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「――――ハイ、ってな訳でね。めでたくメンバーが五人になったところで、クラン【蒼天】今後の活動について軽く方針の意思統一をしときたいと思いまーす」
ひとまずは話がまとまり一段落。そしたら次いでってことで畏れながら音頭を取らせていただけば、向けられる視線が一、二、三、四。
ちっこいって程でもないが小柄なカナタを含めて、どういう因果かソファに居並ぶ四名は誰も彼も小ぢんまり。しかし無垢なお嬢様、やけに老成した少年、剣聖様(?)、真面目系後輩(犬)と、見事にタイプはバラッバラ。
ここに巷では『頭曲芸師』とか言われているらしい俺が転身体で加われば、個性豊かでなおかつコンパクトなクランが完成である。
……なんかこう、随分と和み成分の高い面子が揃ったものだ。
なお総合戦力値。最早これ少数精鋭ってレベルですらないよな――――と、極めてコンパクトにソファへ収まっている四人を眺めながら笑みを呑み込みつつ。
「……やっぱり、ハルがリーダーでいいじゃないですか」
「まあ、頭領と進行役が別々って珍しいことじゃないし」
こちらをジトーっと見るソラさんの文句を拾い、あれで面倒見のいいテトラが息をするように取り成す見慣れた光景を微笑ましく思いつつ。
「ゆうて、テトラを筆頭になんやかんや『ソロの集い』みたいになってるからな。基本的には各々自由に、今後もクランとして頻繁に集合を掛けるようなアレはない方向で行こうと思ってる……が、ハイ異議のある人は挙手」
ふむ、手は挙がらずと。大変結構。
「とはいえ、せっかくの縁だ。形だけの仲ってのも俺が寂しいので、クランとしてではなく俺が積極的に構いに行くから各位そのつもりで。勿論、君らも遠慮なく……少なくとも、俺に関してはいつで――――ういさん、どうしました?」
続けて言葉を紡ぐ途中。口元に手を当て、なにやら楽しそうに笑みを零した剣聖様に目を向ける。すると彼女は穏やかに微笑んで、
「いえ、すみません。私個人に対するものではないとわかっているのですが、ハル君から友達言葉を向けられるのが新鮮でつい……」
「ハイこっからは敬語一本でいきまーす」
「あら……残念です」
「なんのイチャ付きを見せられてんのさ」
と、テトラの疲れたようなツッコミを締めに話を戻す。
「えー、なので、俺に関してはいつでもお声掛けしていただいて構いません。あとはまあ各人、別に心掛ける必要はナシ程度でコミュニケーションのスイッチはONにしときましょう。重ねてせっかくの縁、できれば仲良くしたいのでね」
んで、ここまでが方針ってか心持ちの話。
「そしたら次は、クランとして関わる訳じゃないけどもメンバーの過半数が関わる話題ってな訳で……直近に迫ってるイベントについて」
関係者は、俺を含めて三人――九月の半ばに二年前から開催されている半公式リアルイベント『トライアングル・デュオ』に関する話へ移った。
ので、問答無用でバトンを投げ渡す。
「それではテトラ君、概要説明をお願いします」
「なんでなの」
そりゃ君、知識だけ持ってる奴より実際に経験した者が説明した方がピシッとするかなって……別に、ふわっとした知識で語るのが恥ずかしい訳じゃないぞ。
「えぇ……そう言われても、大体は皆が知ってる通りでしょ――――現実世界の屋内会場で開催される、現実世界で観戦客を募っての闘技大会。西を除いた三陣営の序列持ち参加者がランダムな組み合わせでペアになって、見世物やるってだけ」
「テトラも参加したんだよな?」
「去年の一度だけだけどね。僕は一回戦で終わったし」
「ちなみに相方は?」
「北の【雲隠】」
「忍者ペアじゃん」
ハマればヤバいこと沢山できそうだが、序列持ち相手となると火力不足で辛いことになりそう……ってか、それゆえ残念ながら一回戦敗退だったのだろうが。
「はぁ……今の質問で、本当に概要しか知らないってのはわかったよ。じゃあ仕方ないから僕が続けるけど、基本的にトラデュオは遊び程度の認識。実際に戦る僕らだけじゃなく、観る側も四柱みたいな本気の争いは望んでないだろうね」
「元々、そうした要望で開催を望まれたものですから」
と、テトラの向かい。ソラさんの隣に並んで座っている剣聖様の声が入る。全くもって関係ないが、ういさんがソファに座っている絵面が違和感強過ぎで面白い。
「ういさん、初回は参加したんですよね。それは知ってます」
「はい。準決勝まで進ませていただいたのですが、そこで負けてしまいました」
誰に負けたというのは、言わずもがなである。
「四柱戦争を筆頭に、目覚ましい活躍を続ける『序列持ち』……彼らの輝かしい姿をもっと近くで見てみたいという願いに応えて、四谷開発さんが舞台を整え開催に至ったのが〝とらいあんぐる・でゅお〟です。なので――――」
「「「とらいあんぐる・でゅお……」」」
俺は堪えたが、あまりにあんまりな平仮名だったからだろう。思わずといった具合のスローペース復唱を聞き取り、ほんのり頬を染めた剣聖様は咳払いを一つ。
それもまた、コホンと小さく可愛らしいものであったが。
「あくまで楽しむためならばと、当時の私も参加したのですが……あの頃はまだ、今のような心持ちに辿り着けていませんでしたからね」
身に合わなかった、ということだろう。
けれども、
「つまり、辿り着いた今なら?」
「えぇ――――参加させていただこうと、思っていますよ」
隣でソラさんが声もなく震えで感動を表しているが、まあまあ俺も似たような気持ちだ。嬉しいとか、そんな単純な言葉では表せないアレである。
「…………剣聖様が出場するなら、お姫様と同じく特殊レギュレーションの対象になるだろうけどね。流石に、同じ序列持ちでもレベルが飛び抜け過ぎだから」
「その辺りは、運営の方々にお任せいたします」
周りの胸中を知ってか知らずか、一人ひたすら穏やかに意思を示して締め括る。ともあれ、つまるところこれで【蒼天】の序列持ち三人全員参加という訳だ。
過半数が序列持ちのクランってなんだよ。
「しかし成程。本当に『遊び』くらいのラフな気持ちで臨めばいいってんなら、特別に特訓やら調整やらに時間を費やす必要はない、か?」
「むしろ、それやったら本末転倒じゃない? どちらかと言えば、チームの責任だのが介在しない個人個人の自然体が見たいって催しっぽいし。陣営問わずのランダムペア選出とかいうのも、完全にエンタメに振り切った企画でしょ」
「それは確かに」
とにかく面白いモノが見たいってか。んでもって、こっちはとにかく楽しめばいいだけ――――結構結構、そういうのはわりかし得意分野だ。
したらば、トラデュオに関しては良い意味で適当にってことで……。
「オーケー、それじゃもう一つ。九月中予定の特大イベント――――」
思えば、ようやくこの時が来たってな具合だが、
「『緑繋』攻略を目指して、ウチがどう動くかの打ち合わせをしていこうか」
二柱……否、三柱目の〝色〟を見据えて。
カナタ「(しゃ、喋ってもいいんだろうか……)」




