無双の氷刃、無窮の天鶯 其ノ伍
「――――っ……か、は…………!」
無理を押し、息つく暇なく〝技〟を連ねた反動が脳に響く。
我流【迦式二刀】――――その本質は突き詰めた『内』の力へ、己以外の〝外〟を籠めることによって成立させるモノ。
終ぞ手掛かりさえ掴めなかった『縮地』に習い倣った上で別の法を見出した、もう一つの〝重ね併せる力〟によって超常の刀を振るう道。
己以外の〝外〟……それ即ち、相対する敵の力を我が物とする受動の剣。
ゆえに【無双】は純粋な攻めの形ではなく、かつての【護刀】から更に進んだ『守りの先に在る攻め』の形に他ならない。
完成には、未だ程遠く。
例えシステムに技をアーツとして認められ、名乗りの権利を得た今となっても……求める理想。憧れの隣に相応しい姿には、未だ程遠く。
けれども――――
「………………一歩ずつ、いつか届く」
天を突いた大氷の如く。今こうして、かの【剣聖】の御業を継ぐ『弟子』に、研ぎ直した刃を届かせられたように。
「そうだろう、ハル――――――――いつまで、寝てるつもりだ」
氷牢に、亀裂が走る。
罅割れから、黒が。煌々と輝く紅緋の光が零れ出す。
そして、
「――――――【四凮一刀】」
迸った、無数の剣閃が、
「《涓》」
まるで繭を開くかのように、戒めの氷を千々に斬り崩した。
◇◆◇◆◇
――――正直なところ、使う気など微塵もなかった。
なにかの間違いくらいの適当さで、システムからぞんざいに放り投げられたとさえ思えるアーツ認定。未完成も未完成、自ら定めた〝四〟は未だ揃わず、真実名乗ることさえ気恥ずかしい道半ばどころではない未熟の剣。
それでも、
「――――…………………………半年も、経ってないんだぞ」
微塵にした氷牢の残骸、その只中に立つ俺へ文句を投げ付けたコイツに。
「……ほんと、それな。神様は俺にプレッシャーを掛けるのが大好きらしい」
俺以上に【剣聖】を知り尽くしたコイツに、オリジナルに劣る俺の結式が通用しないのなら――――求められた〝刀〟で語り合うには、もうそれしかないから。
「囲炉裏、悪い」
「…………」
試合う前に、謝りを一つ。
致死無効の『紅玉の加護』を白刀に散らされ、状態異常解除の『藍玉の御守』を氷結の行動不能に散らされ……既に『決死紅』を切っているゆえに三種の守りを遂げた宝飾が砕け、ほどけた髪を揺らしながら〝刀〟を手に瞳を射る。
「全力だと、まだ二発が限界なんだ」
真っ直ぐに目を合わせ、苦笑いと共に白状すれば――奴は、呆れたように笑う。
「……君は、そんなのばかりだな」
「まあ、デビュー半年足らずだから。未熟も当然ってことで、勘弁してくれ」
格好付かないのは、いつものこと。それもまた【曲芸師】らしい……なんて、自分で言うのは滑稽極まりないが、
それでも、
あぁ、それでも、コイツには。
生まれて初めて出来た男同士の〝親友〟には、飾らず持てる限りの〝俺〟で挑みたいから――――この一刀に、今在る俺を全て賭けて。
「囲炉裏」
「ハル」
「お前にだけは」
「君にだけは」
「――――絶対に、負けたくない」
「――――絶対に、負けたくない」
いざ、勝負を。
「四凮一刀、一の太刀――――《颯》」
「迦式二刀、一の太刀――――《白鶯》」
勝つのは一人。負けるのは一人。どちらになろうが、恨みっこ無し。
敗北なんざ認めない。
勝つまで無限に挑み続ける。
そんな馬鹿馬鹿しくも最高に胸が躍る、終わらない競い合いの一合目を。
世界に魅せつけて、次へ進もう。
◇◆◇◆◇
――――歓声が聞こえる。
絞られてなお、耳を壊さんばかりの歓声が聞こえる。
最後の交錯を経て、振り返った先。
散りゆく赤の残滓を見送りながら、勝った一人が立ち尽くす。
――――その手に在るのは、蒼の刀が一振りだけ。
「――………………」
言葉が出てこず、立ち尽くす。
暴れ狂うような熱と、物悲しくなるほどの虚ろが混在する心。
己の勝利が狂おしく嬉しくて、敵の敗北が狂おしく切なくて――――自分でも形容できない、相反する感情の波に打たれて……最後に零れたのは、
「…………………………はぁ、全く……」
ただ一つ、気が抜けたような小さな笑み。
「――――二度目だぞ、生意気な後輩め」
ぼやいた瞬間。半ばから砕け散った蒼刀を手に、深く溜息を吐き出した。
正真正銘の綺麗な勝利は、どうやら許してくれないらしい。それが嬉しくもあり……嗚呼、どこまでいっても、ただただ嬉しいだけで参ってしまう。
しかして、決着は決着。どちらかが敗者になった以上、絶対に〝次〟が在る。
なぜなら自分たちは、どうしようもなく似た者同士だから。
ゆえ、必ず訪れる二度目に早くも焦がれ始めた己の心に呆れ果てながら――きっと今頃、盛大に不貞腐れているであろう〝親友〟を思い。
「ようやく――…………たった一つだけ、大きな借りが返せたか」
見上げた空は、どこまでも青く澄み渡っていた。
〝鶯〟 またの名を、春告げ鳥。
白を纏い現れた、賑やかな春を告げる無垢な翼。
――――――――――――――――――
◇Status◇
Title:曲芸師
Name:Haru
Lv:110
STR(筋力):300
AGI(敏捷):300
DEX(器用):0
VIT(頑強):0(+200)
MID(精神):350(+330)
LUC(幸運):300
◇Skill◇
・全能ノ叶腕
《十撫弦ノ御指》
《ルミナ・レイガスト》
《エルファスト・ルガー》⇒《フリズン・レボルヴァー》Up!
《エクスチェンジ・インプロード》
《欲張りの心得》⇒《貪欲ノ葛篭》Up!
・水魔法適性
《アクア》
《フラッド》
《カレントハーケン》
《水属性付与》
・Active
《リフレクト・エクスプロード》
《フラッシュ・トラベラー》
《影葉》
《鏡天眼通》
・Passive
《白竜ノ加護》
《煌兎ノ王》
《アテンティブ・リミット》
《超重技峨》
《剛魔双纏》
《タラリア・レコード》
《流星疾駆》
《極致の奇術師》
《危輝回快》
《削身不退》⇒《戒征不倒》Up!
《月揺の守護者》
《魔を統べる者》
《リジェクト・センテンス》
《影滲越斃》
《四辺の加護》
◇Arts◇
【結式一刀流】
《飛水》
《打鉄》
《天雪》
《枯炎》
《重光》New!
《七星》
《鋒雷》
口伝:《結風》
【四凮一刀流】New!
《颯》New!
《涓》New!
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以上、空白の二ヶ月を経ての主人公ステータス詳細。
決着はこれにて。お付き合いありがとうございました。
終始「なにが起きてんだよ」と思っていらっしゃったのは読者の皆様だけではないということで、後の解説回をお楽しみに。