銀幕に笑む身儘の白 其ノ陸
――――別に、説教めいてアレコレ諭されたこと自体に文句はない。
啖呵を切ったというか喧嘩を売ったのは間違いなく俺の方であるからして、根源が呆れでもなんでも多少なり感情を動かしてもらえたのは喜ばしい限りだ。
ただし、
「さっきの、そっくりそのままお返しするぜ。間違えんなよ先輩」
全くもってその通り、などと聞き流すことのできない点が一つある。
別にね? いいんだよ。そういう風に取られても仕方ない在り方だというのは、この半年で山になるほど理解も自覚も積んできた。ゆえに、間違われ勘違いされること自体は致し方なし己がせいであると認めている。
だからこそ、
「囚われの姫じゃない? ――――ッハ、誠に結構」
その度に俺は、己が口で正さねばならない。
「俺だって、救いの王子なんて柄じゃねぇよ」
俺は決して、手放しで賞賛されるような精神を持つ人間ではないと。
「上積みしてきたアレやコレは置いといて、俺の根っこは単なる凡人だ。ゲームを始めることこそ目的だった、つまりスタート地点から満足してるお気楽野郎だ」
「……テメェみてぇな奴のどこが凡人だと」
「能力の話じゃねえ、精神性の話」
さっき言葉を遮られた仕返しだ。苛立ったような、けれどもその実こちらこそ腹立つような静かで平坦な声音を上塗りする。
「諸々前提となる事情がなかったとは言わねぇけど、結局は楽しみたくて始めたんだよ。楽しそうだからゲームを始めて、最高に楽しいから腹の底から笑ってる。俺の根底はそんな、どこにでもいるような現代男子に過ぎねぇっつってんの」
「…………」
「〝孤独に囚われたお姫様〟とやらにも、正面からぶっちゃけたことだけどな」
本当に、誰も彼も、過大に持ち上げてくれるなよと切に思う。
なんせ俺は――――
「小難しい他人の事情なんざ知るか。俺は俺のために〝俺〟やってんだ」
聞いて驚け、観て笑え、お師匠様も真っ青な自分勝手っぷりを。
「いつだか言ってたよなぁ。『つまんねぇ』とか」
「…………」
「今も言ったよなぁ。『現状でいい』とか」
「…………」
「言葉がなかったとしても、つまんなそう面してんだよ。それに『現状でいい』って妥協だろ、せめて『現状がいい』を目指そうぜ」
「…………」
「夢の世界で妥協してんな、勿体ないったらありゃしねえ。不平不満はあるんだろ? なら、ぶっちゃけるだけで満足しないで打開に乗り出そうぜ」
「……、…………」
「んで、文句が返ってくる前に大前提を言わせてもらうけど」
むしろ慄き、嗤っていただいても構わない。
俺は決して『できた人間』でもなく、決して『お人好し』などでもなく、決して『他者を優先する自己犠牲精神』を持っている訳でもなく、
ましてや、颯爽と現れて誰かの心を救うことができる『王子様』でもなく、
「流石の俺でも、一緒に遊んで楽しくなさそうな奴を誘ったりしねぇわ。そも遊びたいと思ってなさそうな奴を誘ったりしねぇから、そこんとこよろしく」
面白そうな奴を……あるいは、気の合いそうな奴を――――
「遊びを吹っ掛ける相手は、しっかり自分の目で選んでる。で、折角そんな相手に出会えたからには……――――楽しんでもらわなきゃ、俺が楽しめないだろ」
喜び勇んでゲームに誘う、遊びたい盛りの男十八歳に過ぎないのだから。
然らば、だからこそ。
「…………といった具合で都合がいいと思うんすけど、如何っすかね先輩」
「………………」
今、改めて、もう一度。
「俺たち、意外と仲良くできそうだって思えてきたんじゃないか?」
方向性は違えど、己を貫く自己中同士。
なればこそ真の気遣い無用が成立するはずと、出会いからこれまでそのスタンスを〝好む〟と己が態度で明言し続けてきた【銀幕】に手を差し伸べる。
さすれば、果たして、
「……………………………………………………言いたいことは、終わったな?」
「あぁ」
彼あるいは彼女は、気のない素振りで俺の手を打ち払うと共に、
「そうか。――――――――じゃあ、ぶっ殺す」
全くもって予想通りの答えにして応えを、
「《破滅へ至る終幕の指揮者》――――ッ‼︎」
おそらくそれは、演じる素顔の更に奥。
ここまで蓄積していたフラストレーションに点火したがゆえに生じたであろう、根っから滲む凶悪な笑みと共に……――冠を灯して、叫び放った。
まだ絆されてはいない、アルティメット生意気な後輩にぶちギレただけ。
つまるところ『大したもんだぜテメェ』ってやつ。