表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルカディア ~サービス開始から三年、今更始める仮想世界攻略~  作者: 壬裕 祐
尊き君に愛を謳う、遠き君に哀を詠う 第二節
683/987

同じ屋根の下

「――――今更ではあるけども、どうせなら同行させるのもアリだったか?」


「いや、ナシだから。非戦闘員に大精霊の祝福とか要らないから」


 と、ご近所さん・・・・・ってか屋根を同じくする部屋の一つ。


 おおよその期待通り無事その気になってくれたカグラさんと依頼の擦り合わせに入ったカナタを残し、もう一人の専属殿の元へ場所を移してしばらく。


 今更ながらの思い付きというよりは、単に間を埋めるだけの適当。そんなことを口にした俺に対して、アトリエの主は「なに言ってるんだか」と溜息を返した。


「むしろ、下手しなくともデメリットにしかならないっての。全然いりませーん」


 相も変わらず見事が過ぎる技術力。なんでもないように会話と魔工作業を両立させてペラペラ『NO』を示すニアの言は、表情を素直に読み取る限り本心らしい。


 同じ《水魔法適性》持ちゆえ、もし先日の大精霊討伐行に同行させていたら彼女にも恩恵はあったはずだが……まあ、そうか。


 件の祝福スキルは単純な出力向上だけならまだしも、燃費悪化という負の側面がセットになっている。効果量とMP消費量を比べて見れば恩恵の方が相当デカい形になるとはいえ、非戦闘状況で細々と便利に使うだけなら無用の長物だろう。


 改めて習熟を深めるまでは制御難などを患う可能性もあるため、余計である。


「そんなことより、まだソレ・・の感想聞いてないんですけど?」


 然して話題はアッサリ移り、ニアが指差すのはソファに座る俺の左肩。


 俺に優しくない類のセンスが発揮されたことにより、奇抜な左右非対称デザインになっている【白桜華織さくらはなおり】こと転身体の一張羅。長袖の右に反して半袖の左腕を覆う片側マントペリース……その留め具として輝く玉石が一つ。


 少し前まではソラの【蒼空の天衣ドレス・オブ・エルクリア】と同様に黄色の宝石ゴールデンサファイアが嵌め込まれていた場所。しかし現在の占有者が放っている色彩は、情熱の赤――――ではなく、


「…………色以外は、完璧です」


「なんでよ可愛いでしょ完璧じゃん!!!」


 愛情、優しさ、思いやりの色こと桃の色ピンク。俺が思うに、そしておおよそ一般的には、男が身に付ける類のカラーリングではないだろうモノである。


 いや、元々あっちこっちに桜の装飾が散りばめられてはいたけども、それは日本人の心的な意味合いもあって格好良さが感じられるから別枠というか……。


 先日ノリついでに投げ付けられた『作品』様。性能面は言葉通り一切の文句ナシ完璧なのだが、どうにも見た目が可愛らし過ぎて身に付けていると身体が痒い。


 作品名――ってか、宝石としての名称は【ランページライト・トルマリン】。やや物騒な名前に反して随分と穏やかな色をしていらっしゃるが、秘めた性質は口が裂けても『穏やか』とは言えない生まれついての問題児。


 俺とソラの指輪に生まれ変わった特級ユニーク素材こと【地竜心魂ノ結晶石ノウェムハート・ダイヤモンド】と同じく、例の【土竜の寝床】より持ち帰った戦利品の一つだ。


 ちなみに、コイツが持ち帰った三つの内のNo.2。


 三番目は少々扱いに困る性質だったのでニアのアイデア待ちで封印中だが、()()()()()()()()()に関しては既にソラさんの【蒼空の天衣ドレス・オブ・エルクリア】に納まっている。


 でもって、今回の遠征で俺たちは各々試運転を済ませてきた。


 つまるところ俺がカグラさんの工房からニアのアトリエへスライドしてきた主目的は、端からニアの言う感想を伝えるためである。


 ログイン中みたいだし顔出しとこうと極自然に足が向いたとか、じゃなきゃ後で「なぜ近くまで来たのに会いに来なかったのか」と文句を言われそうだとか……。


 その辺の思考やら感情云々については、ついでということで黙っとこう。


「ともかく、俺のもソラのも問題ナシ。こっちは新入荷のビックリ初見殺しとしてトラデュオで有難く使わせてもらうよ。なんなら製作者ミルマリナスの宣伝しとこうか?」


「そんなことしたら引っ叩くからね」


 そうしてジト目を拝領すると同時、ニアの手元で光を放っていた幾重もの魔法陣が鎮まり消える。コトリと机に置かれた宝飾は……おそらく、俺の与り知らぬ誰かさんからの依頼品なのだろう。


 カグラさん共々『専属』などと言っちゃいるが、別に『それ以外の他者とは関与しない』なんて意味合い通りガチガチの契約を交わしている訳じゃない。


 あくまで『互いに誰より優先する』という口約束であり、おそらく響きが格好いいからという軽い理由で使ったカグラさんに俺もニアも引き摺られた形。


 そも、アルカディアの職人トップ勢なんてのは個人が独占していい人物ではないだろう。どうぞ広く腕を振るい、攻略の手助けをしていただければ幸いだ。


 …………という話をニアとした際、盛大に拗ねられたという過去がある。


 流石に何故とかどうとか宣い鈍感を気取るつもりはないが、俺はそこで独占欲を出せるタイプの人間ではないので勘弁していただく他にないだろう。



 ――――さて、といったところで。


「お仕事終わったなら、行きますかい」


「うーい!」


 駄弁る内に、現実時刻は午後七時ジャスト。頃合いよく夕飯時であり、然らば同じ宿舎に住む者同士で馴染みの食卓レストランへ向かうタイミング。


 本日は週末日曜。いつもなら四谷邸へ赴くのだが、今日は諸々あって例外だ。


 で、ささっとログアウトすればいいものを。なぜか……とはコレに関しても言わないが、ソファへ突撃してきた身体を先日の約束もあって逃げずに受け止める。


 その間も片手を走らせ強制離脱ログアウトの準備を整えつつ『あと十秒、頑張れ理性おれ』と堪えながら、機嫌良さげな藍色頭をややぞんざいにぽふっていると、


「あれ、ってか、ソラちゃんいるじゃん。めずらし」


 ログイン直後&ログアウト直前の癖めいたルーティーンか否か、己がフレンドリストをチラ見したらしきニアが不思議そうな声を零す。


 次いで向けられる謎の視線。おそらく、どっちもログインしてるのに別行動してるのが死ぬほど珍しいですねどうしたの的なことを問われているのだろうが……。


「あー……まあ、アレです。ちょっと夕飯後にイベントが一つあるもんだから、先んじてアポ取り兼の打ち合わせ、的な」


 常に一緒にいるのが当然的な認識を、よりにもよっての人物から当たり前のような顔でぶつけられた動揺が八割弱。思わず気もそぞろで迂遠な言い回しになったが、別に身内へも内緒にするような事柄のアレではない。


 ゆえに、


「今日この後も暇があれば、ニアも立ち会うか? ――――ウチのパートナー様が、より一層のぶっ壊れへと進化を遂げる世紀の一瞬に」


「…………へ?」


 この際どうせならばと話の流れで誘ってみれば、当然のこと。藍色娘は再び『なに言ってんの』と首を傾げ、俺はハハハと雑な笑いを漏らす。


 俺たちを含め、この後のイベント・・・・に立ち会う全ての者が揃って同じ表情……即ち畏怖と諦観を主成分とした苦笑いに染まるだろう未来を、正確に予見しながら。






お夕飯はビーフシチューだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ハルの料理スキルがどんどん上がっていくのでは?これ
さらなるぶっ壊れ…… 炎に次ぐ魔法をもう一色増やすのか
確か魂依器は奇数の階梯だと新しい能力の獲得、偶数の階梯だと既存能力の強化だったはず ってことはソラさん…ソラさん?(畏怖)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ