求むは宝、欲すは唯一
そもそもの話。
今日こうして招集を掛けたのはノリと流れから生じた突発案件とはいえ、此処へ足を運ぶことを元より『予定』としていたのは何故か。
それは二ヶ月前に【九重ノ影纏手】を入手した際、専属細工師殿から「セット効果なくなっちゃったし、指輪も新調しない?」と提案されたのがキッカケ。
つまりは、なんか良さげな宝石見つけて来い(意訳)というオーダーを果たすべく、アレコレ動き出したというのが始まりである。
左の指輪と右の腕輪。二部位セット効果含めトータル補正値MID+100という紛うことなき一線級の『エルエメシリーズ』ではあったが、腕輪が更新されたことでアバターに宿る恩恵は指輪単体の+30まで落ち込んでしまっている。
出会った頃ニアから教わった通り、一部位+30でも一般基準で言えば一級品には違いない――が、今や俺は名実ともに逸般人こと序列持ち。
一般基準の品に甘んじて良いのかと問われたら、答えは勿論NOだ。
と、そんな訳で。
思い立ってからは単純に足を使って探し回ってみたり、すぐさま「世界広過ぎ無理ゲー」という真理に至りネット情報を解禁してみたり、ニアを始め友人知人に目ぼしい宝石素材の当てはないかと尋ねて回ったりしてみたのだが……。
一級品の先を欲するとなれば、その素材となる宝石の元スペックもまた超一級かそれ以上――つまりは、ユニーク品に類するモノが最低限の要求値。
他に類を見ない、それ一つしかないから〝ユニーク〟なのであって、情報がある=発見されている=大体の場合は既に誰かの手に在るということ。
ぶっちゃけ情報を求めてどうにかなる類のアレではなく、だからこそ多くのプレイヤーは皆等しくユニークを求めて世界を歩き回っている訳だ。
結局のところ『短期間に狙って更新を目論むのは難しい』というのが、過去の俺が出した結論。手段を選ばなければ買い取りの呼び掛けを試すという手もあったが、それはなんかこうなんかなぁってな具合で見送った。
そうして、一旦は保留という形で諦めたのがひと月半ほど前のこと。でもって状況が動いたのはつい先日、一週間ほど前のことだ。
――――面白そうなとこ見つけたよー!!!
と、ルクスからメッセージが届いたのは。
鉱物を食すエネミー、そして討伐後に亡骸を残す……かの鉱物系素材の楽園こと【岩食みの大巣窟】に棲まう、岩石蟻たちに酷似した存在が闊歩する秘境エリア。
それだけでも「おっ」と思うのに、場所を聞けば円の外だと言うではないか。
所感ではあるが「少なくとも蟻よりは強かったよ」と序列一位からエリア難易度のお墨付きまであるとなれば、期待せざるを得ないというもの。
ちょっと個人的に考慮すべきことがあり、アクセに限らず『装備』について悩んでいたのでルクスからの報せは渡りに船だった。
ので、近い内。選抜戦が終わった辺りで案内を頼めるかと尋ねたところ「呼んでくれたら当日でも参上するよ!!!」と元気な色よい返事を貰ったため――――
「ねぇハー君。アレなんだと思う? 触っても大丈夫かな?」
「かの【旅人】様が知らないなら俺が知る訳ないだろ。あと目につくもの何でも触ろうとすんな、子供かお前は――触んなって言ったよね!?」
「んえー! いいじゃんちょっとだけー!」
「棘だらけの爆弾めいた謎物体をお試し感覚でつつこうとすんな‼」
言質は既に取ってあるぞと、本日こうして召喚した次第、なのだけども……。
なんかこう、意外というか。
俺とルクスがパーティを組むのは『白座』討滅戦を含め二度目だが、共に〝冒険〟をするのはこれが初。けれどもソラさんは二度のイベントを通してご一緒しているので、自然と慣れた相方へ絡みに行くと思っていた。
けれども、蓋を開けてみれば――
「…………なんか、ルーちゃん死ぬほど懐いてない? なにゆえ?」
「あ、はは……理由は、なんとなくわかりますけどね」
事ある毎に絡んでくるルクスに引っ張られるのは、なぜだか俺ばかり。
あっちへフラフラこっちへフラフラ、目を離せば秒でやらかしそうな問題児を放っておく気にもなれず保護者役をやっているが……背後からの視線が痛い。
ジト目の出所は、主にニア。いつだか三枝さんに惚気ていた通り、基本的にソラとアーシェ以外の人間に嫉妬したりはしないのだが……こう、なんというかね。
やきもちとは少し違う、またかコイツ的な波動を感じるというか。
「ほほーう。理由って?」
「へ? あ、その……ハルってほら、誰が相手でも一生懸命というか」
「一生懸命、ふむ?」
「適当そうな時も、意識して適当そうにしてるだけと言いますか……そういうのって、その、なんとなく伝わるものだと思うので……」
「あー……まあ、あー…………なるほど。面倒そうな顔しつつ律儀に付き合ってくれるから、普段テンションで他を置き去りにしがちなルーちゃんは嬉しい訳だ」
「えと、なのかなって」
「なるほどねー」
「――――なるほどねーじゃないんだよ。本人の三歩後ろで聞こえるように堂々と人間考察を繰り広げるのやめてくださいますか、お嬢様方」
「ねぇねぇハー君」
「お前も少しは気にしろや無敵か貴様。今わりとこっぱずかしい話の対象にされてたんだよ俺たちは。なんなの、目の前の光景しか頭にないの???」
「そーんなのどうでもいいいんだよ! ほら見て見てアレ見てほら‼」
「うおっちょ、引っ張んなコラ……‼」
グイと容赦なく手を引かれてしまうと、STRで負けているのか抵抗が叶わない。ズルズル引き摺られながら再び背後へ目を向ければ――
「ほんと人たらし」
「これに関してはもう、諦めた方が良さそうですね……」
先程までより緩いジト目の藍色、そして諦観を浮かべた琥珀色。
どうやらこの場は許されたらしいが、これ絶対に後でそれぞれのワガママを聞かされるやつだろ俺知ってるぞ。最近は詳しくなってきたんだ、こういうの。
まあ仕方なし、諦めよう。さておき今は切り替えて、目を向けるべきは……。
「…………で、ほんとになんだコレ」
「でっかいねー」
ルクスに引き摺られて辿り着いた先に在ったモノ――――見覚えある黄金色の〝殻〟が幾重にも積み重なって出来ている、輝く異様の山だろう。
へいニアちゃんお仕事頼むぜ。これ is なに。
監視官ムーブをしているも、実のところ転身体の身長はソラさんよりちまっこいため大人に振り回されている子供にしか見えない模様。
あと皆が無限に好き勝手お喋りするもんだから全然お話が進まない。助けて。
なお、主人公が直近で何故『装備』について悩んでいたのか察せた人は超一級アルカディアン。一応「これだろ」って推察可能になる情報は今節で既出だぞ。