表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルカディア ~サービス開始から三年、今更始める仮想世界攻略~  作者: 壬裕 祐
桜花一片、無窮の天嵐は影と遊ぶ 第二節
497/978

ぐだぐだランチタイム

「――――それでは、ごゆっくり」


 高級レストランめいた内装に似合いの非日常感を演出する、芝居がかった言葉運びと恭しい一礼。それら振る舞いが実に様になっているウェイター……兼シェフが立ち去れば、あとに残されたのはランチが二セットと()()()()()()()


 ひとつのテーブルで向かい合った二人の少女は片や無表情、片や形容しがたい緊張顔で互いを見つめ合いながら固まっていた。


 双方動かず――とはいえ、それについても緊張や戸惑いその他の感情でガチガチになっている片方ニアと比べ、もう片方アイリスは単純に『なにを話そう』と考えているだけ。


 表も内も対照的な二人は、しばしの間を()()()()で過ごして……。


「――いただきます」


「…………っ」


 声と心のそれぞれで祈りの言葉を捧げつつ、鏡合わせの如く同時に手を合わせる。洋テイストのレストランフロア、かつ異国の血を引く少女たちが揃って日本文化に則っている様は傍から見れば中々に珍奇だろう。


 が、彼女たちの前に在るのはシェフお手製の鯖味噌定食。TPOの『場所(P)』に叛逆しているのは厨房の主であるため、なんら問題はない。


 真に問題なのは、ただ一つ。


 ニアも、アイリスも、お互いに……()()()()()()()という難解な知人との一対一で、どういった振る舞いをすればいいのやら全くわからないという点である――



 ◇◆◇◆◇



 ニアがこちらの『宿舎』に越して来てから、そこそこの日数が経っている。


 けれども想像通りの多忙ゆえか、はたまた想像以上のフェアプレイ精神で()()()()()()()()()()()()()のか。留守にしていたり部屋から出てこなかったりと『お姫様』の姿を目にすることは稀で、顔を合わせたのは数える程度しかない。


 引越しを終えてすぐに挨拶へ来てくれたことを含めても、たったの三度。初めの挨拶、廊下での擦れ違い、そして今回のばったりエンカウントだ。


 つまり、()()などこれっぽっちも蓄積されていない。そもそも真に人間離れしているアリシア・ホワイトの美貌に慣れる日など来るのかという疑問もあるが、それにつけても耐性ゼロ。正直なところ、油断すると毎秒見惚れそうになってしまう。


 恋敵がどうのとかアレコレをさておいて、同じ人類としての畏怖その他が止まらない。なにかと持ち上げてくる親友のおかげで、ニアも己の容姿に一定の自信は持ち合わせているが……流石にコレは次元というか()()()()が違う。


 もう女子として悔しいとかいう感情すら湧いてこない。二次元のヒロインと張り合うようなもの、虚しいだけである。


 どうして鯖味噌定食をつついている姿さえも神々しいのだろうか。


「…………」


「……、…………」


 会話が、会話が生まれない。


 別に彼女のことを嫌っている訳でもなければ、自分も嫌われてはいないということを……ありがたいことに、なんとなく感じ取ってもいる。


 ただただ、なにを話せばいいのか全くわからない。


 会話の種が、共通点がなさ過ぎる。


 いや特大の共通点が一つ在りはするが、恋敵と同一の想い人について語り合うとかいう地獄を自ら形成していく勇気などあるわけがないので無いも同義。


 とはいえ――


「…………」


「………………」


「…………」


「……っ…………」


「…………、………………」


 ――と、このように。際限のない気まずさにより結局のところ行き着く先は別種の地獄。ニアは現実逃避よろしく無心で箸を動かして


「……ご馳走様でした」


「っ!?」


 気付けばものの数分で特盛ランチを完食していた対面の様子に気付き、また一つアリシア・ホワイトへ畏怖の念を重ねていた。



 ◇◆◇◆◇



 なにを話せばいいのか、全くわからない。


 共同戦線……なんて無茶な提案をしたのは自分の方だが、それもあくまで例えの話。とにかく()()()二人掛かりで〝彼〟を恋に落としてしまおうという提案であり、仲良く手を繋いで連携しようという話ではない。


 競い合う以前の問題らしき難物を相手にするため、それどころではないと『攻撃あるのみ』の条約を結んだまでのこと。個人的には仲良くしたいと思っているが、どこまで歩み寄っていいものやら困りものだ。


 事実上の恋敵ということもあるし、それを抜いても()()()()()()()()()()()()であるのもアイリスは理解している。


 なぜならば、他でもない彼女自身が誰より『アリシア・ホワイト』の特殊性を正しく深く――そして重く、認識しているから。


 他人の目に映る自分がどういった存在であるのか、そんなことは昔から……それこそ、プレイヤーとして名を知られる以前から承知のこと。


 容姿も、在り方も、悉くが常人から逸しているのは幼い頃からわかっていた。


 ()()()()()()()()()()()()()()()。趣味人の家系は同じく〝なにか〟に特化した趣味人を引き寄せ、血と生き方を絶えず尖らせ続けて今に至っている。


 一般にまで名を轟かせたのは最近のことではあるものの、元より『特別な一族』として見られていた人間の集まり。それゆえに、そのもの特別な目を向けられるのはアリシア・ホワイトにとって当たり前のことだ。


 つまるところ――異性同性問わず見惚れられるのも、緊張されるのも、畏怖を向けられるのも、当然のこととして慣れ切っている。


 そして、理解しているからこそ難しい。


 ただでさえ前提として特別に見えてしまう存在であるというのに、それが同じ相手に好意を寄せているとなれば接し方の難易度は推して知るべしだろう。


 要するに、自分を前にして固まっているニアの気持ちが読み取れてしまうがゆえにアイリスもまた固まっている。正直なところ、打開策が見当たらない。


 重ねて、個人的には仲良くしたいと思っている。


 しかし残念ながら、自分は〝彼〟のようにとんでもない勢いで人に歩み寄っていく才能は持ち合わせていないので――


「……ご馳走様でした」


「っ!?」


 焦らずに相互理解を重ねて、ゆっくり『いつか』を望むとしよう。






ちなみに鯖の味噌煮をオーダーしたのはアーシェ。

ニアちゃんは唐突なエンカウントに動揺するまま長考を避けて同じのにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] よく考えたらニアちゃん、喋れないから食事中に話しかけられたらスマホで応対しなきゃアカンのよな その度に食事の手も止まるだろうし、気心を知れた人じゃないと余計に食事中の会話が滞りそう …
[一言] 鯖味噌・・・一からちゃんと作るとそれなりに時間の掛かるメニューな訳で、出てくるまでの時間の方はどんな・・・言うまでもなく無言のお見合い状態だったんだろうと思うと、ニアチャン緊張で壊れちゃう(…
[気になる点] >恋敵と同一の想い人について語り合うとかいう地獄 頑張ってマウント取り合っても、最終的に「今最も彼に近いのは誰か?」で共に撃沈して仲は深まりそう。 >なにを話せばいいのか、全くわから…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ