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アルカディア ~サービス開始から三年、今更始める仮想世界攻略~  作者: 壬裕 祐
桜花一片、無窮の天嵐は影と遊ぶ 第三節
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此処

 第十一回『四柱戦争』選抜戦。その二日目、後半戦の後半戦。


 順当に勝ち進んだ同陣営『序列持ち』同士が公にぶつかり合う本気の手合わせ・・・・は、闘争の東陣営でも屈指の一大イベント。ゆえに用意される舞台は通常の選抜戦フィールドではなく、数倍以上の観戦者動員を可能とする特別仕様となる。


 武道館……まではいかないかもしれないが、集約される熱気は劣るものではないだろう。それはもう、流石に『目を向けられること』にも慣れてきたとて――


「これで『緊張しない』は無理だろと……」


 苦笑い色濃く、定まったファイトメンタルでなお弱音を零してしまう程度には。


 おそらく、魔法なりシステムの力なりで防音処理がされているのだろう。舞台上に伝わってくる無数の声音は百分の一、あるいは千分の一かそれ以下まで絞られている・・・・・・はず……だというのに、この押し潰されそうな気配の圧よ。


 無数の視線、無数の意識、無数の声音――――インターネット越しに向けられるものとは違う、正真正銘、生身アバターで浴びる埒外の注目。


 意思を離れて、身体が勝手に震え出しそうだ……と、素直に思うからこそ。


「お前は平然としすぎだろ、腹立ってくるんだが?」


「慣れろ後輩。適応順応は君の得意技だろ」


 広々とした闘技場の向かい側。正面に立つ〝先輩〟の悠々とした立ち姿に、理不尽な文句の一つも言いたくなるというものだ。



 自分で言うのもなんだが、勝ち上がりは予定通りかつ順当に。


 危なげなく、挑戦者のポテンシャルを引き出すことを意識しながら、同時に向けられる視線全てを魅せられるように……。


 その実、どうにかこうにかではあるが、責務を果たして此処まで来れたと思う。



 二日目第六回戦、相対するは【無双】の刀。



「…………まあ、そう緊張するな」


 かつて別の名を以って立ちはだかった〝壁〟が、そのかつてを再現するが如く薄く微笑んでみせた。同時に、以前は握手のために差し出した右手を持ち上げ、


()()()()()()()()()()()()


 そうして、時を経て『知らぬ天上人』から友人へと名を変えたソイツは、


「――――君の強さは理解・・してる。魅せてくれ、ハル」


 当然のモノを求めるようにして、腹立たしいほど爽やかに俺を煽った。


「………………っとに、どいつもこいつも」


 と、言うよりは。もはや俺自身に呆れるべきなのか。


 煽られたら煽られるだけ、簡単に際限なく盛り上がってしまう俺が『扱いやすい』だけで、別に周囲の知人友人が煽り上手という訳ではないのかもしれない。


 まあ、いい。


 もう、いい。


 ロッタには考え無しで消化するぶっとばすなんて勿体無いと言われたが、やはりコイツ相手に……()()()()()()()()、難しいことは考えなくていいと思うのだ。


 かつて誓った本気でのやり直しリベンジマッチ。次は正真正銘の全力同士で下してやるぞと、啖呵を切った四ヶ月前。思ったよりも長く、思ったよりも短い四ヶ月を経て――



「囲炉裏」



「あぁ」



 まだまだ原石に過ぎなかった、あの日から駆けて。



 駆けて、翔けて――――



「此処まで、来たぞ」



 踏み出すでもなく。


 ただ辿り着いた・・・・・ことを示すが如く僅かに持ち上げ、静かに下ろした右足が――轟音と地揺れを打ち鳴らし、闘技場の舞台に些細な亀裂が奔り抜ける。


 パフォーマンスのつもりはない。


 ただ過剰な盛り上がりを吐き出して心を整えるための、排熱行為。それを見た囲炉裏は動じず、ただ一層に笑みを深めて――――刀を抜いた。


「待ち侘びたよ。君よりずっと、俺の方が」


 ひたと正中線に構えられた【蒼刀・白霜】の蒼い刃。その鋒が……らしくもなく微かに震えているのに気付いてしまい、俺もまた笑みを漏らす。


 そんなわかりやすい武者震い、リアルで初めて目撃したぞと。



「「――――――――――」」



 静寂はきっと気のせいではなく。いつからか喧騒の止んだ空間に二人、見合ったままで幾ばくか。息を吸って、吐いて、大きく吸って、吐いて……――



 抜き放ったのは、後ろ腰に提げた緋の短刀。



 あの日の再現のつもりはない。ただ俺は、今の俺の全てを以って――――



「イスティア序列第四位【曲芸師】」



「イスティア序列第三位【無双】」



 真に曲芸師おれが始まったこの舞台で、いざ今一度の挑戦へ踏み出す。



「「――――勝負だ」」



 不倒の壁を、超えるために。






明日、走ります。

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― 新着の感想 ―
つぅぅぅいっに始まったぞハルVS囲炉裏戦!!! >>あとがき 楽しみすぎる
「勝ち取りたい物もない無力な馬鹿にはなれない」 それで君はいいんだよ キリキリと生き様を そのために死ねる何かを    この時代に叩きつけてやれ!
選抜戦でこの盛り上がり。 本戦ではどうなってしまうのか
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