相棒同士、相も変わらず(?)
専属魔工師殿の工房から、待ち合わせ場所にしていた【蒼天】クランホーム。次いでクランホームから〝空の上〟へと場所を移して竜の上。
すっかり馴染みの送迎役と化したサファイア特急は本日も快速。先日の八月頭に開催された第二回『星空イベント』を終えて更なるレベルアップを果たし、直進トップスピードならば俺の全力疾走にも迫る翼は頼もしいの一言だ。
特定条件下で調伏前に見せた例の特殊能力も使えることが判明したし、速度以外も伸ばしていけば戦闘でも活躍できる日だって遠くはないかも知れない。
やはりというかなんというか、育成コンテンツは沼である。だって成長性も将来性も、なんもかんも無限に楽しくて仕方ないんだもの。
それまでの仮想世界ライフから一転、ガチトレーナーに転向するプレイヤーが次から次へ頻出するのも頷ける。俺とてサファイアのビルドが整った暁には、真面目に連携訓練をしようと画策している程であるからして……。
で、だ。その時には先んじて【星屑獣】との共闘をものにしている我が相棒殿に、ご教示をいただきたいなんて思ったりしているのだが――――
「――――……あー、ソラ?」
「………………」
「ソラさん?」
「…………」
その大事なパートナー様が、腕の中で絶賛ご機嫌ナナメな件について。
サファイアの大きな背中の上。気持ちのいい羽ばたきは実のところポーズでしかなく、それによって浮力を得ている訳ではない竜の飛行は実際ほぼほぼ綺麗な直線運動。揺れ等による身体的な負荷は無いに等しい。
高速機動によって掛かる〝あらゆる負荷〟を軽減する効果を持つ敏捷を騎乗調伏獣相応に上げていれば、風圧なんかも真実そよ風だ。
そして俺が抱えることによって《月揺の守護者》の恩恵を受けた者など、もはや地上と一切変わらない平穏なリラックスタイムをご提供できているはず。
つまるところ、鞍も何も用意していない素乗りとはいえ……こうしてピッタリ引っ付いた上で、グイグイと身体を押し付けてくる必要性は皆無な訳で。
そんでもって、このお嬢様が無言でグイグイ来る場合。最近のそれは例外なく、不満を抱えていたり不機嫌を患っているので『甘やかせ』という合図な訳で。
「ソラさん? ソラ? そらお嬢様ー? ……あぁ、もう、そんなさぁ――――用事でパートナーの応援に来られなかったのが残念過ぎて一周回って腹立ってきたけど俺に当たるのは話が違うというか理不尽すぎるから我慢しようと澄まし顔を試みたのに上手く出来なかったから照れ隠しで「もうどうにでもなーれ」とばかり年下権限のわがままムーブに舵を切りましたーみたいな拗ね顔をされましても」
「――――――ッ……な、にゃっ……そん、い、言いますか……!? そんな、普通、人の心を詳らかに全部、言いますかっ……!?」
「言うよ。唯一無二の以心伝心パートナーだもの」
「ハルなんて嫌いです……!」
とかなんとか言っちゃって、頭を撫でくり回せば機嫌なんてすぐ直るってネタは上がってマジごめんなさいサイドテール引っ張らないで……!
「大体、なんで最近は会う時いつも転身体なんですか!」
「それは最近のソラさんが毎回のように遠出を所望……しているように見せかけて、実は単にのんびり二人きりの空中散歩をご所望していらっしゃるからで」
「へ、ぁ、えっ」
「そうなると、リビルドした表側だとサファイア召喚のMPが心許ないゆえ」
「……、…………っ」
「……あー、つまり、パートナー様の内心を汲み取った結果このような――――」
「ハルなんて嫌いです……‼」
なんでもかんでも心を読むな――と、照れ七割お怒り三割の少女に「理不尽では?」と異議申し立てを試みるも、髪を梳いていた手をペシッと払われてしまう。
そのくせグイグイは一層に勢いを増すのだから、乙女心は複雑怪奇だ。
「あーもうごめんて。俺が悪かったよ。絶対に俺は悪くないけど俺が悪かったよ。どうしてほしいか言ってごらん? 目的地に着くまでは可能な限り対応しよう」
「ぅぅー………………なら、もっとしっかり」
――――と、いったところで。
「あ、着いたぞソラさん目的地。よっしゃサファイア着地だGOGOッ‼」
「ハルなんて嫌いですぅっ‼」
そう言いなさんなって。思いっきり身体を動かせば気も晴れるさハハハ。
◇◆◇◆◇
◇【光撫の坩堝】を踏破しました◇
◇称号を獲得しました◇
・『光撫の坩堝を踏破せし者』
・『引率者』
「――――――ハハハ……」
斯くして数十分後、俺は焦土と化した〝目的地〟で乾いた笑いを零していた。
今回はるばる足を運んだのは、街から北へ遠路三百キロ程度の位置にある【光撫の坩堝】という名の高難度ダンジョン。
光の精霊……という訳ではないらしいが、精霊かそれに類するモノにしか見えない謎の人型(?)発光生命体。そしてその親玉である、凝縮した光と熱の大塊こと【光撫の灼巨兵】が支配する神殿系のインスタンスエリアだ。
攻略に赴いたのは、ひとえにソラさんのビルド成長促進を目論んでのこと。
外見に違わず魔法主体のエネミーゆえ【剣製の円環】に経験蓄積が望める他、同属性の相手なら《光魔法適性》への影響も期待できる……と、思ったのだが。
俺は、焦土と化した、目的地で、乾いた笑いを、零していた。
「ソラさんも、流石に一般的な高難度じゃ役不足って感じだなぁ……」
「…………そ、そんな目で見ないでください」
いや『そろそろ』もなにも、以前からずっとだけどさ。
別に、到着前に揶揄われたことで蓄積した羞恥と怒りを以って暴れ散らかした結果の惨状という訳でもない――――ソラさんは、至極冷静に、いつも通り魔剣の暴威を以って、このダンジョンを丁寧に灼き尽くしたのだ。
……おかしいなぁ。相手もカテゴリ的には〝熱〟を司るエネミーだったはずなんだけど、そんな相手をどうしてこの子は真っ向から燃やしてんのかなぁ?
道中の雑魚も、最奥のボスも、文字通り『なにも出来てなかった』ぞ。
嵐の如く吹き荒ぶ砂塵の剣を侍らせるだけでは飽き足らず、俺の【紅玉兎の緋紉銃】の株を奪うような炎剣投射&爆散コンボはシンプルに凶悪の一言。有象無象を蹴散らしながら悠々と歩いていく様は、最早お嬢様というか女王様めいていた。
巷では密かに『天秤の乙女』だの『千刃の巫女』だの『金色の天使』だのと呼ばれているソラさんだが、いろんな意味で【剣ノ女王】ともいい勝負をしそう――
「ハル?」
「違う、俺、なにも馬鹿なこと考えてない」
沸いた上で沸いているのは世間であって、今しがたの適当思考は推定ギリギリ無実である……とまあ、そんなことはさておき。
「収穫はどうだった?」
「ん、と……称号は、いくつか。スキルの成長は、ありませんでした」
「ま、だろうなぁ」
〝引率者〟というか、ただ後についていっただけの俺が収穫皆無なのは当然として。ソラの方も今回ほど余裕綽々の踏破劇となってしまえば、積み上げられた〝経験〟など些細なものに違いない。
新たなスキルを獲得する。所持していたスキルが進化する。どちらも基本的にプレイヤーが大きな、或いは新たな体験を積み成長を実感した際に起こるもの。
始めたばかりの、まっさらなアバターとはもう違う。この二ヶ月ほぼスキル成長がなかった俺ほどではないにしろ、ソラも完全に成長期を脱したのだろう。
つまりは、これからということだ。
新参者特有の急激な成長が止まった〝先〟に積み上げるモノこそ、熟練者が培う味にして深みなのだから……とかなんとか、昔ネトゲ廃人のギルメンが言ってた。
「ハル?」
「ごめん今はちょっと変なこと考えてたわ――ともあれ、無駄にはなってないさ。今日の行進劇……もとい蹂躙劇……もとい攻略劇も、アバターに経験値としてバッチリ蓄積されてるはずだからな。いつか花開くだろうよ」
「真面目なことを言っているのか茶化されているのか……」
「半々かな」
「もう、怒りますよ……!」
怒るぞと事前警告をしている以上、このポカポカはじゃれ合いの範疇なのだろう。可愛らしい抗議を甘受しつつ、システムクロックをちらっと確認。
「予定より随分早く終わっちゃったけど、この後どうする?」
「ぁ……と。そう、ですね…………お夕飯の支度……には、まだ早いですし」
選手の疲労など諸々の事情を鑑みて二日に分けられている四柱選抜戦は、両日ともに夕方前にはスケジュールが締め括られるようになっている。
ので、前半戦を終えてすぐ工房に赴いてすぐ待ち合わせ場所に走ってすぐデート……もといお出掛けに出発してから一時間程が経過してなお、現実時間では午後五時手前ほど。四谷家のキッチンが賑やかになるまで、一時間少々の暇がある。
なぜそんなことを知っているのかと言えば、どこぞのメイドがお嬢様の生活事情というかルーティーン的なアレを謎にリークしてくるから。
当然の如く俺はそのリークを相棒にリークしたが、かのメイドもまた当然の如くこっ酷く怒られても懲りていない模様。未だに情報爆弾の手は止んでいない――
「…………あの、ハル?」
「うん?」
と、メイド曰く先日『雷を落とした』らしいお嬢様が名前を呼んでくる。
おずおずと控え目なその声音と仕草は、ソラが自分でもどうかなーと思っていることを一生懸命に言おうとしているときの癖だ。
かわいい。
「今日は、その……土曜日、で」
「うん」
「あの、お疲れでしょうけど…………もし良ければ、今日も――――」
「うん、オッケー」
「ま、まだ全部言ってません……!」
勇気を振り絞ったのに――とでも言わんばかりのお顔が愛らしいこと。
お疲れと言えば確かにお疲れだが、単なる気疲れなので行動力は余っている。それが気心知れた相棒との時間であれば、有り余っていると言ってもいいだろう。
ゆえに……先々月から週末定期化したお呼ばれに本日も預かれるというのであれば、喜んで馳せ参じようとも。むしろ明日へ向けて気合が入るというものである。
「ってことなら、そんなのんびりもしてられんな……――よし、帰るか。爆速で」
「ぇ、ぁ………………ば、爆速で、ですか。それはあの、サファイアちゃん――」
はは、なにを仰るやらソラさん。
確かに今のサファイアのトップスピードは俺の全力疾走に迫る速度を誇っちゃいるが、それはあくまで『俺の〝素〟の全力疾走に迫る』程度の発展途上。
つまるところ、
「久々にやろうか。人間ロケットごっこ」
「………………………………ごっこというか、ハルのアレはそのもの――――」
斯くして、数分後。思い返せば久々というか、俺がわりとガチめな相棒の悲鳴を耳にすることになったのは言うまでもない。
そしてその後、久々でもないお説教を喰らったのも言うまでもない。
変わってるよね、イチャつきの質が。
――――――――――――――――――
◇Status◇
Name:Sora
Lv:100
STR(筋力):100⇒50
AGI(敏捷):200⇒150
DEX(器用):50
VIT(頑強):100
MID(精神):600⇒700(+200)
LUC(幸運):100
◇Skill◇
・魔剣ノ乙女 Up!(魔法剣適性+魔剣の奏手+魔剣の君主)
《オプティマイズ・アラート》
《ロード・ブレット》
《陣地構築》
《属性転換》
・光魔法適性
《エンブレイス》Up!(クオリアベール)
《ファスト・ライト》
《サークレット》
《ジオ・ステイク》New!
《光属性付与》
・Active
《天秤の詠歌》
《グラッド・バウンス》
《トレンプル・スライド》
《仰見の琥珀眼》
・Passive
《双魔功纏》Up!(魔力纏衣+魔操天駆)
《シャリスハート》New!
《フェアリィ・ダンス》Up!(フェザーフット)
《飛燕走破》New!
《真眼》
《戦駆の癒手》Up!(癒手の献身)
《リゾルデ・エスタ》New!
《魔ノ根源》Up!(魔を統べる者)
《四辺の加護》
――――――――――――――――――
ゴチャ付きOFFver.
――――――――――――――――――
◇Status◇
Name:Sora
Lv:100
STR(筋力):50
AGI(敏捷):150
DEX(器用):50
VIT(頑強):100
MID(精神):700(+200)
LUC(幸運):100
◇Skill◇
・魔剣ノ乙女
《オプティマイズ・アラート》
《ロード・ブレット》
《陣地構築》
《属性転換》
・光魔法適性
《エンブレイス》
《ファスト・ライト》
《サークレット》
《ジオ・ステイク》
《光属性付与》
・Active
《天秤の詠歌》
《グラッド・バウンス》
《トレンプル・スライド》
《仰見の琥珀眼》
・Passive
《双魔功纏》
《シャリスハート》
《フェアリィ・ダンス》
《飛燕走破》
《真眼》
《戦駆の癒手》
《リゾルデ・エスタ》
《魔ノ根源》
《四辺の加護》
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ソラさんの現状スキル解説、三節後の間章でやります。