打ち上げ(特大)
前回の四柱、そして『白座』の討滅戦後。他にはワールドイベント【星空の棲まう楽園】などを経て、なんだかんだと仮想世界での〝宴〟は幾度か経験している。
ゆえに数百人規模からなる大人数でのどんちゃん騒ぎにも、多少なりは慣れ始めていた――――と、それは事実ではあるのだが……。
「この規模は、もう流石に『打ち上げ』ってレベルじゃないよな……」
「お、お祭り、ですよね……」
日暮れて夜。疲れているものと気を遣ってくれたのだろう、夕方になってから電話をくれたパートナー様を当然の如く招待して、足を運んだのは『城』――
ではなく、街。円の外こと『アウトサイド』に築かれた、近日公開予定【フロンティア】の地。第十一回四柱戦争、一日遅れの後夜祭の舞台である。
そりゃまあ当然だ。いくら各陣営の『城』が巨大とはいえ、広大なエントランスにも流石に千人弱の人員なんか収まるはずもない。
三陣営×三百人に加えて、各序列持ち&招待客を併せてザッと九百人オーバーの大所帯。屋外にズラリと並んだ無数の大卓を埋め尽くす人の波は、出店が立ち並ぶリアルの祭りと光景をほぼ同じくするギュウ詰め具合。
流石に呆気に取られる俺の口から零れた言葉に、隣のソラさんが同じく零した言葉が正しくといった感じである。例によって一般勢と序列持ちとで別席が設けられてはいるが、人の熱気が過ぎて境界などあってないようなもの。
開始数分にして……というか、ソラを連れて時間ピッタリに馳せ参じた俺が数分前に到着したというだけで、もうずっと前から始まっていたのではなかろうか。
そこかしこで既に馬鹿な催しが始まっており、笑えるくらいの阿鼻叫喚模様だ。
勝者も敗者もなく、ただ皆が健闘を称え合いながら、過去一で混沌を極めた戦を思い返して賑やかに語らっている――――実に平和で、誠に結構。
さて、そしたらまあ……。
「ソラ、早速ちょっと離れるけど大丈夫?」
先程から散々に降り注いでいる視線へ、応えぬ訳にもいくまいってなことで。隣の相棒、もとい三人組の方へ目をやり訊ねてみると――――
「まーた保護者面してるよ、このお兄さん。さっさと顔貸してきなって」
「ボディーガードは任せて」
いち早い答えは当然の権利とばかりソラにまとわりついている、小っこいのどもから齎された。で、あーはいはいと適当に流しつつ本人からの答えも求めれば、
「あの、はい。ミィナちゃんたちと一緒にいますから、お気になさらず」
こちらもこちらで、宴の席は三回目。多少なりと慣れれば少女らしからぬ度胸を発揮するソラさんだ、まあ心配いらないだろう。
強がりでもなくフニャと笑んだ相棒に笑み返しつつ「では」と手を上げ、脚を向けるは『序列持ち』が集う席の方。東陣営、ではなく……。
「――――やぁ、ようやく来たかい王子様」
「王子様は禁止って言ったでしょ、お梅さん」
さぁ来い、早く来い、こっちへ来いと、俺が会場に来た瞬間から熱烈な招待の視線を送って来ていた、他でもない南陣営の上席だ。
と、いうことで。
「〝表〟の顔で改めて。【曲芸師】ハル、お初にお目に掛か――――」
堂々挨拶……――を、しようとしたところ。口上半ばでガッと首根っこを掴まれドシャリと席の一つへ強制招待。犯人は誰かと言えば、勿論のこと。
「どつき合った仲だろう? 今更かったるいのはいらないよ」
見た目にそぐわぬ豪快を体現する【女傑】殿である。
……で、それはまあ別にいいってか嫌いじゃないんだが。
「な、なんで隣なのっ……!」
「俺に言われましても……」
長椅子の端っこに叩き込まれただけなのだが、俺の意思を介さず至近になってしまった先輩殿がビクッと肩を跳ねさせて文句を言いつつ横スライド。
はて、【糸巻】ことナツメさんがメチャクチャ警戒の目で俺を睨んでいる件について。戦場では一杯食わせた側だが、もしや嫌われてしまっただろうか――
「――――あ、ハル。気にしないでいいよ、なっちゃん人見知りなだけだから」
「そうそう。あんまり構わず放っとけば、人がいい奴には割とすぐ懐くぜ」
「まんま猫だからね、それもチョロい子猫。ハル君なら一発でしょう」
「はっ、な、はぁ!? ちょ、はぁッ!!?」
なんて些細な危惧を吹き散らしたのは、誰あろう【重戦車】【剛断】【全自動】の友人知人三人衆による爆速ネタバラしめいた身内弄り。
チビチビやっていたマグカップをテーブルに叩き付けながら立ち上がったナツメちゃ……ナツメさんがキレ散らかしているが、横顔を盗み見て大体察した。
なるほど、そういう感じね。
そしたら、なっちゃん先輩はヨシとして。とりあえずそろそろ声を掛けてやるとするか――――流石にちょっと、可哀想になってきたから。
「ようカナタ、調子どうよ。しっかり休めたか?」
「ぼ、ぼちぼちです……」
一般勢のどんちゃん騒ぎに紛れるでもなく、半身内判定で東の十席にお呼ばれするでもなく、何故か南の卓に囚われ縮こまっていた後輩君に目を向ける。
こちらに関しても、大体の事情を察することは容易い。グワッと俺を席に放り込んだ後、お梅さんが当然とばかりカナタの隣に腰を下ろしたところを見るに……ついでに、その距離の近さを見るに、おそらくはそういうこと。
「ウチの後輩がお気に召しました?」
「あれだけ見事にしてやられたらね。カナタは見込みがある、大事に鍛えなよ」
「そりゃもう、我らが期待の新星ですので」
十中八九、お梅さんに拉致されたってな具合だろう。
「まあとにかく、アンタは武装諸々を早急になんとかすべきだね。魂依器は文句なしとして、得物が……悪くはないが、ちと足りない」
「そ、うでしょうか……アレも一応、グレード的には30越えなんですが……」
「んなもんで私の守りを抜ける訳ないだろう。さっさと見合ったモノを見つけな」
「見合っ……えと、評価していただけるのは、大変ありがたいのですが」
「しっかし、戦場ん時と比べても一層に腰が低いね。そういうギャップも嫌いじゃないけど、ギラついてたアンタの方が私は好みだよ」
「そ、あの、きょ、恐縮で」
「それはそうと、アンタがチラッと使った例の短刀はカグラの――――」
「…………ふむ」
仲がいいようでなによりだ。
しかしカナタ君、美人さんにメチャクチャ至近距離で絡まれてるってのに恐縮するばかりで照れる素振りを見せないな。やりおる――――
「ほら見なオーリン。ああいう顔してるとき、ハルは大抵アホなこと考えてるよ」
「ほーん。例えば?」
「普段オーリンが考えてるようなこと」
「なんだとユニこの野郎」
「あっはは」
「あははじゃねえんだよ腹黒メガネ」
………………知ってはいたけど、南陣営も仲いいな。良きかな。
そして隣でドギマギし続けている人見知り子猫先輩。




