己が星に手を伸ばす
「それじゃ、まず初めにお兄さんが『取り返しがつかない』と思ってることを振り分けていこっかー」
「振り分ける?」
「本当のことか、そうじゃないか」
まずミィナが切り出して、俺が首を傾げ、リィナが補足するというお決まりパターン。ハイハイなるほどと大人しく聞く体勢を取ると、講師役を気取った赤色娘は得意気に胸を張って話し始めた。
失礼ながら、威厳からなにからアーシェとはえらい違いである。
「まずほぼ確の部分だけども、《星魔法適性》が一人ひとつの魔法しか覚えられないってのは本当だねぇ。今のとこ、二つ目を覚えたよーって報告はないはず――ハイ、ツッコミたいことがあるのはわかってるから暫くお口チャーック」
威厳からなにから、アーシェとはえらい違いである。
「関連して、適性をアクティブにした時の魔法取得プロセスが『ガチャ』扱いされてるのも本当のこと。見ようによっては間違ってない」
適性スキルのアクティブ化時云々とやらは、俺が《水魔法適性》をアクティベートした直後に基礎魔法である《アクア》を取得したアレだろう。
んでもって《星魔法適性》――というより、火水風土の基本四属性とは別に存在する特殊属性には『基礎魔法』という概念が無いらしく、最初に取得する魔法は必ずしも初級スキルという訳ではないそうだ。
例えば、ソラの《光魔法適性》なんかも特殊属性に該当する。そう考えると、彼女が最初に取得した《ヒールライト》は確かに効果量控え目で使い辛さこそあれど、コスパ良し即時回復の治療魔法として極めて優秀だった。
あれは別に初級魔法ではないと言われれば、まあそうだったのかと納得できる。
ということで、プレイヤーによって取得魔法が異なる初回スキルセット時の〝儀式〟を『ガチャ』と呼んでいるらしい……のだが、
「ま、当然だけど皆『いいの引きたい』って思うよね。だからスキルセットのタイミングを謎に図ってみたりだとか、属性に関係ありそうな特別っぽい場所に出向いてセットしてみたりだとか……スキルをアクティブにした瞬間のステータスその他が重要だ、みたいなオカルトを信じて暫く寝かせてみたりだとか」
「ジンクスみたいに信じ切っている人もいれば、そんなの関係ないって人もいる。そもそもアクティブにした時じゃなくて、適性を取得した瞬間に見合った魔法はシステムに選定されているはずだって」
「…………個人的には冷静に考えて後者だと思うけど、ジンクス云々で謎の儀式をしたくなるのも理解できるなぁ」
なんにせよ、せっかく入手した稀少スキルに関わることなのだ。得てしてオカルトめいたゲン担ぎを気にするゲーマーってのは多い気がするし、さもありなん。
「だからまあ、そだね。あたしらが答えにできるのは、あたしら自身はどうしたかって話だけだね」
「なるほど、是非聞きたいね」
なにからなにまで軽いノリ……だが、これでも〝星〟によってアルカディア最強の火力砲台という冠を戴いている、紛れもない最高位魔法士様である。
つまり、彼女たちが辿った道は〝最強〟へと続いていた道に他ならない。参考にさせてもらうのに、これほど信頼できる経験談はないだろう。
「とは言っても、私たちは特別なにかを考えてゲームを進めていた訳じゃない」
「そうなんだよねー。あたしらが適性取得したのってドライブ二日目のことだったし、その頃は集められる情報もなければ……」
「そもそも、一々情報を集めてプレイするほど本気じゃなかったから」
「oh……」
この二人が『東の双翼』として台頭したのは、確か二度目か三度目の四柱戦争だったはず。つまりあのブロンド侍の先輩な訳で、正真正銘の古参勢だ。
実際にいつから【Arcadia】のユーザーになったかは知らないが、もしかすると仮想世界デビュー自体は三年前の最初期だったりするのかもしれない。
「だからまあ、なんも考えずに取得したその場でガチャったんだよね。で、その結果こうしてメッッッチャ成り上がってしまった事実を踏まえると―」
「結局は、個人の頑張りと適性次第だと思う。あと、運」
「そういう意味では的を射てるよね。だからまあ結論としては――『取り返しが付かないのはそうだけど気にしても仕方ない』って感じになるかな?」
「そう…………まあ、そうだよなぁ」
正直なところ、言われるでもなくわかっていたことではある。〝神様〟から仕様についてのアンサーが貰えない以上、プレイヤーがなにをどう足掻こうと結局のところ意図して結果を左右させるのは不可能だ。
正確には、足掻いた成果を観測することが不可能――天命を待つしかないってこった。しかしまあ、それを説得力のある言葉で語ってもらえた事実がデカい。
ふわっふわした不安その他で恐る恐るガチャとやらに挑んで、不必要な後悔に振り回される未来は回避できただろうから。
さて、そういうことであれば……。
「お、いきなり行っちゃう?」
「今度は大胆」
一つの結論を聞いた直後、おもむろにシステムウィンドウを開いた俺に注がれる視線は二種類。楽し気な赤い瞳と、パチクリしつつも静かな青い瞳。
「気にしても仕方ない、だろ? だったらサクッと俺の〝星魔法〟がどんなもんか確認して、レクチャーに移ってもらった方が有意義ってね」
迷う意味がないのであれば、時間の浪費はナンセンスだ。重ねて、来たる週末までに急ピッチで諸々仕上げないといけないからな――て、ことで……!
いくぜ《星魔法適性》よ。願わくば有能極まる大魔法なりが発現してくれることを願ってハイさーん、にーい、いーち――あ、ちょっと待ってストップ。
「え、なんでいきなりお姉さんになったの?」
「気にしても仕方ないとはいえ、手軽に縋れるジンクスには縋っとくべき……!」
ハイせーの的な流れをぶっちぎって突如《転身》を起動した俺に赤色が困惑の声を寄越してくるが、ポーカーフェイスを気取っていたものの実は必死な俺である。
いやほら、そもそも魔法スキルの取得ってMIDステータスの数値が関係するもんじゃん? 天命を待つにしても、人事を尽くさぬ理由はナシってなぁッ!
「ついでにお前も来いサファイア〝星〟繋がりだ! 主が一世一代のガチャを引くんだ見守ってくれ出来れば加護なり祝福なりいただけると大変ありがたしッ‼」
「えぇ……――――んぬぇええッッッ!!? なんそれドラゴン!!!?! ちょっとおにっお姉さん星魔法とかどうでもいいってなんそれドラゴン!!!!!」
途端にわーわー騒ぎだす赤色と、俺の影から顕現した巨竜を前に目を真ん丸にして呆ける青色。二人のリアクションは後程消化するとして、今はとにかく――
「おいでませ大魔法!!!」
新たな力を、お迎えしようじゃないか。
◇《星魔法適性》がアクティベートされました◇
◇スキルを取得しました◇
・《――――――……
「――――おめでとーお兄さん、大当たりだね」
「………………この惨状を見て、大当たりと申すか御先達」
五分後、試運転を終えて。
傍らにしゃがみ込んだミィナからニマニマ混じりの祝福を頂戴しつつ、訓練所の壁際でボロ雑巾のように転がった俺は掠れ声で力なく抗議の声を上げる。
周囲にパチリパチリと残留する青い魔力の音鳴りを聞きながら、素っ気なく真白な高い天井を見上げて――
「なんで俺んとこに来る武装やらスキルは、どいつもこいつも……」
いい加減に諦観を滲ませる俺を他所に視界の端。そんなことよりといった具合で、リィナとサファイアが青色同士仲良く戯れていた。
……平和で、大変結構である。
とある白剣『〝星〟繋がりならボクも喚んでよ』
好感度マイナス1です。