心快晴、開戦日和
四柱戦争の舞台となる大規模フィールドは、仮想世界唯一の大祭が開かれる度にその様相をガラリと変える。その変化は全体の広さや迷路エリアの構造だけに留まらず、内包する環境にまで及ぶのが通例だ。
時に草原、時に荒地、時に森林、溶岩地帯……また時には、プレイヤーの歩みを絡め取る一面の水路などなどエトセトラ。
正確な名称は存在せず、単に「戦争の舞台」や「戦時フィールド」などと呼ばれるそれは――この世界の住人たち曰く、女神が用意した遊技場。
『彼女』が稀人達のお祭り騒ぎを鑑賞する為だけに創られた、無数の星の輝きにより照らされた異次元空間。
そして天を覆わんばかりに巨大な月の下、雲間に浮かぶ十字の孤島。
少し突いただけで謎に満ちた情報が溢れるその存在は、熱心な考察勢にとっては尽きぬ欲を満たす話題の宝庫―――が、実際にその場へ赴く者達にとって……。
「―――うわぁ……」
「いやー……」
「ナニコレ」
「女神様さぁ……」
場合によっては心の底から「ふざけんな」と叫びたくなるほどに、理不尽な苦難を強いてくる予測不能エリアともなり得る訳で。
「はは、既視感」
「毎度のことだからなぁ」
口々に恒例の文句を零すプレイヤーたちの後方、遅れて『城』から外を覗いた少年と青年が呆れ半分、諦め半分……けれども、もう十度も経験した過去の毎度に比べて楽しげな笑みを交わしながら見やる先。
南陣営戦時拠点こと【騎士の王城-エルファリア-】から続く接続路の奥。ぽっかり口を開けている『迷宮』を埋め尽くすのは、岩の――――否、黒鉄の網。
左右の迷宮壁に架かる無数の『橋』が複雑に交差している様から思い起こされるのは、かの『白座』が座していた窪地へ続く【断崖の空架道】のよう。
「――――は? なにあれ、どうなってんの」
と、先んじた【重戦車】と【剛断】に続き、おかしな光景にツッコミを入れるのは少女らしい甘い声。オーリンの横からヒョコっと顔を出した長い白髪の下から、強気な猫のような黄色い瞳が胡散臭げに『迷宮』を見ていた。
南陣営序列第七位。【糸巻】こと【Natsume】。
「――――破壊不能か否かで、かなり事情が変わりそうですね」
そして、ユニの後ろ。背伸びをするでもなく悠々と状況を観察しながら目を細めているのは、身長二メートルに及ぶ細長い体躯の青髪青眼の青年。
南陣営序列第八位。【足長】こと【Re-cood】。
意匠は違えどナツメは白、レコードは群青の共にローブを纏う魔法士然とした彼らに続いて――――王城から歩み出るは、更に三つの影。
「――――これ、走るの無理でしょ。流石の王子様も全力疾走は封印かな?」
低く染み渡るバリトンボイス。黒の外套、黒いグローブに黒ブーツ。吟遊詩人めいた、これまた真黒な羽根付き帽子を頭に乗せた黒い長髪に黒目の男性。
序列九位。【詩人】こと【八咫】。
「――――我らが姫のフィアンセが、あんなもんで足を止めるかねぇ?」
快活で明瞭な語り口。シスター服に似た布の軽装に自身の体躯及び重量を遥かに超えるだろう大戦鎚という、極めて偏った装備を携える金の長髪に碧眼の女性。
序列十位。【女傑】こと【桜梅桃李】
そして、
「――――むしろ、端から端まで斬り落としながら走ってきそう」
鈴の音が如し乙女の声音に、併せて軋むは無骨な金属の擦過音。アルカディアでは非常に稀有なフルプレートアーマーに頭の先までを包み込んだ、現代において『人の外見』よりも『飾り物』としての認識が先に来るであろう姿。
序列六位。【騎士】こと【Aika】。
いつもの如く『城』の中で待機する【城主】メイ、そして相棒の側へ静かに佇む【全自動】フジ。数えて九つ、南に〝名〟を連なる勇士たち。
大祭に臨む緊張など欠片もなく、ただ自然体で戦場の土を踏んだ彼ら彼女らを……果たして、最後の一つ。他ならぬ〝主〟の静謐な足音が追いかけた。
「――――皆、気を付けてね」
青銀を揺らし、ガーネットを瞬かせ、無表情に。
けれども今、確かに笑むは彼らが仰ぐ『お姫様』。
「一対一で出会ったら、きっと誰もハルには勝てない」
南陣営序列第一位。【剣ノ女王】アイリス。
その身に撚り集うは、絶対の信。
彼女は誤らず、彼女は違えず、彼女は偽りを口にしない。たとえ――――その無表情が恋の熱に浮かれていようとも、臣下たちは疑わない。
ゆえにこそ、
「ッハ、上等……‼」
皆が代弁の如く戦意を示した【女傑】の言葉こそ、南の十席の総意。
「今やマジのバケモンだ。袋にしようがアイツも外野も文句は言わねえだろ」
「どうかな。ハル君は『袋はダメだろ先輩方!!!』とか言いそうだけど」
「あっはは、メッチャ言いそう。空中で乱回転しながらね」
姫の想い人と見知った顔である三人が笑う最中。未だ件の新星と顔を合わす機会のなかった五人、それぞれの心に籠められた熱――その手綱を、
「――――熱意は十二分なようで、なによりです。それでは……」
掬い取るは、女王を演じる【侍女】の怜悧な声音。
「総力を以って、大人げなく攻め落とすとしましょう。今度は我々が勝つ番です」
そんな彼女から、向けられた視線を受け取った姫の――――
「ん……――――沢山、楽しみましょう」
かつては望めなかった言葉に従い、全ての者が高らかに応を唱えた。
新キャラ連打。もちろん一人残らず濃いですよ当たり前だよなぁ?




