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アルカディア ~サービス開始から三年、今更始める仮想世界攻略~  作者: 壬裕 祐
尊き君に愛を謳う、遠き君に哀を詠う 第一節
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卓の傍ら

「なっちゃん、いつまで緊張してるの?」


「べ、別に、緊張とかしてないし……」


 と、わいのわいのじゃれついている男性陣を他所に、なっちゃん先輩の更に向こう側から揶揄うような声が上がる。〝鉄〟を通した乙女のソレは――――


「……本当に、ずっとフル装備なんすね」


「まあね。困ることもないから」


 相も変わらずのフルプレ完全防備状態で卓につく、他ならぬ【騎士】殿だ。言葉通り『困ることはない』らしく、兜をしたまま杯を傾けていらっしゃる。


「……?…………???」


「こら、そんなにジッと見つめられると恥ずかしいよ」


「いや、あの、はい……」


 なにあれ、どうなってんの。口元だけ開いているとかではなく、()()()()食べ物と飲み物が消えてくんだけど。マジファンタジー。


 誰も素顔を見たことがないというのも、この分だと正真正銘ガチな模様。


「――――っと、これはこれは。お客さんが来てたんだ」


 咎められつつも目を離せない不思議な光景をしげしげと見つめていると、今度は後ろから声が掛かる。振り向けば、そこに立っていたのは細長い青。


「っ……あ、ども。お邪魔してます」


「いらっしゃい王子様。昨日はおつかれ」


「誰も彼も王子様それは勘弁してくれませんかねぇ……」


 戦場で相対し見聞きしたものから、五割増しで穏やかな表情と声音。卓に不在だった【足長】ことレコード氏は、これまで一体どこにいたのやら――――


「……出た遅刻魔」


「マイペース星人」


 その答えは、スリーマンセルを組んでいた女性陣二人から齎された。どこにいたというか、そもそも会場に来ていなかったらしい。


 すぐ背後かつ高身長ってか超身長。現実なら速攻で首が痛くなるであろう体勢で見上げる先、レコード氏は人の良さそうな笑みを浮かべて、


「妻子持ちは忙しいんだよ、勘弁してほしいね」


「あ、へぇ、ご家族が――――」


「「それ嘘・・・」」


「は? ……へ?」


 極自然に言い放った言葉へ、なっちゃん先輩&アイカさんより即座のツッコミが飛来。ポカンと呆ける俺を眺めて、彼は実に人が良さそうに笑う。


「……そいつ普段は嘘つき魔法士・・・・・・だから。揶揄われないように気を付けなさい」


「嘘つきというか、適当というか。賢しい顔してお梅より余程自由人だよ」


「は、はぁ」


 なる、ほど……? どちらかと言えば、アイカさんの言葉がそれっぽいのだろうか。ノリと空気でコロコロと言っていることが変わる適当星人は人生で何度か見かけたが、ここまで違和感なく誠実な空気感でソレをやる人は初めてだ。


 てか、そんなのネットに落ちてるプロフィールには書いてなかったぞ。


「はは、ごめんね。まあキャラ付けとでも思ってくれたらいいよ」


「それ自分で言っちゃうんすか……」


「別に悪意はないから。癖みたいなもので」


「どんな傍迷惑な癖よ……」


 と、呆れ混じりの愚痴がお隣さんからポロリ。はい察した、おそらくは彼の軽口に過去さんざっぱら揶揄われたのだろう。その光景がありありと目に浮かぶ。


「さておき、どうぞ仲良くしよう。ハルでいいかな?」


「あ、はい。王子様以外ならなんでも」


 差し出された手を掴まぬ理由はなく、握手に応じればまた笑顔。


 基本的には穏やかでいい人なのだろう。少々おかしな癖持ちというだけで……それも別の意味で癖つよだらけな序列持ちの中で、際立っているとは言えないか。




 ――――さて。そしたらそろそろ、最初からずっっっっっっっっっっと気になっていたことを、お伺いしてもよろしいかな?



「えーと……それはマジ寝・・・なの?」



「え? あぁ、マジ寝だね」


「姫二号こと眠り姫だからな」


「正真正銘ぐっすりだよ」


「どうせ騒いでも起こそうとしても起きないわよ」


「彼女の眠りを妨げられたら大したものだね」


「正直、こっちの方が余程の問題児だと思うんだ」


 とは、カナタとのお喋りに夢中なお梅さんを除いた南の序列持ちマシンガン。


 ()()()()()()()()()()()()()。そっちもそっちで気になる終始無言のアーシェが腰掛けているソレの中心にいるのは、ネグリジェめいた衣装の少女が一人。


 長い長い淡紫色の髪。瞳は閉じられており色彩はわからず。あどけない寝顔のせいだろうか、ウチのミナリナよりも幼く見える彼女こそが……。


 【城主】メイ。南陣営の序列第三位にして、非公式魂依器ランキング防具カテゴリ不動の一位である【白亜と黒樹と御伽の城フェアリィ・テイル】の主なのだろう。


 先の様子見スタンスを出し抜いた件は別として。本気を出した場合の【騎士】殿と並び……()()()俺の脚を止められると思しき、二人目の守護者である。


「うーん…………挨拶は、お目覚めになったらでよろしいのかね」


「……別に、いいんじゃない。起きないと思うけど」


 いまだ俺に対して人見知っている先輩殿のお言葉通り、無限に『すよすよ』が続くだろうと確信が持ててしまうような気持のいい熟睡っぷりでいらっしゃる。


 ここまで届く盛大な祭りの喧騒もどこ吹く風とばかり、平穏の体現。


「ふむ…………ふぅむ」


 成程、やはり。


 序列持ちってやつは、どの陣営の誰しもが癖つよ人物ってな訳らしい。






なお自分も含む。

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― 新着の感想 ―
>口元だけ開いているとかではなく、兜越しに食べ物と飲み物が消えてく 本来ならこの上なくゲーム的表現・描写なんだけどね。
確かアルカデイアの中で寝ると超快眠できるっていう設定があった気がするし、時の流れがリアルより早いから絶対睡眠目的で始めたでしょうこの人・・・いや、もしやアルカデイアのせいで睡眠の虜に変化したとか・・・…
2024/12/24 20:28 エトゥラナリラ
もう称号も王子様関連に変えてしまいましょうよ 寝るのが好きな人なら魂依器は夢に関連しそうだな・・・
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