一方その頃、罪ふたつ
「――――……と、なんか出逢いに恵まれない男性代表の慟哭みたいな叫びが聞こえてきた訳だけど、そこんとこソラちゃん的にはぶっちゃけどうなの?」
「なんの話ですか……!?」
「…………無理にとは言わないけど、ちょっと私も聞いてみたい」
「リィナちゃんまでっ……!? ですから、一体なんの……!」
騒ぎからほど近い東の卓――から、少々離れた分卓にて。さあそれでは乙女の内緒話だとばかりに連行された少女が一人、少々女二人に包囲されていた。
数ヶ月の会うたび積極的な付き合いをもって、積み上げた親密度はそれなりに。ついで宴の席は無礼講という免罪符もあれば、一度噴出した問いは止まらない。
「えー、わかってるくせにぃ」
「お兄さん、男女問わず人気者だから」
「キャラ的にも仕方ないってか理解るっちゃわかるんだけどさー? 目を向けられるだけの結果出し過ぎ案件もある訳だから残当ってか」
「でも、正直なところ」
「ソラちゃん的には……というか、真剣目にアプローチしてる側としては」
「どうしても、思う所があるんじゃないかなって」
「一応? それなりに? お節介な心配をしてるんだなぁこれが」
「交互に喋らないで……! 畳み掛けられてるみたいで怖いですっ……!」
そんなこんなで、離れ小島。
離れた席から呆れたように『一体なにをやっているんだ』と視線を向けてくる裃姿の青年に『こっち見んな』と威嚇するミィナのみならず、こういった話には意外と積極性を見せるリィナも止まる様子は見受けられず。
更に、ある意味では現在のイスティアにおける『序列持ちよりもレアキャラ』を体現する少女が、序列持ちの中でも目立って人気を集める双子(双子じゃない)にピタッとじゃれつかれている様は文字通り注目の的。
戦闘能力だけではなく礼儀作法までも上澄みたる精鋭プレイヤーたちからは、別に堂々無粋な視線が飛んで来ることはない。けれども、チラチラ程度は止められるものでも咎められるものでもないだろう。
ゆえに、世間より『天秤の乙女』だの『千刃の巫女』だの『金色の天使』だのと呼ばれているらしい少女は、ただただ羞恥に頬を染め上げるまま――――
「っ……、…………」
言われるでもなく彼女たちへの『借り』を思い浮かべ、加えて「心配をしてる」という冗談ではないのだろう言葉を併せ、律儀に自らの逃げ道を塞いだ末。
「………………………………――わ」
「「わ?」」
零れ落ちた声ともつかない音を聞き、片や『勝った』とニマり顔。片や『勝った』と無表情で、更にピタリと両脇へ引っ付いた少女たちから顔を逸らしつつ。
ソラは、
「わた、しも…………言ってしまえば、その内の一人、ですし……?」
「「ほう」」
「す――……こ、好意を寄せてしまう人の気持ちは、わかりますし。好意を持たせてしまう性質も、そういうところを、す――あの、それです、し……?」
「「ふむ」」
「あの、だから……す、好かれるなって言うのも、変な話でしょう? ハルは別に、言動だけ取れば、意識的にも無意識的にも他人を口説くような振る舞いは…………その、少なくとも、最近は。してる訳じゃ、ないですし」
「「うーん」」
「し、してる訳じゃないんですよ……! ただ状況とか、積み重なったイメージとかで、人によっては輝いて見えてしまうだけ、というか、そう思うというか」
「「まあ」」
「だから、だから……あ、の」
ぽつりぽつりと、途切れながら。しかし結構な分量を一生懸命に言い連ね、
晒している肌の全てを朱に染めるような勢いで。頭の上からシュゥと、いつぶりかほんのり湯気を出しながら。
「私は、別に、大丈夫なので…………いえ、大丈夫と言いますか……」
「「…………」」
無言の催促から、羞恥の熱で潤む瞳を必死に逃がしながら。
「そ、そのままでいて欲しい、ので」
すぅと短く息を吸い、
「…………ちゃんと隣で、捕まえてるから、大丈夫なんです」
一秒、二秒、三秒……四、五、六と、時を刻んで。
「お、おぉぅ…………」
「わぁ……」
思いの外というレベルではない高威力の惚気を極至近距離から叩きつけられたミィナとリィナが、思わず頬を染めつつ慄く声を聴いて力尽き――
両手で顔を覆い隠しながら、分卓にて無事撃沈した。
◇◆◇◆◇
「――――……って、なんか出逢いに恵まれない男代表のしんどい叫びが聞こえてきたけど、そこんとこ姫的には正直どうなのよ?」
騒ぎからほど近い南の卓。招待客の一人が北へ移り、もう一人が「ではそろそろ俺も……」と言ってそそくさ去り、身内だけとなった宴の席。なぜか普段に増して無口な〝主〟へ、人見知り対象が消えた【糸巻】が問いを投げる。
直球の言葉選びは彼女自身の性格が半分、もう半分は〝恋〟に関する己の事情を隠そうとしない『お姫様』のスタンスに対する信頼から来るもの。
然して、同性だけでなく異性も同席する場にて。
急に話を振られたアイリスはガーネットの瞳をパチパチと瞬かせた後……しかし、心ここにあらず上の空に見えて周囲の状況はしっかり把握していたのだろう。
更にはナツメが言葉に籠めた、どこぞの二人組と似たような思惑あるいは気遣い心配その他諸々を余すことなく正確に読み取った上で、答える。
「どう、と言われても困る」
言葉だけ聞けば、はぐらかしが続いても不思議ではないもの。けれども無敵のお姫様は、誰も口を挟めない淡々とした速度で、間を置かず、当然のように、
「私が、好きになった人だもの」
堂々と――――まさしく、王たる振る舞いにて。
「世界の誰より魅力的な人が、沢山の好意を集めてしまうのは、当然でしょう?」
「「「「「「「うーっわぁ…………」」」」」」」
ド直球の惚気を打ち返し、場の全員を問答無用で圧倒してみせた。
一方その頃「四桁の人混みは流石に無理」と招待を辞退した引き籠もり。
代わりに約束したデートを妄想しながら優雅に長風呂を堪能中。
 




