白と銀
選手と観客共々の休憩時間となる昼食タイムを終えれば、二日間に亘った東陣営の四柱戦争選抜戦も残すところ準決勝二つと決勝一つの計三試合。
注目カードは当然のこと……というか、俺とテトラ以外の三人が残っている以上は三試合の全てに序列持ちが含まれている訳で、盛り上がりのカードに事欠かない以上どれもこれも観客数が爆発するのは既定路線。
で、インスタンスエリアの空間拡張にも限度があるのだ。
トーナメントが進み並行試合数が減る度に密度を増していた観戦席も、何試合か前より抽選式に切り替わっている。今のタイミングで外に出れば、非当選者たちの嘆きがイスティア街区を埋め尽くしている様を見られるとかなんとか。
いろんな意味で怖いので、堂々たる特権を以って特別席に引き籠もらせてもらうとしよう――と、先輩方と待ち合わせをするでもなく足を運んだ……そこで。
「――――え?」
「――――は?」
対面した俺たちは見知らぬ顔同士、素っ頓狂な声を上げて停止した。
――――片や俺。別に人前へ姿を晒す予定もなし、日課のコツコツ魔力トレーニングにでも励みましょうかねと裏返ったままの転身体。
専属職人殿が魂を籠めて縫い上げた一張羅こと【白桜華織】は、例え隠密外套を纏ったとて隠し切れない『ド派手コスチューム罪』でインベントリに収監中。
気付けば借りっぱなしで更に気付けば正式に譲渡されてしまっていた【シリーズラウンジ No.6】――黒のジャケットワンピース的なアレの上から【隠鼠の外套】を羽織った、全力お忍びスタイル一歩手前の姿だ。
一歩手前。つまり、いついかなる時も軽率に揺れるロングサイドテールを放り出した顔面全開状態……今や見知った者たちで限られる場でもなければ、おいそれと曝け出すのは憚られる爆弾となりつつある顔面である。
――――片やお相手。スラリとした長身に銀色のローブ、しかし内に着ているのは戦士然とした実用一本のバトルウェア。
整った顔立ちに仏頂面、野暮ったいんだかサッパリしてんだか評価に困る目隠れ銀髪ショートヘアに、声音は男女の判断が付かない絶妙なライン。
身に纏った装備品と本人の雰囲気からわかるのは、この場に――……傍から俺たちをニマニマと観察しているゴッサン&ミィナ、その横でスンとしているリィナに混じってなお場違いとは思えないオーラというか情報圧。
然して、互いの次なる一声は全く同じ意味を表すものだった。
「どちら様で……?」
「おい、誰だコイツ」
それぞれの問いが向けられた方向も、また同じく。
ある意味で綺麗にシンクロしている俺たちの反応を見て、いつも通り謎の爆速撃沈を披露した面白オジサンはひとまず置いておき……。
こういう時、頼れる相手は決まっている。無限にニマついている赤いのもスルーして視線で答えを求めれば、素直な良い子は期待通り素直に口を開いた。
「四位と十位」
簡潔が過ぎる短い言葉。この少女が別に無口という訳ではない事実を鑑みれば、端的極まるソレだけで俺たちが勝手に理解するだろうという信頼を感じる――
いや、欠伸してるわリィナさん。ただ面倒臭がっただけだアレ。
……まあ、ともあれ。
「あぁ、それが《転身》ってやつか……あ? そっちが裏でいいんだよな……?」
「成程なるほど……聞いてた以上に、自由な感じだった訳だ」
簡潔かつ端的でも最高効率。しかと答えを齎された俺たちは、またも同時に納得して頷いた末に再びお見合いというシンクロコンボ。
ゴッサンがようわろてはるわ。
さて、そしたら……思いもよらず唐突なエンカウントと相成ったが、ご挨拶といこうかね。勿論、名乗るのは後輩からが筋ってなもんだろう。
「【曲芸師】ハル、お初にお目に掛かります。先輩殿」
名乗りと共に手を差し出せば――――彼、或いは彼女は眠たげな半眼でジロっと俺を観察した後……残念ながら、握手には応じず。
しかし向こうも片手を持ち上げ、掌ではなく手の甲同士をコツンとぶつける。
「【銀幕】ゆらゆら。……こういう奴だ、適当に放っとけ」
そうして名乗りと共に渡されたのは、心底わかりやすい『慣れ合うつもりはねーぞ』アピール。で、それを受け取った俺はと言えば……。
「あいよ。ま、楽しく仲良くやりましょうや」
「話聞いてんのかテメェ」
肝心の名乗りってか、お名前が脱力系すぎて迫力の「は」の字もねえな――などと、ご先達相手に失礼な笑いを噛み殺しつつ。
渾身のスマイルと共に本心からの希望を宣えば、
初見の先輩から無事に威嚇を頂戴して、記念すべき初対面は綺麗に纏まった。
キリよく短め。めでたし。