仰天動地
ニアお手製のお洋服こと【蒼天六花・白雲】が備える特殊効果、その名も《時を威殺す白兎》の仕組みは言葉にしてしまえば単純なものだ。
ダメージの蓄積保存。
かの【氷守の大精霊 エペル】が誇る『脅威の凍結』の機能縮小版であり、本来ならば能力として成立し得ない不完全なモノ。
なぜ不完全かと言えば、それは大精霊のように『受ける前から』対象の〝威〟を殺すことが出来ず、あくまで『受けた後に』押さえ込むことしか出来ないから。
加えて威殺すことが出来るのはダメージそのものではなく、その時間のみ。
更にはそれも永遠ではなく十二秒だけという、制限だらけの……本来であれば、普通であれば、嬲られながら十二秒間『死』を先送りに出来るというだけのモノ。
しかしながら、仮想世界で唯一その能力を死ぬほど有効活用できる例外がいる。というのも、なにを隠そう《時を威殺す白兎》のダメージ解放アクションは――
自爆ダメージとして再計算された上で放たれるからだ。
「――――ぶべばラァっッッ!!?」
さしもの巨体とて、自前のガチギレ殴り&グリグリストンプを合算した威力と衝撃をモロに喰らえば宙を舞って然り。けれどもそれはあくまで痛み分けの結果。
結局はダメージの放出に巻き込んだというだけであり、基点となった俺も再度アバターを襲う甚大な被害からは逃れられない――ので、緊急手段その二。
《フラッシュ・トラベラー》起動。
こちらも一挙に襲い掛かった衝撃効果によって当然の如く発生した強制硬直に縛られるまま、豪速で吹き飛んだ身体が壁に叩き付けられる直前で掻き消える。
短距離間の空間転移。直前の状況を丸ごと無視して視界の通る先へ身体を置くスキルにより、計六矢ほどを叩き込んだと思しき俺はストンと無事に着地して
「うベッ」
残念ながらデバフまでは踏み倒せず、硬直する身体は巨竜が逆サイドの壁に激突する大振動によってズベシャと床に倒れ込んだ。
締まらねえ、しかし生きている。
今のでHPは綺麗に九割吹き飛んだが、自爆即死の未来は頭上に輝く王冠が呑み込んでくれた――――そう、自爆ダメージ=自傷ダメージ。
《鍍金の道化師》の踏み倒し効果対象である。
……と、いったところで。
「さぁて……」
いくつも切り札を重ねて、一泡吹かせることには成功したようだが、
「こっから、どうすっかねぇ……?」
怒りの雄叫びを上げながら、実に元気よく起き上がる【大財を隠せし土巨竜】のステータスバーを見やる――――その残量は、二十三本フラット。
相も変わらず絶好調意気揚々の様相だ。
体力一割、緊急回避手段は粗方沈黙、右手は強引に道を切り開いた代償で動かずと惨憺たる有様だ。どうせ敵わぬものと、考え無しに手札を切り過ぎたか?
よく言われるからなぁ……『キミは勢いとノリで戦況に応え過ぎだ』と、どこぞの無敵侍に。自覚はしてんだよ余計なお世話だっつうの。
ともあれ、どれだけ手札を雑に切っても絶対数でゴリ押せるのが俺の強み。
「〝繊纏〟」
右の腕輪を起動し、無数の影糸で機能停止した右腕を覆う。身体は動かずとも思考操作によって糸は動くゆえ、武器を引っ付けて雑に振るくらいは問題ない。
しかして遠くに転がっていた槍の方へも影を飛ばし、手繰り寄せれば万事オーケー。意気揚々はお互い様だ、残り四矢を叩き付けるまで――――
「悪いけど、もうちょい付き合ってもら――……おう、か…………?」
はて、今更になって気付く。
反撃が実り、土竜が吹き飛び広間が揺れた。
それはいい、当たり前の現象だ。しかしながら、とっくに体勢を立て直して忌々し気に俺を見つめる奴は今この瞬間、動きを止めているというのに……――
なんか、ずっと揺れてね???
『――――――――――ッ』
「え、ちょ、なにっ……!?」
気付き、戸惑いの声を発したのは、果たしてボスが先か俺が先か。
咄嗟に思い至るのは、正体不明の〝なにか〟が引き起こした開戦のキッカケとなる謎の異常。ゆえに、俺は自然と足元へ視線を向けて――――
その震源が、下ではなく横から迫っているのを察した瞬間。
「――――ぃよいっしょおおおおおおッッッ!!!!!」
緊迫の戦場にそぐわない、極めて無邪気で元気な声音と共に、
「は、お前っ、なんっ!!?」
「おっしゃハー君みーっけぇッ!!! 助 っ 人 に 参 っ た ぞ ー !!!!!」
荒ぶる轟風の矛によって壁面をぶち抜いた【旅人】が、一対一の場に躍り出た。
うん。ひとつ、よろしいか?
助けに来た、それ自体はまあ「なにゆえ」をひとまず置いとくとして――――
「おい、こら……!」
キミが後ろに引き連れている、
「どれが助っ人のつもりだよッ!?」
この上なく激昂していると思しき土巨竜の群れは、なにごとかな?
助っ人(地獄絵図キャリー)
短めですがキリよく許して。
バケモグラ君たちの詳しい生態を進化の過程含めて語ると軽率に二万文字を超える長文説明書になるんだけど、どうしようね。




