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アルカディア ~サービス開始から三年、今更始める仮想世界攻略~  作者: 壬裕 祐
尊き君に愛を謳う、遠き君に哀を詠う 第一節
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一緒に

「ソラちゃんは、もうお休みですか?」


「ですね。良い子は寝る時間なので」


「ふふ……子供扱いするなと、また叱られてしまいますよ」


 師と弟子、二人並んで宵の林道。


 竹林これまで含めての〝領域〟とはいえ、形ある居宅こと道場の敷地より外にいる彼女を見るのは……思えば、初めてのことかもしれない。


 加えて姿も見慣れぬものとくれば、隣を歩くだけで僅かに緊張を覚えてしまう。


 初見時には巫女服のようにも映った簡素な藍袴の道着ではなく、黒緋色の羽織を重ねた見事な装衣。普段使いの太刀が本人曰くの『数打ち品』であることなどから武装には頓着しない性質かと思えば、そういった訳ではなかったのだろうか。


 …………なーんか覚えがあるんだよな、この造りというか意匠というか雰囲気というか。絢爛の内に絶妙な清楚が同居する和装、それは他でもないカグ――――


「…………? どうかしましたか、じっと見て」


「いえ、お似合いきれいだなと」


「……、…………」


「……………………」


「…………ハル君?」


「……あの、お似合いにあいだなと。普段のサッパリした道着姿も『ういさん』って感じでホッとしますけど、ビシッと決めた姿も『剣聖様』って感じで実に」


「まだまだ、お口が素直すぎるところは変わりないようですね」


 考え事をしながらポロッと零してしまった本音を早口で誤魔化そうとするも、クスクスと笑われてしまい余計に羞恥が加速する。


 直球で「見惚れてました」と言ったようなものである称賛に一瞬ポカンとしつつも、すぐさま余裕ある対応をしていただけるところがほんとお師匠様だ。


「……実は、しっかりと使わせていただいたのは初めてなんですよ」


「ん、あ、はい?」


 ひとしきり、らしい楚々とした微笑みを披露なさった後。続いた声音に横を向けば、ういさんは羽織の襟を摘まみながら……なにやら、恥ずかしそうな顔で、


「〝すきる〟だけでなく、私は『装備品こういったもの』に頼ることも避けていましたからね。……いえ、避けるというより、ただ使おうと思うことがなくて」


「まあ、ういさんはそうでしょうね」


 彼女は別に、強くなりたくて剣を振っている訳ではない。剣を振りたいがために、剣を振っているのだ。極論、彼女の剣は『向ける先がない剣・・・・・・・・』でありスキルやら装備やらで上積みする必要性がないのだから、当然と言えば当然のこと。


 むしろ彼女の場合は『身一つで剣を振る』という大目標が叶い続けている訳で、スキルだの装備だのは下手をすれば邪魔にさえなり得ると言えよう。


「『飾りにしてくれてもいいから』と言われ頂戴したものですが……思えば長らく、失礼なことをしていたものです。ようやく出番をあげられました」


 聞くに、まんま献上品・・・だ。パッと見で『彼女に相応しいモノ』と思えてしまうあたり、送った誰かさんは相当高位の職人殿なのだろう。


 なんとなくその誰かさんの顔が浮かんでいるが、突っ込んで聞くほどではないかと答え合わせは未来に先送り。今はそれより……。


いいんです・・・・・?」


「えぇ、いいんです・・・・・


 ――――信念とは、また違うモノなのだろう。


 けれども、長らくそうしてきた在り方を崩したことに対してフワッとした言葉を投げ掛ければ、彼女は言葉と表情で柔らかく肯定を示す。


 示して、更に紡ぐ。


「私は、戦いが好きではありません」


「そうでしょうね」


「競争ごとは、苦手です。勝敗が存在するものは、どうしても息苦しい」


「わかりますよ」


「…………本当ですか?」


「そんな至極ビックリみたいな顔しないでください」


 囲炉裏と本気同士で戦り合ったことで改めて自覚したが、俺はやはり誰かとバチバチ(PvP)よりも皆でワイワイ(PvE)が性に合っている。口にした言葉は本心だ。


 ……というか、これはもう俺の主観の話になってしまうのだが――――


「俺、アルカディアの対人戦を『戦い』だと思って臨んだこと、ほっっっっっとんどない気がするんですよね。いや、思ってはいたんですけども、こう、心の底では無意識的に別のノリで楽しんでいたというか……」


 それはおそらく、無我夢中で駆け上がった末に辿り着いた場所。そこにいた連中が誰も彼も、俺を『敵』ではなく『同類なかま』として受け入れてくれたから。


 肩を並べる者も、相対する者も……ういさんが言う『勝敗』は確かに其処に在ったが、結局のところ敵と戦っていた・・・・・・・という意識が相当に薄い。思い返せば、俺の対人戦はどれもこれも『一緒に遊び倒した』という感想が相応しいものばかりだ。


 だからこそ囲炉裏との真剣試合マジバトル前に、あれだけビビってしまったのだろう。


「――――……とまあ、そんな訳で一応お気持ちはわかりますよ。あ、対人戦に限った話であって、エネミー相手ならフェイバリットですけどね?」


「……そう…………ですね。はい、ですので、そういうことです」


「え、どういうことです?」


 つらつらと己の主観を語ってみれば、締めに至り納得したように頷いたお師匠様。しかし俺は話の流れが上手く掴めず、首を傾げて聞き返す。


 師弟として通じ合うものは確かにあるが、ある意味で最も心の読めない御方。それゆえ師の心を知るため、彼女に対しては他の誰よりも質問が多くなりがちだ。


 毎度毎度あまりにも素直直球な質問を重ねるため、一度「子供みたいですね」と微笑ましげに揶揄われ恥ずかしい思いをしたことも……と、それはさておき。


「結局は視点の問題――――と、ハル君を見て気付かされました。映像で、何度も何度も見る貴方の顔は……とても、勝負事に臨んでいる者の顔には見えなくて」


「何度も何度も見られていることに羞恥を覚えればいいのか、なんか俺よりも俺のことを理解していらっしゃるのではという可能性に羞恥を覚えればいいのか」


「そうして、思うようになったんです。ハル君はきっと競い合っているつもりではなく、一緒になって遊んでいるだけなのだなと……難しく考えず、伸び伸びと。そしてそれゆえに、貴方は誰より笑顔のまま飛躍していくのだなと」


「真偽はともかく、なんかそれ見方を変えるとナチュラル戦闘狂では……」


 ともあれ、話の流れは大体わかった。だからこそ多少なり畏れ多いと思わなくもないが、つまるところ彼女はこう言いたいのだろう。


「弟子を取るのと、同じことですね――――せっかく試合えるモノを振るうのならば、誰かと交えなければ勿体ない。一人では見えない景色が、必ずある」


 一つ、息を繋ぎ、


「そして自ら、今度こそ〝それ〟を望み臨むべく足を踏み出すのならば……心と共に、身なり・・・も整えなければ失礼に当たると思い改めました」


 いつも通りに、いつも以上に。


 迷いなく言葉を紡ぐ彼女の横顔は、月夜に凛と輝いて見えて。


望むんです・・・・・?」


「えぇ、望みます・・・・――――貴方の、貴方たちのせいですよ?」


 竹林を擦り抜けて、辿り着いた門の前。


 閉められた扉を片手でそっと押し開きながら、こちらを振り向いた【剣聖】は、


「とても、とても楽しそうで……私も、其処へ行きたくなってしまったんです」


 まるで「仲間に入れて」と言う子供のように、照れ臭そうに微笑んでいた。






それはきっと、とてもお綺麗なのだろうなと。

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― 新着の感想 ―
すんごいくだらんこと言いますが読んでて思ったんすよ 弟子が『曲芸師』なら師は『極芸師』だなぁって
あけおめ 年末年始読めてなかったけど、こんな、こんなニヨニヨ話を読まずに年越してたの後悔してる 電車内でニヤついてる怪しい人になったんだが 責任取ってほしい
つまる所ガチンコ宣言、次回四柱とカラード攻略は本気仕様で出てくるのかぁ。 四柱は姫様も積極的だし、そうしないとバランス取れないよね(なお一般的逸般人の阿鼻叫喚)。 ハルのスタンスは最初から「楽しそ…
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