④:4
「それじゃ、改めて挨拶も済んだところで――――乾杯」
「「「かんぱーい!」」」
極々静かなホストの音頭に合わせて賑やかな声で場を埋めたのは、一際ノリノリのゴッサンを筆頭に俺とユニを含む男三人。
お淑やかの具現たるソラさんや人が増えるほど大人しくなる性質のニア、そしてハメを外して騒ぐ姿が想像できないヘレナさんなど、女性陣は各々の表情でグラスを持ち上げて慎ましやかに相乗り。
一人で野郎の輪から外れた囲炉裏はといえば、爽やかフェイスに爽やかな微笑を湛え爽やかボイスで「乾杯」と落ち着き払って応えていた。イケメンがよ。
ともあれ、出揃った招待客が一堂に会して漸く本格的に『旅行』の幕開けだ。
昼食に引き続きパーティ会場と相成ったラウンジにて、テーブルに並べられた料理は尽きず興味と食欲を刺激される多種多様のお祭り模様。王道の既存料理から奇抜な創作料理まで取り揃えており、酒でも話でも肴には困らないだろう。
リアルでは初対面とはいえ、誰かしらが誰かしらと『戦場』というシチュエーションで濃密な時間を共にした間柄同士。
唯一の例外たる職人も仮想世界では全員と顔見知りだったようなので……程度の差はあれど、揃った面子に大きな緊張感を抱いている者はいないようだった。
――ってことで、とりあえず。
「ほらゴッサン、早速だが約束を果たして進ぜよう」
「おっ、嬉しいねぇ」
乾杯と同時にグイッとグラスワインを飲み干した大将殿を見て取り、ボトルを片手にススっと隣に歩み寄る。立食、着座、どちらでも可能なセッティングだが、彼は早々に腰を下ろして落ち着いているので……。
「ふむ、そしたら〝お酌〟とは少し違うが――」
席の右手側へ斜めに立ち、ボトルの底部を右片手で保持して、空いたグラスを目掛け流れるように傾ける。姿勢よく、思い切り格好付けるのがポイントだ。
「おっとぉ……? なんだ、やけに様になってるじゃねえか」
「お褒めに預かり光栄です」
注ぎ終わり、ボトルを上げつつ〝役〟になり切って恥ずかしげもなくスマートな澄まし顔で応えれば、返されたのはニヤリと面白がるような笑みが一つ。
即興でおふざけをしてみたが、お客様のウケが好評なようで何よりだ。バイト戦士時代に培った所作は未だ衰えていないらしい。
ウェイター服ではなく完全無欠の私服だが、そこはご愛嬌ということで――
「なにそれ、どこで身に付けたネタ?」
「高校時代のバイト。少しお高めのレストランで、諸々ガッツリ仕込まれた」
と、面白がって寄って来たユニの問いへ簡潔に答えれば、
「高校時代……ということは」
「あ、十八歳の大学一年生だってさ彼。わっかいよねぇ」
しれっと入って来た囲炉裏を交え、男四人の会話卓が瞬時に結成してしまう。
「へぇ……一応聞くが、いいのか?」
「年齢くらいなら別に?」
ユニがサラッと俺の個人情報を漏らしたことについてだろう、確認を取って来た囲炉裏にこちらも「構わんよ」とサラッと返す。
調理補助で働いている時に「アレって共有して大丈夫な情報?」と事前確認はされていたし、言わずとも見た目でわかることだからな。
「そうか……十八、三つ下だったか」
「あれ、お前って二十歳じゃなかった?」
「半月前まではな。五月が誕生日なんだ」
「あ、へぇー……ふーん……?」
いつだかネットで調べたプロフィールとの食い違いに疑問を向ければ、回答は至極単純かつ明快なもの。流石にその辺の個人情報にはノータッチだった。
え、いる? 誕生日プレゼントとか。トータルで日頃世話にはなってるし……。
「……なにを考えてるのか丸わかりだけど、変に気を遣うなよ。気持ち悪いから」
「言ったな貴様。そういうことは心の中で留めとけ?」
「ハッキリ言わなきゃ変に暴走しそうで怖いんだよ君は」
「へえへえそうですか。そういうとこハッキリ言うなら悪巧み云々もハッキリ言えっての。二度とお前の掌で転がされてなんてやらないからな」
「ッハ、考えなしの自然体で世界中を引っ掻き回しといてよく言う」
「元を正せばその流れに一枚も二枚も噛んでるお前が言うか???」
とまあ、そんな風に次から次へ軽口の応酬をしていると、
「――――してやられた時から思ってたけど、仲いいよねこの二人」
「そらもう、殴り合ったその日には打ち解けてたくらいだからなぁコイツら」
なんか傍から勝手な評価が聞こえて来て居心地が悪いので、ひとまずは矛を収めておくとしよう。ぶっちゃけそれなりに仲良くやってる自覚はあるが、他人につつかれると普通に恥ずかしいんだよ。
「ん゛んっ……さておき」
「あ、照れたね」
「仮想世界でも結構そんな感じだよな、お前さん。可愛げがあるというか――」
「 さ て お き 」
ゴリ押しで弄りを突っ撥ねるも、年上二人からはケラケラと笑われてしまう――てか、この集まりでは俺が下から二番目か。
わかっちゃいたが、アルカディア平均では十八って相当な若輩者だよなぁ……。
「こうして集まっといて今更だけど……ゴッサンはヘレナさん繋がりとして、囲炉裏はどういうアレで南陣営の慰安会に招待されたんだ?」
来ると聞かされた時はサラッと流したものの、こうして実際に顔を合わせると意外というか……いや、単に俺が勝手に持っているイメージ的なアレなんだが。
なんとなく囲炉裏は社交的な面をしている癖して、こういう集まりには興味がなさそうな人間だと思っていたゆえに。
「あぁ、それは単純に俺が呼んだからだ。去年からな」
と、答えは早くもグラスを再び空にしたゴッサンから。
「今でこそわりかし落ち着いちゃいるが、コイツも少し前までは――それこそ序列入りしてからしばらくの間は、見てて心配になるくれぇ我武者羅で」
「暴露大会はそこまでだ。好き勝手に人のことを話すんじゃない」
「うぉっ、とと……!」
で、ヌッと横から腕を伸ばした囲炉裏が俺の手からボトルを掻っ攫い、ドボドボと大将殿のグラスを再三満たしていく。
どういう黙らせ方だよと笑いそうになるが、乱暴な注ぎ方に慌ててグラスを抑えたゴッサンを見るに効果は十分だったようだ。
ま、大体のところはわかったけどな。
「気分転換に誘い出したとか、そんなとこか」
「……君も、わざわざ察しなくて結構。放っといてくれ」
いいじゃん別に。気遣いしてくれる上司は貴重だぞ、大事にしようぜ。
珍しいような、それほどでもないような。居心地の悪そうな顔をした囲炉裏を見て更に押すか退くかを一瞬考え……――――
「ッ――ちょ、おまっ、宴会中に殺気飛ばす奴があるかよビックリさせんな!」
「これは失礼。先輩への接し方がなっていない後輩がいるようでね?」
「殺気ってなにさ。当たり前のように現実で《スキル》使うのやめてくれる?」
「それを気取る坊主も坊主だぁな。こっちでも感覚の鋭さは健在か」
「ってか、やっぱり仲いいねキミら。得難い親友はお互い大事に――うーわ、すーごいシンクロ率。そんな同時に全く同じ表情することある?」
「羨ましいじゃねえか。気の置けねえ男友達ってのは、案外貴重なもんだぜ」
「ええいやめろやめろ! 変な弄り方すんな痒くなるわ!」
「全くだ。ここぞとばかりに揶揄うんじゃない」
まあ、あれだ。
話の流れは死ぬほど不本意ってかこっぱずかしい限りだが――現実世界でも問題なく仲良くできそうで、ありがたい限り。
これから一週間、重ね重ね暇だけはしなさそうである。
まずは男性陣サイド。
私見ですが、男女混合の集まりって割と男性の方が積極的に同性同士で固まり始めるイメージ。異論は各自で胸の中に仕舞っておいてください。