特別席にて
「おーおーすげー歓声。やっぱ舞台上と外野じゃ聞こえ方が違うなぁ」
「中は音量絞られてるかんねー」
「それもあるけど、目の前に集中すると周りの音って聞こえなくなるじゃん?」
「そう、なの?」
「いやわっかんねえし。あたしらその次元の武人じゃないので」
「ゴッサンはわかるだろ?」
「うーん」
「え、そこで首傾げる? とりあえず揃って俺をヤベー奴にしようとしてない?」
「いや、流石に全く聞こえなくなりはしねえと思ってよ」
「えぇ……少なくとも、序列持ちはそういうのばっかだと思ってたんだが」
「……例えば、誰?」
「えーと……囲炉裏とか、ゲンさんとか、トラ吉とか――――」
「とら、きち……?」
「だから、それじゃん。戦闘狂ばっかじゃん」
「あとはリンネとかも、わりとそのタイプじゃないか? 意外や意外、虎師弟三人衆の中ではアイツが一番『集中すると周りが見えなくなるタイプ』な気がする」
「虎師弟、三人衆……?」
「お兄さん勘違いしてるのかなんなのか知らないけど、リンちゃん別に虎さんの弟子じゃないからね。虎師弟+美少女一が正しいアレだからね」
「ま、確かにその気はあるな。トラはあれで頭が切れるし、弟子の方も師匠からその辺り受け継いでクレバーだしよ」
「それな。トラの癖に――――ってか、そういや囲炉裏のやつ刀……だよな、折れてるよな。犯人が言うのもなんだけど大丈夫かアレ、試合になんの?」
「大丈夫じゃない? どうせイロリン、女の子が相手だと〝刃〟使わないし」
「刀身が折れても、氷は問題なく出せるはず」
「女子相手だと刃を使わないとは? なんか理由あんの?」
「格好付けてんだろ」
「日和ってる」
「ういちゃん相手のアレみたいなもんでしょ」
「魂依器の方はタフなのに本人の言われよう……と、成程。こうなるのか」
「雛世の対近接は、初動がどっちに転ぶかでパターンが二極化するからな」
「初手の接近を凌いでペースを作れば、有利パターン」
「…………もしやとは思ったけども、お兄さんとの一戦で地味に電池切れてんねアレ。集中はしてるんだろうけど、ガッタガタじゃん」
「ま、あんだけ気張れば流石のアイツも消耗するだろうよ。わざわざデフォルトで起動してる決闘システムを切ってるのもそうだが、選抜戦の醍醐味だぁな」
「四柱戦争仕様」
「前衛組は大変だぁ」
「今回は防衛隊も酷い目に遭いそうな件について」
「 お 兄 さ ん が 原 因 で し ょ お ? ? ? ほんっっっと、もう、無際限に周りのモチベーション上げまくってくれちゃって、ほんっっっと!」
「十中八九、もう『柱』は捨ててフルメンバーで来るだろうからな……いやぁ、今回の戦争は盛り上がるぜぇ? 楽しみだな全く」
「……戦々恐々。ソラちゃんが欲しかった」
「やー、ほら、根本的に対人戦が苦手だから。ご勘弁していただけると」
「ま、無理強いは出来ねえよ。実際、序列持ちですら強制参加って訳じゃねえんだからな。ういもそうだが、本人が望まねえ戦場に引っ張り出すのはナシだ」
「ぶっちゃけソラちゃんが出るとバランス崩壊しそうだし、いいんじゃない? や、ここにも約一名いろんな意味でバランスをぶっ壊してるアレがいるけどさ」
「『対お姫様最終兵器』がなんか言ってら……――いや本当に見えねえ、なんだこれ。そりゃ苦情も来ますわ納得した」
「〝炎〟と〝氷〟が全力でぶつかり合えばねぇ」
「この有様で、どっちも魔法士じゃねえってのが笑えるよな」
「ほんとそれ…………雛さんは半分魔法士みたいなもんなんだろうけど、囲炉裏のやつはマジでなんなんだよ。いや囲炉裏ってか刀。冷静に考えると本当に壊れてんな白霜、武器の能力で成立していい規模の現象じゃねえだろ」
「魂依器ランキング一桁台は伊達じゃない」
「防具カテゴリ六位なぁ……最初に見たときは何の冗談かと思ったけど、確かに氷結能力含めて広い意味での防御性能が頭おかしいからな……」
「ちなみに最近、ソラちゃんの【剣製の円環】が武器カテゴリ三位にランクインした事実は……お兄さん、ご存じかな?」
「は????? マジで???????」
「そんな驚くことかぁ? 妥当だろ妥当、アレこそマジもんの化物魂依器だ。階梯が上がれば一位になるのが目に見えてるぜ」
「いや、わかるけど。世間の目から見てもそこまでか………………ちなみにですが、ウチの星剣は載ってたりする?」
「え、どうだっけ?」
「……記憶にない」
「お前さん、あんまし公の場で派手に魂依器使ってねえだろ。ただでさえ手札が多くて注目が分散してんだ、世間も評価し辛いんだろうよ」
「そ、そう、ですか…………すまねえ相棒」
「んで、これそろそろ決着付きそうだねぇ」
「明らかに押されてる」
「だな。流石にコンディションの差が出たか」
「ハハ、他人事だと思えねえ。集中が鈍った状態で雛さんに対面とか死ぞ」
「アイツもアイツで、着々と苦手を克服し始めてるかんなぁ」
「わざわざ前衛選抜戦に参加してるの、そのためだもんねぇ」
「ファンからの出場熱望と半々」
「それを言うと、お前さんらも熱望されてんだけどな?」
「あたしらが出ても蹂躙しか出来ないんですがそれは」
「なんで二人一組で出る前提なんですか?」
「逆に、二人一組で出る以外の選択肢があるとでも???」
「え、ごめん」
「私もミィナも、一人じゃ戦えない」
「ごめんなさい」
「……っと、決まったな。次は雛世とゲンコツか」
「イロリンざんねーん。ま、トータルでは十分頑張ったんじゃん?」
「謎に超絶上から目線だなコイツ……」
「実際に先輩だもーん!」
「序列は追い越されてるけど、ね」
「戦績では勝ち越してるもーん!!!」
「二対一で、ね」
「終始魔法士のタイマンみたいだったな、面白かったけど…………さて、決勝の方も少し休憩挟んだ後だよな? ちょいと用事があるから失礼するわ」
「おう。観には来るか?」
「勿論。もう一人、来れそうだったら連れてくるよ」
「――――! そ れ は ! ! 期 待 し て て い い ん で す か ! ! ! 」
「いやうるさ。どんだけ懐いてんだよ大好きか」
「おい四位。決勝が終わった後でいい、時間空けとけ」
「オッケー了解。んじゃ一旦失礼をば」
ヒラヒラと手を振り、席を立った青年が転移により去った数秒後。
「え? なんかさも当たり前ってか流れるように約束&フレ録しましたけど」
「まあ、連絡用だろ。用件の方も大体わかるが」
「仲良し?」
「初見同士だぞ誰が仲良しだ。寝惚けたこと言ってんなよ」
一人沈黙を貫いていた者は、ここぞとばかり構い始める三人に鬱陶しそうな反応を隠そうとせず。すべきことはしたとばかり、さっさと転移で姿を消した。
仲良し賑やか観戦席。
そして二重の意味で燃え尽きた囲炉裏君。