幕間
「「「――――――――――…………」」」
待合室は静けさで満ちていた。
十分間、六百秒。規定のタイムリミットを一秒残らず剣戟の音に染め上げて、会場を……それをのみならず、光景を届ける限りの世界を魅了した『試合』を経て。
『最強』と『至高』による〝最高〟のセレモニーを見届けて。
両名から事前に知らされていたゆえ覚悟を用意しておいた俺ですら、胸の内がコレなのだ。一分が経ち、二分が過ぎ、三分を迎えても言葉なく余韻に浸る先輩方三名の心が、どれだけ大変なことになっているのかなど考えるまでもない。
「――――……………………はぁ、やば」
斯くして、か細い声で沈黙を破ったのは白色子猫。これ以上ないというほどふわっふわの声音で、言葉というより鳴き声の如く呟きソファに沈む。
「やー………………っばい、ねぇ……」
そして、隣でリンネが呆けたように後輩の独り言へ同意を示し、
「………………ハル君。キミ知ってたわね」
他でもない師の晴れ姿を見届けながら。それでも一応は冷静さを取り繕えている俺を見て、雛さんが彼女にしては珍しい半眼をジトりと向けてくる。
まあ、さもありなん。
三年の時を経て。遂に本気の先――――全力同士で交わされた『剣』と『刀』の演舞に、頭をメチャクチャにされたであろう彼女らは……。
いや、三人だけではなく、他の待合室にて、かの光景を見届けた全ての者は、
「――――気楽にとか言ってらんなくなったじゃん……」
「――――気楽にどうこう言ってる場合じゃないやつ……」
「――――気楽になんて言えなくなっちゃったじゃない……」
物の見事に、ことごとくが脳を焼かれ、これから臨む舞台が完全に――従来の『ラフなお遊び』から在り様を変えてしまったゆえに。
趣旨は変わらない。己の心とノリ一本で大舞台の流れを乱すほど空気を読めない人間は……まあ、一部の『敢えて読まない』例外は除いて存在しない。
ならば例年の予定通り観客を楽しませるという主題を違えることはせず、皆どこまでも『楽しい舞台』を突き詰めるのは間違いないだろう。
あくまで、そう。『ラフなお遊び』が『本気のお遊び』に転じただけ。
それだけで。それだけ、ゆえに。
「――――、はい。それでは、残り十分と少し。試合が始まったら集中して観戦するとして……改めて、しっかりと。ミーティングをしておきましょうか」
きっと最古参たる雛さんが先陣を切って提案をしなければ、他の誰かが……それこそ、なっちゃん先輩ですら迷わず声を上げていたことだろう。
「〝スキル〟も〝魔法〟も〝ステータス〟も、おそらく全てに制限が掛けられていた二人の舞台に……――盛り上がりで負ける訳には、いかないわよ」
「いかないわね」
「いかないですねぇ」
「はは……――――まあ、いかないよなぁ?」
それ即ち、勿論のこと。
純一無雑に刃を打ち合った、それだけで世界を魅了した最高の二人に。
甘んじて負けを認めてなるものかと。それぞれ確かに高みへ至り此処に在る、まず例外なく人並み以上の守るべき誇りを抱いたプレイヤーたちが、
観客たちのソレを、遥かに凌駕するだろう熱量に、
心を湧き立たせぬ道理など、欠片も在りはしないということだ。
ラフなイベント壊れちゃったね。
夜にもう一本更新します。




