開戦を経て開戦に至り
――――――然して、一時間後。
いやほんと、怒涛の開幕劇に勝るとも劣らない大騒ぎでランナー業は終始しっちゃかめっちゃかだった。あれ以降は南北の序列持ちが迷路へ出てくることはなかったが、四柱の『柱』倒しは二周目からが本番。
スイスイと駆け回りポッキポキ戦果を積み上げられるのは開戦直後限定であり、部隊の展開が済んだ後はどこもかしこも敵だらけ。カナタと二人、そりゃもう各所でヒイヒイ言わされたもんだが……ま、その分だけ見所は提供できたことだろう。
結局は囲炉裏やゲンさんも呼び戻し、表へ出る特記戦力+αは俺たち二人だけ。東陣営の役者が変わり映えしなかったのは申し訳ない限りではあるものの、本気で勝つためには致し方なしってことで転身体の顔に免じて許してほしい。
更に、加えて言えば……――――
「なるほど、これこそが地獄絵図ってやつか」
「とは言いつつ、震えもしてねえじゃねえか。成長したもんだな坊主」
こっから先。まず間違いなくアルカディア史上最高レベルの〝大戦争〟を披露することになるゆえ、どうぞご期待あれってな具合である。
場所は東の戦時拠点ルヴァレスト前。〝機〟を察して序列持ち一般枠問わず集った全てのメンバーの先頭にて、言葉を交わすは二位と四位。
そしてその視線の先に広がるは、人の壁――――即ち、早々に意思を固めた東陣営の迎え撃つ姿勢を察して堂々と正面から乗り込んできた南北レイド。
目算総勢…………さて、何人かな。パッと見なんか沢山いるってくらいしかわっかんねえや、三百か四百か五百かその辺じゃねえの知らんけど。
で、あちらさんの先頭におわすのは、その数百人構成のド級オーバーレイドが放つ圧に勝るとも劣らない存在感を放つ青銀が一人。
「「笑ってんなぁ……」」
親しい者なら読み取れるだろう。ご機嫌な微笑みで、いつもの無表情を僅かに染めた『お姫様』……はは、困ったことに内心が余すことなく見透かせてしまう。
あんにゃろう、一ミリたりとも負けると思ってねぇ。
「さぁて……どうなることやらって感じだが、どうとでもなりやがれって感じでもある。まだセオリーもなにもなかった初期の頃を思い出すぜ」
「一周回って原点回帰な。あるある、そういうの」
「問題なのは、あの頃とは個人個人の力のデカさが比べもんになんねえってことだ。正直まともな戦いになるかわかんねえぞ、いろんな意味でな」
「全員が一斉に大技ぶっぱして、そして誰もいなくなったとか?」
「笑いごとじゃねえんだよ、全然あるわ」
「そしたら、第十一回四柱戦争は屈指のギャグ回として語り継がれるだろうな」
「…………それはそれで、アリか?」
「いいんじゃね? 楽しければ、なんでもさ」
待ち構えるイスティアは当然として、ソートアルムもノルタリアも動かない。先頭にいる旗頭ことアーシェを始め、その背に控える錚々たる顔ぶれも同じく。
【城主】と【女傑】の二名を除く南の八名、そして【大虎】を除いた北の五名を合わせた計十三名。いまだ言葉を交わしたことのない者を含む序列持ちの並びは、ただただ恐怖の一言というか腹の底から変な笑いが漏れてくる。
だって、なぁ?
俺ら、今からアレに真正面からケンカ売るんだぜ。無謀過ぎてウケる。
しかしながら、だからこそ。
「少なくとも、俺は今ぶっちゃけちょっと楽しみだ」
「………………」
「ニヤけた笑みが漏れてるぞ【総大将】」
「うるせぇ放っとけ――――おうコラ、気合入れろよ鉄砲玉。お前さんがちゃちい拳銃になるか大砲になるかで、ほぼ全部が決まるんだからな?」
「あーハイハイわかってるっつうの――――こんだけメチャンコ期待の視線を背負わされて失敗したら、後世まで語り継がれるピエロ決定だな畜生め」
それもまた、転身体に免じて云々かんぬん。
然らば、
「ハル」
「うっす」
「期待してるぜ、我らが特攻隊長」
「プレッシャー追い打ちは心底やめとけ?」
冗談キツい冗談を交わしつつ。先頭から更に一歩を、ただ一人で踏み出す。
向かう先は真っ直ぐ前へ。
行く手で微笑むは、今やよくよくよくよく見知った美貌の姫君――ほんと、笑いが止まんねえ。この世に、この一歩に勝る死への歩みがあるだろうか。
いや、ない。だからこそ、代えがたい。
「ぃよーし……――――――そしたら、行くぞアーシェ。並びに先輩方」
いまだ彼我の距離は遠く、声は届かなければ返答もない。しかしながら、確かに意思を受け取ったらしき若干一名の楽しげな顔に苦笑いを嚙みつつ、
〝想起〟――――抜刀【早緑月】。
意気や良し。コンディションは十全。得物に少々の気掛かりはあるが、俺が気にしすぎなだけで師が鍛えた刀は不足なく研ぎ澄まされているはずだ。
ならばこの一歩に不足はなく、ならばこの一刀に言い訳は利かない。
右の順手、左の逆手、腰を落として踏み込みの構え。
刃には青き《水属性付与》の光。
刀を握る両手両腕には黒糸の補強。
白髪に纏うは決死の紅。
外転出力『廻』臨界収斂。
それが一番盛り上がると見て、開戦の一手を見守ってくれるというのだろう。敵も味方も愉快なほど静まり返った舞台のド真ん中……。
ゆえに、観客の数もまた十二分。
んじゃまあ、いつかのように今一度――――――見さらせや世界。
「【四凮一刀】……結の太刀」
結い交えるは、颯と涓。そしてこの身に培った数多の力。
さぁ、誰でもいい。止められるもんなら――――
「《晴嵐》」
止めてみろよ。
吹くは一陣の春嵐。




