二十四式徹甲弾頭〝啄木鳥〟――――【簇ル紅兎ノ大煌砲】トリガー。
「ッ゛……――――水の聲を聴き給え』ッ!」
防御不能を確信する徹甲貫通弾を放つと同時、激甚の反動を利用してゼロ距離発砲&アウェイ。更に《フラッシュ・トラベラー》起動、直前までの運動を無視して身体を運ぶスキルにより身体制動と隙殺しを並行しつつ、
「『深淵の水暗は外天に座し――――」
顔を上げれば、腕一本を失いながらも当たり前のように舞台に在る指揮者の姿。
マジかよ何をどうやって今の捌いたんだよという呆れと、今更どんな無茶苦茶やろうが驚かねえよという信頼と……そして、
「――――星欠への想いを套に宿す』」
退屈な顔をしていてもなお、
世界を魅せるであろう輝きに、紛れもなく感動を覚えながら。
「『ならば〝王権〟は我に在りて……――」
なればこそ紡ぐ声と共に、差し向ける水槍と水輪の波濤と共に、
揺らぐ気など一切ない、退く気など一切ない、
他でもない己自身への信を以って、相対する者に見せ付けよう。
「――――首を垂れるは不要なり』」
掛かって来いよ先輩、ぜってぇ負けねえから。
◇◆◇◆◇
『悠久を経て雄大、新生を吞み深淵――――」
なんだかんだとゴチャゴチャ喧しいクソ生意気な後輩と、それぞれの勝手を唄い始めると同時に躊躇も迷いもなく前へと踏み切る。
「『――――斯くも在る名は三十六』ッ……!」
絶対的な速度では奴に遥かな分があり、攻め手は八割方あちらのもの。全くもって忌々しい、終始無邪気な顔した馬鹿に付き合わされるばかり。
「『創りし赤の素志を抱け――――」
何度目ともつかない交錯、しかし当然のように刹那の過去を今にて飛び越えるのが【曲芸師】。甚だ強化された思考加速スキルを以って霞むような体挙動に反応が間に合わず得物ごと捕らわれ、気付いた時には目前に銃口。
回避不能、ならば避けない。
「ッ゛――――導きし青の希求を抱け』……ッ!」
防御スキル総動員。鋼を超え金剛を凌駕する硬度と成した左腕を差し出し、爆裂した紅光を受けると同時に衝撃を手繰り身体をズラす。
斯くして、二の腕までを食い千切られながら、
「『天蓋の星光は空宙に伏して、命輝を羨む声を堕とす』」
反動に乗って遥か先、またも苛々しい顔を見せ付けやがるピエロを睨む。
イラつく、ムカつく、腹が立つ――――なにより我慢ならないのは、それらがなぜ今更になって際限なく湧き上がってくるのか理解できないから。
苛立ちを超えて正真正銘、怒りに声を震わせている己が理解できないから。
そして、それら戯言を盾に見え透いた本心から目を逸らさなければ、
より、なおのこと、
「『来たくば来たれ星々よ――――ッ……!」
誰より忌々しかったはずの自分を超えて、目の前で笑むアイツが忌々しい。
「――――此身は〝羨望〟を喚ぶ者なり』ッ‼︎」
ならば最早、やることは一つだけ。叫ぶ声と共に、迎え撃つ大地の響轟と共に。
揺らぎながらも、退きながらも、
それでも大事に抱え持ってきた、これまでの己に在る意味を以って、
「《大地惹星》」
悉くの目を灼く煌星へ、取るに足らないプライドを叩き付ける。
◇◆◇◆◇
広く広く、狭苦しい舞台。顕現したのは〝水〟と〝地〟の奇跡。
片や『剣』――――それまでの瀑布と比すれば矮小にも見えてしまう、けれど術者の更にちっぽけな身の丈を優に超える大剣の様。
片や『星』――――それまでの地轟と比しても殊更に巨大で無数、天蓋の遮りなど知らぬとばかり宙から降り落つ雨霰の様。
静謐と破滅。このままどちらも動かなければ、遍くを蹂躙する降星の暴威によって舞台から全てが消え去るだろうという確信を見るもの全てが抱く時。
確信をも超える期待を背負い、夢を希む〝白〟が『剣』を振るう。
そして、勝手と意地と我儘を以って世界へ示す剣にして『権』が、
「――――――――《千遍万禍》ッ!!!」
刹那にて主の瞳に映る全てを断ち切り……――――舞台に齎すは、鐘の音。
星を千切り、目前を千斬り、己が信を断じた奇術師の一手にて幕が下り、
「…………………………もう、これが俺の決勝戦でよくね……?」
真に燃え尽きた身勝手者が一人、散った〝星〟の光を見上げるまま倒れ伏す。
『トライアングル・デュオ』Cブロック二回戦。
勝者――――【曲芸師&熱視線】。
有言実行。
といったところで五章第二節、これにて了といたします。
明日から連載開始のコミカライズ共々、三節も張り切って参りましょう。
あ、コミカライズ始まるそうですよ。ソラかわー!!!