開戦
【影滲の闘技場】に登場する唯一のエネミーにしてボス。【悉くを斃せし黒滲】は挑戦者の〝天敵〟を容作る。
ある者の場合は『全ての剣を修め全ての剣を見切る老練の剣士』の姿を、
ある者たちの場合は『三つ首を持ち百の魔法を同時に放つ竜』の姿を、
ある者の場合は『殴ろうが蹴ろうがビクともしない超合金合体ロボ』の姿を――と、生み出される〝天敵〟の姿は千差万別。人型にも縛られずやりたい放題だ。
そして形や大きさが縛られていないからこそ、ある一定以上の強さの挑戦者の『影』が人型かつ常識的なサイズに留まっていた場合……通説として、多くのプレイヤーから言われていることがある。
即ち、ヤベぇと。
曰く、人型に戦力を凝縮されているため強さの『密度』が桁違い。
曰く、人型としての器用さを獲得するものだから手札の数が跳ね上がる。
曰く、人型は基本的に『序列持ち』……最悪、かの【剣ノ女王】にタイマンor二対一を挑むようなものと思え――と、そんな具合だ。
さて、それでは俺こと【曲芸師】の『影』とやらがどんなスペックだったかという話――例の『九尾のお姉さん』についての話をしよう。
特記事項その1:限定的に(?)俺より速い。
まず前提として、奴は一度ならず《空翔》込み俺の最高速を上回って見せた。なにそれそんなんもうゲームセットだろってな感じだが、おそらくその機動力は限定的なものであるというのが救いの一点目。
奴の基礎機動力は俺の全力ちょい下程度。そこからクールタイム式か気まぐれかは知る由もないが、時たま驚異的な瞬間加速によって一気に引っくり返してくる訳だ。これはまあ、慣れと気合でなんとか対応出来るので割と有情。
特記事項その2:HPが特殊仕様(クリーンヒット以外無効?)
次にまあまあヤベー仕様として、奴には通常エネミーが備えているHPゲージが存在しなかった。他の【悉くを斃せし黒滲】参考映像ではしっかり確認できているので、俺の『影』専用の仕様だろう。
初見は「なんだこりゃ殴る意味あんのか」と困惑したもので、実際問題ひいこら言いながら必死に掠めさせたカス当たりの山は全く効いている様子もなく。唯一奴に悲鳴ってか怒りの声を上げさせたのが、百割自爆特攻の【紅玉兎の緋紉銃】だ。
つまり、一定以上デカいのをドカンとぶつけなければ意味がない特殊な耐久システムをお持ちってなこった。これも割かしどうでもいいというか、むしろ弱点に転じそうな要素なため本番に期待である。
俺の速度にアーシェの堅牢さがプラスされるであろう相手に、奇襲なり不意打ちでも果たしてデカい一撃を入れられるのかというアレソレは考えないものとする。
特記事項その3:ワンサイド魔法大戦争。
床や天井を問わず壁面全てを覆い尽くす魔法陣、絶え間なくバラ撒かれる無数の低速即死弾、本体からぶっ放される死神の鎌の如き超高速即死弾――以上。
最後のコレに関しては、やはり何度説明しようとも実際に見てもらう以上の理解は望めないだろう。俺×アーシェの『影』に俺単体verがどこまで反映されるかは未知数だが、いっそ丸ごと消滅してくれたら万々歳だったり……。
――ま、世の中そう思い通りにはならんよなっと。
「前髪切った?」
セーフエリアを出発してから十時間後。現実時刻では昼時といったタイミング。諸々の調整、もといテンションコントロールを終えて足を踏み入れた闘技場。
待ち受けていた『影』の姿は、我ながらナイスジョークを飛ばさざるを得ないほど代わり映えのしないモノだった。
「……女性型、九尾の妖狐。あなたの情報そのまま」
「ですねぇ……アーシェの場合は確か鎧騎士だろ?」
「ん」
「鎧要素 is どこ?」
首を傾げている様子を見るに、困惑しているのは俺だけではないようだ。
二人で挑んだ場合、【悉くを斃せし黒滲】は挑戦者それぞれの『影』を融合した容がお目見えする――だというのに、はて。紛うことなき俺仕様まんまなのだが?
入場位置から動かなければ、或いは戦闘行動を開始しなければ、奴が自ら動くことはない。もう少しフリートークに臨ませていただこう。
「表面上はアレで何食わぬ顔しといて、性質だけ呑み込んでるパターン?」
「それはそれで【曲芸師】らしい。ないとは言えない」
「或いは、アーシェの『全能』部分を取り込んで至極単純に俺ver超絶強化体になっている可能性」
「それもありそう。私の『影』は貴方のと比べて没個性だったから」
「いやもう『スペック』が個性だったんだろ。なるほど、それなら【曲芸師】×【剣ノ女王】がオーバースペックを兼ね備えた曲芸オバケになるのも頷ける」
「………………もうちょっと、私の部分も主張してほしかった」
「どこで負けず嫌い発揮してるのか知らんけど、粗だらけな俺側が素体ってことを素直に喜んでおこうぜ――見た目通りかもわっかんねえけどさ」
「……そう、ね――――ハル」
「おうよ」
「やっぱり、ノリ切っていると口数が増えるのね。かわいい」
「OKフリートークはここまでとする――構えろお姫様、祭りの時間だ」
「ん……ふふ、お祭りの時間」
言葉を区切り、喚び出したるは【真白の星剣】。頷いたアーシェも『剣』をその手に、二人並んで『影』と相対す。ピクリと耳を反応させ、ゆらりと尾を揺らし始めても【悉くを斃せし黒滲】は未だ動かない。
奴が待っているのは明確な意思表示、即ち『ぶちのめしてやる』という単純明快な戦意が一つ――そらもうドデカいのを引っ提げてきたぜ、今から存分に叩き付けてやるから覚悟しとけ?
出発から十時間程度。その大部分を充てた最強お姫様との無限スパーリングを経て、俺のアバターは肉体精神共に過去最高にキマっている。
斬り合っては身体を休め、身体を休めては斬り合って――絶妙な調整ラインを探り出すのに苦労して予想以上に時間が掛かってしまったが、その甲斐はあった。
〝最強〟に並んで、一歩踏み出す。
しかし真実、バチバチに酔っている俺の辞書には畏れの字など在りはせず。
「倒すぞアーシェ――――《水属性付与》」
「ん、貴方とならできる――――《雷属性付与》」
それぞれの『剣』と『光』を手に、進む先には――
「――――『赤は此処に』」
完全勝利以外、他の道筋なんざ見えちゃいない。
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◇Status◇
Title:剣ノ女王
Name:Iris
Lv:100
STR(筋力):150
AGI(敏捷):150
DEX(器用):150
VIT(頑強):300
MID(精神):300
LUC(幸運):100
◇Skill◇
・輝剣ノ導手
《無境天剣》
《グロリアス・グリティアーデ》
《イジェクト・テンパランス》
《神姫佚閃》
《神姫至天》
・雷魔法適性
《ボルテックス・ヴォルティアート》
《エグゾーテッド・エンブレイス》
《リーサルプロアクタ》
《紫電恒星》
《万雷招来》
《雷属性付与》
・Active
《勇者ノ心命》
《ハートレス》
《疾風波濤》
《フェイト=リンケージ》
《アルヴス・ディヴィーナ》
・Passive
《リミットブレイク》
《理想ヲ紡グ者》
《剣坤一擲》
《錬魔纏装》
《アルカナハート》
《リンジェント・アジェレイル》
《鏡花幽月》
《ジオプロウ・インスロート》
《ペイル・オブ・ドラゴニカ》
《神眼》
《リゾルデ・バーテックス》
《魔ノ根源》
《戦神ノ寵愛》
《百征者の威光》
《雷精霊の祝福》
《仙境主功》
《千尋劫子》
《竜討跋扈》
《四辺の加護》
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――
…
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ここで唐突にアーシェのステータスをドーン!!!!!
なおほぼ使われていなかったり貢献度が少ないものは省いているためスキル数に関して実際は三倍近くあるものと思ってください。加えて記したスキル群はどれもこれも彼女がメインで常用しているものばかりですが、基本的に複数の上級スキルが統合進化した最上位複合スキルの類です。スキルデリートシステムで換算すると100P相当のバケモノが複数あるってなところでヤベー度はお察しください。
各スキルの解説はいつかやりたいけど物語にぶっちゃけ一ミリも関係しないのでいつ時間が取れるかは謎。時間ないんだってば本当に助けて。
あと全然関係ないんですが、作者現在進行形でコロナを患っておりました。
命に別状はありませんので『ご心配なく』というのは明言しておきますが、そういうアレなのでいつもの連投はまあほぼ確無理ということでご容赦ください。
暇だ暇だと唸りつつベッドでニアちゃんスタイルのシタタタタが手一杯さハハハ。