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アルカディア ~サービス開始から三年、今更始める仮想世界攻略~  作者: 壬裕 祐
桜花一片、無窮の天嵐は影と遊ぶ 第三節
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曲芸師解説中:Part.3

「この詠唱不発したのってカレハー・・・・だよね?」


「そう。そも牽制程度のつもりだったけど、撃たせてすらもらえなかったわ」


「まあ、先輩を目前にして万が一でも掠ったら致命的だし」


「あ、んでこれこれこれっ! イロリンの腕がおかしなことになったとこ!」


「それは《影葉》っていう隠し玉に取っといたスキルだ。直接触れてる相手が起こした行動の向きを、任意方向へ強制的に変えさせるヤベーやつ」


「「はぁ?」」


「え?」


「いやそんな目で見られましても。スキルをデザインしたのは俺ではないので」


「シンプルに壊れじゃーん……で、このアホみたいな踵墜としも例のアレ?」


「だな、貯めといた『外』をぶっ放した結果だ。これ系の体術と組み合わせた技は、似たようなことしてる・・・・・・・・・・リンネからヒントを貰って組んだ」


「あー……ま、確かに『魂依器アニマ』を使って似たようなことしてんね」


「魂依器で実現するようなことを、純粋な技術でやるのはダメでしょ」


「二人してなんだその目は。バケモノを見るような目を向けるんじゃありません」


「……自覚、ない?」


「ある」


「そんで本人性能だけじゃなく装備の方も頭おかしいっていうね……【九重ノ影纏手これ】は知ってたから、別に驚かなかったけどさぁ」


「囲炉裏先輩は初見だから驚いてるね。内緒にしてた甲斐があったかな」


「あぁ、特訓付き合ってくれてマジ助かった」


「影と言えば、テトラ君」


コレ・・と、僕の慎ましい影を一緒にしないでほしいんだけど」


「語手武装が慎ましいとは……」


「アレは〝影〟属性じゃなくて〝闇〟属性だから別」


「なにそれかっけぇ」


「お兄さん、目ぇ輝かせてないで再生速度落として。全然見えないんですケド」


「あ、わり」


「二人とも凄い」


「なんで思考加速もナシで、この次元の近接戦が成立するんだろうね」


「頭ん中どうなってんの?」


「どうなってると言われても、勘と反射が九割というか……」


「残り、一割は?」


「ノリとテンション」


「男子ってほんと、お馬鹿さん」


「僕も含まれるじゃんそれ。一緒にしないで」


「んでー……ハイ出ましたウルトラ鬼畜案件」


「これ、人によっては間違いなくトラウマになるよね」


「仕掛ける人は選ばないとダメ」


「もちろん選ぶぞ。細かいことは気にしないイスティアンとかな」


「囲炉裏先輩は……まあ、大丈夫か」


「むしろ『面白い』とか思ってそうじゃんね、あの戦闘狂」


「しかも普通に耐えやがったからなアイツ……ダメだ、一瞬エフェクトは見えるけど詳細がわからん。緊急用の防護スキルかなんかだろうな……」


 ――――――……


 ――――……


 ――……



「――――さーて来ましたよ〝本番〟が。気合入れて解説してよね」


「あいよ」


 画面の中で俺が刀を抜くと同時、いつからか人の頭を『台』にして映像を鑑賞しているミィナがペシペシと肩を叩いてくる。


 相方に場所を追いやられたリィナはちょこんと右隣に座っており、俺の膝に片手を乗っけて《夢幻ノ天権アンヘルミア》の起動&貸与を継続中。


 逆サイドに体育座りしているテトラを含めて、見事な年下組の包囲網だ。


 頭上の一匹だけならばいざ知らず、わちゃわちゃと少年少女に囲まれている絵面を傍から見れば平和度数はかなりのものだろう。


 なお、全員が仮想世界の頂点に君臨する『序列持ち』であり〝先輩〟である。


 ――――と、暢気なことを考えていたのは十数秒程度。


「はい、お兄さん戻して」


「へいへい」


 見る側に回ればシンプルに「頭おかしいなコイツら」と思える挙動を繰り広げた俺たちを巻き戻し、再びミィナの言う『本番』の冒頭へ。


 そして再生、巻き戻しを数度繰り返し……。


「…………見えない」


「あー、ダメですね無理ですね。とりあえず十倍くらいでお願いしまーす」


「……もう、二十倍くらいにしといた方がいいんじゃないの」


 んじゃ、間を取って十五倍スロー再生で。


 思考操作でツマミを弄れば、霞むようにしか姿が映っていなかった俺と囲炉裏がハッキリとスクリーンに映し出された。


 はてさて……アルカディアの映像記録のヤベーところ。いくらスロー倍率を引き上げようともコマが荒くなったり紙芝居と化すことがないため、1/15の速度で動く俺たちの動きも極めて滑らかで視認性抜群――――


「……早い」


「「やっぱ三十倍で」」


「はいはい……」


 ……オーダーに従いスロー倍率をさらに引き上げ、またまたまた冒頭へ。


 しかして、流石によく見えるようになったのだろう。十秒、二十秒と、三人はそれぞれ黙りこくって真剣に映像を見つめ……――手を上げたのは、リィナから。


 質問に答えるために頭の中で停止ボタンを叩けば、スクリーンに映し出されているのは俺が囲炉裏の…………四の太刀、だっけ?


 《ウシミツ》とかなんとかいう技を、咄嗟に【早緑月】で受けたシーンだった。


「ここ、白い刀を受けてる・・・・


「あ、え? そうじゃん、マジじゃん」


「……本当だ、言われてみれば。確か囲炉裏先輩のアレって、武器越しでも接触したらアウトじゃなかったっけ?」


 リィナの言葉に他二人が頷き、そして俺もまた頷いてみせる。


 テトラが言ったように、囲炉裏の白刀こと《氷華》は武器で受けようが盾で受けようが近接で〝当たった〟時点でゲームオーバー。それは間違いない。


 なので本来なら、この瞬間に俺は例の氷牢に囚われていてもおかしくはないのだが……なんというかまあ、ここ・・に関しては単純な話。


「直前で一度、俺が背後に置き去りにした黒刀から逃がすために解いた・・・だろ? 《氷華》の瞬間氷結は一応〝タメ〟が必要でな、刀に固めるのにリソースを使った直後とかは発動できないんだよ。ここに関してはそんだけ」


「へぇ……」


「そう、なんだ」


「ほえー詳しくは知らなかったや。アレもアレでずっこいと思ってたけど、一応は制限とかあるんだね――……ここに関しては? 他だと違うの?」


「まあ、見てけばわかる」


 納得と疑問を同時に生じさせたミィナへ適当に返しながら、また再生。


 囲炉裏の繰り出した四の太刀の馬鹿威力、そこから繋がった六の太刀《カガミズチ》の変則挙動……と、それらから逃げ果せた俺の変態機動を三人が呆れた様子で眺め――――おそらくは、手が挙がるだろうと予期していたタイミング。


 翠黒二刀による七の太刀《七星》を繰り出した俺と、それを蒼白二刀で叩き落としてみせた囲炉裏――つまり、()()()()()()()()()()()()()()シーン。


 当然とばかり、三人同時の挙手だった。


「ここ」


「おかしくなーい?」


「二人とも、互いの黒と白に触ってるよね。黒の『不断』も白の『氷結』も、両方とも発動してないのは……なんで?」


「オーケー。んじゃ、交錯の瞬間にクローズアップして更に倍率上げてこうか」


 五十倍……くらいで、とりあえずはいいかな。巻き戻し、スロー倍率を引き上げ、俺が《七星》に踏み切る直前で再生ボタンを押せば――――



「――――……………………はぁ……???」



「……………………えぇ……」



「あの、さぁ…………もう二人とも、いっそ気持ち悪いんですけど」



 三者三様、心の底から『意味不明』を表す顔。最後の辛辣な赤色の言葉よりなにより、初っ端のテトラにしては珍しい素の呆け声が面白くて笑ってしまった。


 と、それはさておき。


「まあ、御覧の通り。俺も囲炉裏も……というか、囲炉裏が意図して俺の黒を白で受けた訳だ。この時は気付いてなかったけど、思考加速も切ってたんだな」


 確か、効果時間が極短い代わりに倍率が高いタイプだったはずだ。


 瞬間的に青く輝いた双眼が《七星》――標的を中心に五芒星の辺を辿る機動で駆ける剣の軌道を、しかと捉えているのが見て取れた。


 で、俺が右手の〝黒〟を振るったのは一、三、五、七閃目の四度なのだが……。


 囲炉裏は都度それを〝白〟で叩き、払い――――そして、その度に《氷華》を解いては再結集させ、絡みつく黒刀の縛鎖から逃れているのだ。



 さあ、どうよ御三方。言ってやってくれ。



「お兄さんは、お兄さんとして……やっぱイロリンもおかしいんだよなぁ……」


「……まあ、わかってはいたけどね。改めて、本人性能バグってるよね」


「…………二人とも、凄い」


 呆れ慄いている三人に頷きつつ、補足も一点。


「ただ一応、最初に黒を迎撃した一閃目の時点で『氷結』を発動させようと思えば出来たはずだ。タメが必要っても、数秒程度で済むものだからな」


「それは…………受けたかった・・・・・・んじゃないの? 先輩の、結式の技をさ」


 テトラは多分、囲炉裏の心情的なアレコレやテンション或いはノリで『わざと発動させなかった』のではと言っているのだろう。イスティアン的に考えれば、その言も実に説得力があるのだが……――俺は、違うと断定できる。


「俺も囲炉裏も、()()()()()()()()()()()()()()()()()()よ」


「……それ、は…………そっか」


「あぁ、刺せるタイミングがあれば絶対に刺してる。気分やテンションで舐めた真似はしない。……だから、まあ、ここ・・に関しては俺のブラフが通った結果だな」


「ブラフ……? なんかしてたっけ?」


「基本、最初っから白黒の接触を避けるよう動いてたのは囲炉裏だけだ。俺は白が相手でも手を止めずに、むしろ狙いに行く勢いで黒を振ってた」


「あぁー……」


「言われて、みれば?」


 意図は明確。囲炉裏にとって初見である【九重ノ影纏手ナインテイル】の〝斬纏センテン〟形態が、奴の白刀に対する『メタ』であるかのように振る舞った訳である。


 ()()()()()()()、つまり――――


「普通にハッタリだったんだけど、見事に引っ掛かってたなアイツ。《七星》の時もそうだし、ぶっちゃけ《天雪》の直前で置き去りにした黒刀が触れたシーンでも、囲炉裏が『氷結』を発動させてれば俺は成す術なく瞬間冷凍されてたぞ」


 置き去りにしたとは言っても、手放したところで〝影〟は右腕に繋がってるからな。当然、奴がその気になれば〝氷〟は瞬時に俺へ辿り着いていたことだろう。



 ……とまあ再び質問に対する解を示せば、三人の反応は以下の通り。


「やっぱお兄さんも頭おかしいわ」


「度胸がバグってるでしょ」


「………………二人とも、凄い」


 ハハハ、誉め言葉として受け取っておこう。






始めの会話ラッシュで誰が誰だか正確に理解できた人は一級アルカディアン。

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― 新着の感想 ―
双翼のハルへの引っ付き方ぁ… とりあえずハルとの出会いから今までを双翼視点で振り返ってみてほしい(ハルのことをどう思ってるのか気になる)
あとがき 蒼→ハル→テトラ→朱 かな? 「はぁ?」は小さな魔法使い、その後「え?」がテトラ
2024/10/20 12:48 しおりすぐ無くす読書大好き
結論:ハルと囲炉裏というかイスティアンは頭がおかしい(いい意味で)
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