Ⅲ ≧ Ⅰ?
改めて根本の話。俺たちは『序列称号保持者』の名を同じくするといえども、各陣営ごと基本的には秀でている部分が異なると言われている。
例えば北陣営ノルタリア。ここは対エネミーに特化した力を持つ者が多く祭り上げられる傾向にあり、戦闘三陣営の中では最も対人能力が低い。
トラ吉&マルⅡの対人好き師弟なんかは例外であり、能力如何を差し置いてもPvPをハッキリ『苦手』としているプレイヤーもチラホラいるようだ。リンネも能力とセンスには恵まれているが、別に好んではいないと本人談。
次に南陣営ソートアルム。ここは対エネミーも対プレイヤーもこなす応用力に富み、かつ何かしら『パーティでの連携』にて輝く特殊能力を擁した者ばかり。
流石は『富裕』にして『協調』の陣営というか、序列持ちだけの話ではなく『レイド』と言えばソートアルムというくらいに大規模戦闘での実績が多い。
若干一名、コンセプトを逸した〝究極の一〟が存在する件は置いておこう。
更に非戦闘陣営ことヴェストールも置いといて……――残る一つ。
東陣営イスティア。戦闘系三陣営序列持ちで最も称号を叙されるためのハードルが高いと言われる我が陣営の特色は……『個にして完成した戦力』だ。
ぶっちゃけた話、世間の評判をそのまま述べれば単純戦闘力は『南北序列持ち<東序列持ち』という認識が常。実際に多くの場合ウチの先輩方は、一対一なら多少の相性不利は覆してでも他陣営序列持ちから勝ちを捥ぎ取る力があるだろう。
で、今や自覚をもって宣わせてもらうが、それは俺もまた然り。
対エネミーやレイド貢献度など、広い視野では俺を上回る方々などそりゃもう大量にいらっしゃる。しかし、こと一対一での単純戦闘力を比べると相当な上位に入ってしまうってのは……畏れ多いが、もはや事実。
流石に堂々と口にするのは生意気どころの話ではないので憚られるが、今の俺は正直タイマンなら大概の相手に負けるつもりはない。
同東陣営の先輩。そして格別のトップツーたる【剣聖】及び【剣ノ女王】を除けば、現在のところ俺の対人レートは恥ずかしながら最上位帯という訳だ。
――――さて。
それではそんな事情を踏まえて、声を大にして言わせてもらおうか?
はい、せーの!
「三人がかりは無理ですぅッッッ!!!!!!!!!!」
いや、二人でも無理だっつの。
1+1=∞なんて連携可能なゲームの常識だぞ? 『まあ一応タイマンなら大体は勝てるかな』程度の実力差で、人数の差を覆せる訳ないだろッ‼
目を凝らさなければ捉えることも難しい〝糸〟が舞い寄る。
俺の魔法より遥かに熟達した〝水〟が弾け迫る。
そして、
「無理と言いつつ、随分と楽しそうに踊ってるよ――――ねッ‼」
「必……――ッ死に、逃げ惑ってるだけですわっつの!!!」
目を逸らせず、逸らす意味もない、不倒の〝盾〟が追い詰める。
知識はある。十二分にリサーチはした――――しかし、威光を眺めるだけでは知り尽くせないのが『序列持ち』の高みというものか。
押せど弾けど決して膝を折らず、俺の速度域に対応してのけている目前の【騎士】様だけでなく、一人残らず厄介が過ぎる……!
剣ではなく、盾による突貫。またしても目の前へ忽然と現れた敵を避け得ず、こちらも咄嗟に【双護の鎖繋鏡】を喚び出し殴り合うも相手が悪過ぎる。
流石は迫真の《盾適性》ツリーを極めているだけはある御仁というか、真に迫れど成り切ることはできない〝全能の腕〟では同じ得物に勝れない。
ダメージは回避したものの呆気なく吹き飛ばされ……――行く手の虚空に殺気を感じ、宙を飛びつつ右手に喚んだ星剣を振るえば確かに〝なにか〟を断つ手応え。
ほぼ不可視の糸。蜘蛛の巣が如く張り巡らされたコレが、俺から『全速機動』の択を奪っている目下最大の障害。簡単に言えば俺の【九重ノ影纏手】が生み出す影糸みたいなもので、迂闊に突っ込んで絡め取られたらジ・エンドだ。
双方とも、まだまだ最大スペックに比して堅実かつ地味な仕事ぶり。
それでも極めて有効を示し俺を苦しめる立ち回りだが、そうして【騎士】と【糸巻】がサポート役に徹しているということは――――つまり、
今まさに俺を詰めんとするアタッカーは、残る【足長】殿という訳だ。
「――――『穿つ水釘、威止める鉤翅』」
俺も抱える魔法の詠唱、しかし唱えるは俺に非ず。
「『廻れ水渦、撚り集え波濤、像なき盾は心意に宿り、容なき刃は現に揺らぐ』」
俺の持たざる、実は『欲しい』と追い求めていたりする魔法の祝詞。
「『静かは露、乱れて雨、荒れ狂い波、来たれ、来たれ、来たれ、来たれ、我が眦は止水の砲口、撃ち果てよ、穿ち見透かせ、其は静謐なる天賜の槍玉』」
そして、ちょっと聞き覚えのないヤバげな長文歌。
耳が拾った、拾いたくなかった〝鍵言〟に続き、紡がれ連なる『唄』が轟々と吹き荒れる魔力を伴い奇跡を世界に映し出す。
そして……――――そして、
――――――穿つ水釘、威止める鉤翅、廻れ水渦、撚り集え波濤、像なき盾は心意に宿り、容なき刃は現に揺らぐ、静かは露、乱れて雨、荒れ狂い波、来たれ、来たれ、来たれ、来たれ、我が眦は止水の砲口、撃ち果てよ、穿ち見透かせ、其は静謐なる天賜の槍玉、穿つ水釘、威止める鉤翅、廻れ水渦、撚り集え波濤、像なき盾は心意に宿り、容なき刃は現に揺らぐ、静かは露、乱れて雨、荒れ狂い波、来たれ、来たれ、来たれ、来たれ、我が眦は止水の砲口、撃ち果てよ、穿ち見透かせ、其は静謐なる天賜の槍玉、穿つ水釘、威止める鉤翅、廻れ水渦、撚り集え波濤、像なき盾は心意に宿り、容なき刃は現に揺らぐ、静かは露、乱れて雨、荒れ狂い波、来たれ、来たれ、来たれ、来たれ、我が眦は止水の砲口、撃ち果てよ、穿ち見透かせ、其は静謐なる天賜の槍玉、穿つ水釘、威止める鉤翅、廻れ――――――
追従する彼ならざる彼の声が、終わりなき唄を奏で続ける。
語手武装【真説:賛歌を噤む枝杖】。
異形の大杖が誇る権能《紡贖の節榑人形》が実現するは……――――主が唱えた魔法を自動で繰り返し終わりなく発言し発現し続ける、異常の狂乱。
浮かぶ水針、波濤の輪、そして激流の大槍。終わりなく、加速度的に増え続け宙を埋め尽くしていく凶器の大群に冷や汗を垂らして呆然とする俺に、
「――――――……さて、どう凌ぐか」
彼、レコードは涼しげな笑みを放つと同時。
「俺たちにも魅せてもらおうか、王子様」
「ちょ、待――――」
情けも容赦も躊躇いもなく、全ての〝水〟を解き放った。
・【真説:賛歌を噤む枝杖】語手武装:大杖
とある者たちに崇められていた意志ある大樹が朽ちた後、唯一腐らず大地に残された一本の大枝。愛を、願いを、祈りを、信仰を、喫み干し続けた樹霊は、ただ唄を求めて世に縋る。芽生えたまえ、与えたまえ、侍りたまえ、呪いたまえ。あぁ、主よ、我が宿主よ、汝の声こそ我であり、我が声こそ汝である。
・謜絃解放《紡贖の節榑人形》
唄を喫む大樹の記憶を開放し、孤歌を合唱と成す第二形態。
詠唱⇒発動の工程を成立させた魔法を『廻唄』としてストック、使用者の負担や技術を一切要求せず杖が魔法を産み続ける。廻唄の詠唱は杖に蓄積された魔力が尽きるまで延々と続き、蓄積魔力の最大容量は『MID:3000相当』と言われている。
いつかカグラさんが言っていた「最初から武器の状態で発見された」アレがコレ。
ちなみに魔法の複数並列起動は『ダブルキャスト』や『トリプルキャスト』と呼ばれる超高等詠唱技術であり、純粋なプレイヤースキルで戦闘中まともに実現できる者は現在のアルカディアには存在しない。つまり結果としてその〝不可能〟を疑似的に実現させるこの大杖は実にテラーアーマメント。
え? ミナリナの大魔法乱射? あれはなんかこう別っていうかアレだから……。
アーシェの《雷霆旋覇》は並列起動ではなく順次発動なのであしからず。




