隣席
――――結果的に、十分少々という僅かな尺は体感一瞬にて過ぎ去った。
ひとえに、終始ふざけ騒ぎ倒しているように見せかけて流石の話術と技術により先導してくれたノノさんのおかげだろう。正しく本職は格が違う。
で、隙間時間に差し込まれたノノハルRadio(笑)が一旦なり幕を閉じたとあれば……後に続くのは、予定に則ったプログラム。
即ち、
「うっわグデグデ。なっさけないなぁ、お兄さんったらもう」
「お疲れ様」
「さてどうすっか。毎度のことだが、好きに駄弁れっつわれても困んだよなぁ」
「そこも毎度のこと、寄せられた〝お便り〟に頼ればいいんじゃないかしら」
「…………ちなみに聞くが、読み上げ役は誰が?」
「前回同様に囲炉裏先輩でいいんじゃないの」
「前回も言ったが、どうして俺なん――――」
「去年の〝ぱーそなりてぃ〟役、様になっていて格好良かったですよ囲炉裏君」
「お便りBOXはどこだ。さっさと寄越せ」
――――と、このように。「ようやく休憩時間だーいっっっ!!!」と去って行ったノノさんに代わり、司会室……というより、司会室も兼ねている広々とした空間に集った東陣営のターンへとシフトした。
設定された時間は三十分。求められているのは『緩い駄弁り』とかいう意識すると逆に難易度が高いルーズなエンタメ。
つまるところ、今現在のワイワイガヤガヤも立派に仕事をこなしている判定だ。
そもそもが休憩時間中の賑やかしだからなコレ。極論BGMってか暇潰しラジオ程度の時間を提供できればいい訳で、そこら辺は肝っ玉が超合金で形成されている歴戦の序列持ちたちには朝飯前ってな話だろう。
なお現在時刻は昼過ぎにして、特に歴戦ではない序列持ちのメンタルに優しくない話であることは言うまでもない。
例の如く早速ちょろちょろ構いに来たちみっこ二人につつかれる俺は、司会席の脇にあったソファに頽れ半死半生。ノノさんに引っ張られるまま陽の気を絞り出した陰の者は当然、直前までの痴態を思い返して恥の海に沈んでいた。
「ほーらほらほら起きなよお兄さん場所替え場所替え」
「まだまだ主役。頑張って」
「やめて、勘弁して……」
けれども、ちっこい先輩二人は容赦なく。クッションと添い遂げようとする俺の両手をそれぞれに掴み、純魔ビルドの貧弱筋力でクイクイと引っ張り上げる。
「いーやっ……俺さっき頑張ったじゃん……! 今は一回休みでいいじゃ――」
「ダメなんだってばノノちゃん言ってたでしょ、さっきの補充枠なんだから。メインの枠でサボってちゃ意味ないんだよほら起きろー!」
とのことで、強制的にソファから連れ出され、
「ハイちゃくせーき! んじゃ、存分に需要を供給するように」
放り込まれたのは勝手に決められていた〝指定席〟――――どこかと言えば、
「ふふ……お疲れ様です。大丈夫ですか?」
「大丈夫ではないですけども、まあ、頑張ります……」
他でもない、お師匠様のお隣席。
まあね、流石に理解してるってか察してはいるよ。どうしたことか心変わりした【剣聖】が表に出てきたとあらば……今、求められているのは、この絵であると。
世間は思っているのだろう。師弟の絡みを、さっさと見せろと。
然らば――――
「あら、そちらで?」
「まあ、弟子として並ぶなら表のがいいんじゃないですかね……」
決して見世物を楽しんでいるであろう観客に対する反抗という訳ではないが、しれっと強制力が失せている空間にて《転身》を再起動。
慣れた姿で溜息交じりに笑んで見せれば、
「そう、ですね……どちらのハル君も可愛らしいことに変わりはありませんが、確かに元の姿こそ『私の弟子』といった気持ちが強いかもしれません」
あちらも慣れたように、反応に困ることを仰りほわっほわ。
なにも気にしていないかのように自然体で微笑みを下さるお師匠様が誠に尊いのは認めざるを得ないところだが、なにもかも気にせざるを得ない俺としては和み成分を容易く超過する羞恥と居心地の悪さに一瞬で満たされる。
「ういちゃんエグい」
「弟子馬鹿」
「見せ付けられてんなぁ」
いつもの大小対極三人組がぽつりぽつりと零した反応は、俺たちを除いた他五人の代弁にも成り得ているだろう。会場及びに全世界の反応を考えるだに恐ろしい。
ついでに、他でもない『生徒』が誰より涼しい顔で流しているのもなんか怖い。まだしもお決まりの如く膾云々と睨んでくれた方が調子出る――――
「それじゃ、落ち着いたところで始めましょうか?」
「そうだな。適当に読んでいくとしよう」
なんて俺の視線もどこ吹く風。目が合ってなお少々の揶揄い風味のみを伝えサラッと流した囲炉裏が、雛さんの声に頷きつつ手にした箱をガシャガシャ振る。
そうして、いつだかの花火然りコイツお祭りアイテムの類くっっっっっそ似合わねぇなと我ながら失礼な感想を抱いた後輩を他所に……。
「一通目は……――――ッハ」
心底腹立たしいリアクションを経て、
「【曲芸師】宛て。〝お師匠様に一言お願いします〟とのことだ」
「なんでだよまたかよ一言シリーズッ……!!!」
心底楽しげに告げられた一通目の内容に、俺は心底から『勘弁してくれ』と嘆き散らして机に伏した。
次が多分ちょい長めになるのでキリ。