曲芸師解説中:Part.1
「――――うおちょちょちょっ……! え、ほんとにフラフラじゃん大丈夫?」
「だから大丈夫じゃないんだっつーの……」
引っ張られるまま気張って転移先までついて来たものの、お馴染み『訓練室』に飛んだ瞬間にぐらっと身体が揺れて尻餅をついてしまう。
驚き目をパチクリさせながら問うミィナに疲れた声を返しつつ、そのまま後ろへ倒れかけた俺の肩を二つの手が受け止めた。
左右で微妙に大きさが違う。テトラとリィナが二人して支えてくれたのだろう。
「ここまでなるの久々じゃない? なにしたのさ先輩」
「あー、と……分不相応な無茶を少しばかり」
ガクンと頭が後ろに倒れ、視界に映ったのは予想通り逆さまになった二つの顔。その内、黒い方が「どういうこと」とばかり隣へ視線を振って――
「アーツを使ってた」
「普段から使ってるでしょ」
「【結式一刀流】じゃない」
「――――…………………………あぁ、うん。ま、先輩だし」
元々、今回は使う気がなかった。
つまり〝お披露目〟は随分と先になると踏んでいたため、アレを知っているのは道場での秘密特訓を手伝ってくれたお師匠様と相棒の二人だけ。
そりゃ驚くのも無理はないが、納得のされ方が甚だ不本意である。
「やー、流石のミィナちゃんもビックリしたよ超サプライズ。いつの話?」
「取得時期についてなら、先月末」
「二、三週間前かー」
技自体の構想……というか、スキル諸々を用いた場合の実現は星空イベントの辺りで済んでいた。で、それらをスキル無しで成立させるための〝技術〟をなんとかモノにしたタイミングで、システムからのアーツ認定が下りた訳だ。
「とー、早速あれこれ聞きたいところだけども……」
「こっちが先」
「いやまあ、僕のことは別に気にしな――」
「んだねー。ほらお兄さん出した出した!」
「労われとは言わんが、お前は相方の半分の半分の半分の十分の一くらいでいいから気遣いと遠慮を……いや、いい。俺が悪かった」
「ねえ、その引っ込め方は流石に威力高過ぎない? なんだこんにゃろう、いっそドン引きするくらい優しくしてやろうか……!」
やってみろよ。揶揄いと判断して相応の対処をくれてやろう――――とまあ、なにやら普段よりテンションが上がっているらしき喧しい元気担当は置いといて。
求められた『解説』を披露するにしても、別会場で雛さんと戦り合っていたテトラはなんのこっちゃわからないだろう。なので、とりあえずは記録されている映像の鑑賞会から……というか、それを見ながら質問に答えりゃいい。
システムウィンドウを喚び出し、東陣営戦時拠点こと【異層の地底城 -ルヴァレスト-】限定で追加される管理窓を展開。当該陣営の『序列持ち』が持つ権限なり何なりを用いて深い所へ潜っていき――――はい見っけ、本人承認。
再生ボタンをタップすれば、パッと宙に投写されたのは大きな上映画面。映し出されている闘技場に立っているのは、先程の俺と囲炉裏。
どこでも使用可能という訳ではないが、ここ『城』の訓練室や先程までいた円卓、或いは機能を開放したクランルームなどで利用できる映像鑑賞だ。
当然ながら無編集状態ではあるものの、システム起動者の思考操作で直感的に画角なり再生速度なりをリアルタイムで弄れるため見易さはどうとでもなる。
「うわ、観客数えっぐ」
「ゆうてそっちもエグかったっしょー?」
「まあ……雛世さん目当ての男連中はね」
と、女性ファンが多いらしい少年序列称号保持者が申しております。
まあ人気どうこうはさて置いて。テトラが関わる戦闘は基本的に静かなものになるため、四柱関係の『見世物』とは相性が悪いから仕方なしだ。
「んじゃ、適当に流してくから聞きたいことがあれば聞い――」
「はーい!」
「はえーよ。なんじゃい」
質問受け付けを始めた瞬間、元気よく挙がった手が一本。
「このズガーンってやつ。スキルエフェクト見えなかったけど、なにごと?」
「あぁ、それはだな……ってか、それが多分だけど君らが一番聞きたがってるだろうアーツのあれこれの核心なんだけども」
ミィナが問いを投げたのは、開幕で俺がテンションを整えるために放った『足踏み』だ。現象の規模としては大したアレではないが、スキル使用に際して発生するライトエフェクトが見当たらないことに気付けば確かな異常である。
流石は序列持ちというか、見るべきところは抜け目なく捉えてるな。
「そしたら…………テトリナ。もう大丈夫だから、ちょっと離れてくれ」
「うん」
「テトリナってなにさ」
胡坐をかいて姿勢を安定させ、支えてくれていた二人に礼を言い下がってもらう。でもって、訓練室の機能を使いすぐ横に小さい壁を喚び出し――――
「耳ふさいどけ、ビックリすんなよ」
右手を押し付けながら、興味深げに俺を見る三人へ警告を一言。
さて…………――――――――――――――っし、こんなもんか。
「――――うわっ」
「うひぇっ!」
「っ……」
完全な静止状態からの、轟音及び破壊。手を付けた状態からピクリとも動かずに壁を吹き飛ばした俺の手品を見て、年下組が揃って肩を跳ねさせた。
「とまあ、御覧の通りだが――」
「いやわかんないわかんない見てわかんないから解説をしてって言ってんのさ!」
「頑張れ先輩。自分で考えてこそ力になるんだ」
「学校の勉強じゃないんですけど!!!」
ちなみに、結式の《震伝》とは似て非なる技術だ。
『縮地』や同等の出力を接触状態の対象に伝えて破壊力を生み出すあっちと比べて、俺がやったのはもっとシンプルで〝力〟を叩き付けただけ。
当然ながら、俺はスキルを用いて疑似的に成立させる以外で『縮地』は使えない。だからそもそも、根底の技術が異なっている。
ただし、使っている〝力〟の種類に関しては――……っと、もう片方の先輩は見事に自分で考えて答えに辿り着いたようだ。偉い。
「『外』?」
「正解。結式一刀の基礎になってる『内へ外を重ねる』じゃなくて、これは『身体から切り離した外』を使って悪さをする技」
「…………え、そんなこと出来んの」
ただでさえ『内』だの『外』だのふわっとした難解な概念を用いていると言うのに、そこから更に切り離すだのと言われてもイメージはしづらいだろう。
素直に「意味不明」といった顔でツッコミを入れたテトラに、俺は首肯を一つ。
「出来る。というか、それ自体は俺より先にういさんがやってる」
「マジか。流石ういちゃん、やば」
それというのは結式の奥伝こと、他でもない終の太刀《唯風》だ。
先んじて放った技の威力を保存して必殺の追撃と成すアレの根幹は、その身と得物を神業的な体捌きでグルングルン回す〝回転〟にあるのだが……。
まあ、訳のわからない概念を基にした理屈を言葉で説明するのは限界があるな。
そしたら――――
「リィナ、手伝い頼む」
「……? うん」
ちょいちょいと手招きすれば、首を傾げつつも求められているところは察したのだろう。素直に近寄ってきたリィナが両手をぽふと俺の頭に乗せた。
そして、
「――――《夢幻ノ天権》」
詠唱を必要としない、仮想世界に唯二つの星魔法。その片割れが起動する。
もはや完全に女子と意識されずマスコットめいて扱われているちみっこ二人。