戦車前進
――――二回戦第二試合、Bブロック【群狼&重戦車】vs【大虎&双拳】。
多くの者が事故認定する【無双&城主】に次いで『アカン』とされる南北序列二位同士のタッグと、初戦を見事に勝ち抜いた東北武闘派二人のマッチング。
斯くして、事故試合に続いて舞台上を踊る影は三つ。
槍を駆る【大虎】と、拳を繰る【双拳】。付け焼き刃とて普通を逸した各々のセンスを以って、まるで長年の戦友が如く抜群の連携を見せる者たちと――――
ただ一人にて相対し、対等に舞う小さな【重戦車】の姿。
「――――ッッッは……! きぃっっっっっツぅ……!!!」
奔る槍を、唸る拳を、閃く双短剣が描く漆黒の軌跡が悉く捌き落とす。
息継ぎの暇すらないほどに、瞬きの暇すらないほどに、正真正銘の限界機動をこなし続けるユニが楽しげに『無理』を叫ぶが……――見る者、皆が知る通り。
「――――マジ、か、こいっつ……ッ!!!」
「――――……、ッ……!」
堪ったものではないのは、数的有利を以って挑み掛かる〝敵〟の側。
正面からの槍撃が超重量の〝偽装〟判定を以って軽々と短剣に弾き飛ばされるも、それは相方と示し合わせた連携の導入にして牽制の一手。
初戦に続き開幕から解放した冠の権能は既に全開かつ第二段階。不可視の大顎は『四肢牙合一』に至り、如何な無法の【星隕の双黒鋼】とて埒外の剛力によって多少なりは負荷を与えられる。
流石に弾き合うまではいかないまでも、無視はできぬ程度の衝撃が伝い片手が浮いた【重戦車】の懐へ――――スイッチ。背後より相方を抜き去った闘士が、豪速にて視ること叶わぬ正拳を撃ち放つと同時に轟くは砲の音。
顔を顰めたのは、二者のほうだ。
直進を貫けず跳ね上げられた【双拳】の右拳。そして苦悶の音を吐き散らしながら吹き飛ばされた【大虎】の体躯……見やる【重戦車】は、
「――――――ッッッッッぷっはぁ゛……ッ‼」
正しく死にそうなほど苦しげな息をぶちまけながら、冠を戴き凶悪に笑む。
その手に在る短剣は二振りなれど、ユニが携える得物は四つ。即ち、二つの刃と二つの〝砲〟……特殊称号『重戦車』が強化効果《小人の砲手》を宿す両の指。
己が受け止め蓄積した遍く〝重〟によって生成される不可視の砲弾は、意思一つで彼の指先より射出される音速越えの瞬間着弾リーサルウェポン。
更に一つ、凶悪な特性として、
「ッ……《憧憬の――――」
「――――させるか、ってのッ!」
大地を穿ち鋼を砕くソレは、威力に捉われぬ無反動砲。つまるところ、指先一つ動けば行使できる必殺の一撃とて――――技後硬直など、存在しないということ。
左剣投擲、からの重量偽装。
轟砲にて右腕を身体ごと打ち上げられ、盛大に宙へ浮いた【双拳】が地に足を付ける前に、そして厄介極まる性質を備えた冠を顕す宣誓が遂げられる前に。
放たれた鋒は、胸のド真ん中へと突き進む。
埒外の重さを偽ったソレを受けられるはずはなく、弾き飛ばせるはずもなく、また回避の猶予は与えなかった。ならば咄嗟に左腕を差し出したゲンコツの判断こそが、その瞬間にて紛れもない最善策であり――――
「《鎮樹の王権》ッ‼」
「――――ッ、ぐっ……む、……‼」
しかし、詰めに入った南陣営序列二位の手を僅かのみ増やす延命択に留まった。
左腕に刃を埋めた【星隕の双黒鋼】の片割れが持つ偽りの超重量、更にはアバターの耐久力に比例して敏捷を奪い去る権能に晒された闘士が墜ちる。
そして、
「悪いねゲンコツ――――今回は俺の勝ち」
凶に舞う小さな戦士は、伏した者へ情けも容赦もなく〝砲〟を突き付け、
「〝全弾斉射〟」
ありったけをぶち込み、躊躇なく敵を排除した。
連なる轟音が舞台をひどく揺るがしたがゆえ、呆気に取られたような観衆の静けさが反して強調されたようにユニの耳へ届くが……彼は致し方なしと首を振る。
別に、理由もなく全力全開で暴れ散らしている訳ではない。
「さーて……あと一人だ。覚悟はいいかな、トラ」
「っかぁー…………………………いや、どないした。過去最高に滾っとるやんけ」
「あは、まあ流石にさ。一位が魅せて、三位も見せ付けたんだから――――」
これはそう、単純な話。
「二位も格好付かなきゃ、ダメなんだよね」
「………………なんのこっちゃねん」
密かに、確かに、誰よりも〝立場〟を大切にしている者が、プライドを燃やして暴走した……と、それだけ。ままあることに、過ぎないのである。
なお、そんな小さき凶戦士の後方にて。
「――――おわはぁ…………やっぱり対人勢は恐ろしなぁ……」
手は出さず、札も見せず、しかし明確な〝援護〟にて相方のサポートに徹していた【群狼】が気も間も抜けた声を一人のほほんと零しながら。
試合の終幕を予見して、周囲に在る無数の気配を身に呼び戻していた。
対人に秀でた能力を以って、序列二位に在り続けるという意味。
なにが言いたいかというと、第十回四柱でコレと初見で渡り合った馬鹿及び真っ向から挑んで下した馬鹿それぞれが至極単純に頭おかしいだけという話。