ごはんのじかん
「あーあーあー、またエラい差付けられたなぁ」
「正直やりたい放題やり過ぎた自覚はある」
従えた【星屑獣】のお次は、獲得した遺石の比べっこ――そんな第二回戦を経て、俺は明確な比較対象との〝差〟を認識して素直に反省していた。
既にトラ吉がワンちゃんに戦利品を全て与えていたため『大体これくらい』という自己申告ではあったが……それでも確実に、あっちが獲得した数と比べ十倍ほどの【星屑の遺石】が俺のインベントリには詰め込まれている。
今回は彼も知り合いの生産職と組んでエントリーしたとのことで、聞くにスタートの形は俺に近しいものだったと思われる。『森の中』か『湖の傍』かという違いはあれど、選んだ道はどちらも拠点構築スタイルだったようなのでね。
なお、トラ吉グループの『タワーディフェンス』は難易度イージーが最終夜まで続いていた模様。基本【大虎】殿が手を出さなくとも問題ないレベルだったとさ。
「思うに、初日の狩りが重要やな。そこでどんだけ稼げるかによって一発目の襲撃規模が決まり、その夜襲のデカさがそっくりそのまま〝次〟をドカンと跳ね上げる発破剤になる――とまあ、その繰り返しやろ」
夜襲の群れを全撃破前提で語っている辺りトラ吉も大概序列持ち思考。けれども、推測の速度や内容は『戦闘馬鹿』では片付けられないキレっぷり。
決して馬鹿でも阿保でもないんだよなコイツ。一部のノリやセンスや振る舞いがナチュラルボーン天然ボケタイガーってだけで。
「なんやその顔、腹立つな」
「賞賛の念を込めてんだぞ、腹立てんな。ありがとうと言え」
「そらありがとさんって、なんでやねん」
ともあれ、全体を通して有意義な情報交換だった。二つのグループの相違点を考えれば、終わってなお未知が多過ぎるイベント内容が多少は見えてきた。
まあなによりも色濃く浮かび上がったのは、とにもかくにも俺はやり過ぎを超えてやり過ぎたという特大のやらかし部分な訳だけどな。
ちなみに、予想通り【星屑獣】の〝干支シリーズ〟は俺たちが放り出された『森』の特色だったようだ。トラ吉の調伏獣が犬で「ん?」とは思ったが、あっちは普通に干支に関係ないタイプも出現したらしい。
「んで? どうすんねん、そのアホな石ころの山」
「どうすっかねぇ」
再びドッカリと腰を下ろしてワンちゃん――柴犬めいた容を取る星空のじゃれつきを慣れた様子で受け止めている飼い主から、肝心な部分へ水を向けられる。
石ころの山……つまりは、百や二百では利かない量の【星屑の遺石】をどうするかという話。とはいえ選択肢は別に多くない。
「成長率ってザックリどんなもん?」
「そこはまあ流石に元エネミーって感じやな、ウチのスターもキュートな姿して結構やるで。基礎ステも俺らのLv.1とは比較にならんし、ステポでの上がり幅もデカい。1ポイント……とは言わんが、3~4ポイント振るだけでも結構変わるな」
「ほーん……ちなみに、ワンちゃん今レベルいくつ?」
「12。ステ振りの内訳はSTRとAGIに半々や。それで大体――」
懐いている僕の鼻先にピッと指を立てたかと思えば、トラ吉は勢いよく一方を示すように腕を振り――その瞬間、
「おぉー……」
「ま、レベルにしてはって程度ではある。今後に期待やな」
弾かれたように遠くの標的へ駆け出していった調伏獣の速度に感心の声を上げている内、早々に犠牲者の悲鳴が耳に届く。
Lv.12のステータスポイントを半々ということはAGI:60程度な訳だが……確かに、その数値でプレイヤーが同じ速力を出すのは不可能だろうな。
正しい意味で、化物基準ということだ。
将来的には、中々に頼りになる使役獣となってくれそうで期待が膨らむ――ということで、第一の選択肢はサファイアの〝ご飯〟として全ツッパすること。
いや「第一の」もなにも、他の選択肢も全てソレに関わってくるんだけどな。
一気に行くか、温存するかくらいの択しかない。
最も賢いというか安牌な行動は、近く招集が掛かるであろう十席会議にて『上に指示を仰ぐ』ことだろう。が、イスティアの基本スタンスは各々勝手に強くなれであるからして、こういった選択に関しては「好きにしろ」と言われるのが大半だ。
一人ひとり好きにした結果、上り詰めたのが序列称号保持者だ――とかなんとか、ゴッサンは言ってたっけな。
それにしては、ほぼ総出で俺にアレコレ手厚く構ってくれている気がするが……まあ、いろいろイレギュラーの塊なのは自覚している。素直に感謝だ。
そしたら、どうすっかね。
個人的に、パートナーとの共有インベントリに俺が獲得した分の石しか入っていないのが気になったりもしてるのだが……。
「んー……」
俺のみならず傍の犬虎ペアにまで影を落としている巨大な『僕』を振り返る。
お行儀よく翼を畳んで首を伸ばし、サファイアは何を考えているのやら遠くの猪を静かに眺めていた――と、俺の視線に気付いたのか顔がこちらを向く。
首を下げて優しく擦り寄せてきた嘴をペシペシ叩いてやれば嗚呼ほっこり。
いやほんと、思い返せばマジで情け容赦なし極悪非道の一分キルをぶちかましてしまったというのにコレである。そりゃもういろいろな感情が湧き上がってくるが、とにもかくにも爆速で情が湧くのも無理なきこと。
紛うことなき神コンテンツだよ。やはり究極の癒したるペットは強い――既存のゲームでは不可能な『ふれあい』もできるとくれば、沼の深さは桁違いだろう。
あぁ、もういいや……全部あげちゃおう、それがいい。
「よっしサフィー全部お食べ。あ、腹一杯になったら無理すんなよ」
決めたとあれば即実行。どこぞの南陣営タッグではないが、俺も俺とてビルドに関しちゃ長々悩む性質ではない。
という訳で武装切り替え……は流石に効果適用範囲外であるため、インベントリを開いて一息に【星屑の遺石】の山をぶちまけた。
「予想通りやけど思い切るな――あ、こらスターあかんで。お前のとちゃう」
「少しくらい構わんて、ほら君もお食べ」
狩りから帰還した後。一目散に〝ご馳走〟の山に駆け寄ってきたワンちゃんに更なる癒しを得つつ、石の山から適当に一つ選んでトラ吉に放る。
駆け寄ってはきたものの、そのままガッといかなかった点お利口さんだ。メチャクチャ尻尾振ってて何とも可愛らしい。
「人の犬まで甘やかしてからに。そういうとこやで曲芸師」
「どういうとこだよ大虎」
別にいいだろ、犬好きなんだよ俺――あぁ、ハイハイ勿論ドラゴンも大好きだぞこちとら男の子だからな。カッコイイ、キレイ、カワイイ、ファンタジー万歳。
嫉妬と取るのは流石に考え過ぎだろうか。先程よりも強めにグイグイされて苦笑いを浮かべつつ、山の上から特大サイズを一つ掴み上げる。
「改めて頼むぜ我が星影よ――是非とも、健やかに育ってくれ」
現実のペットとは大いに異なる点。
明確に主の言葉や意思を『理解』する星空の竜は、嘴先で俺の手から【星屑の遺石】を摘まみ取ると……まるで「了解」とでも言うように。
大きくその翼を広げて、機嫌良さそうに羽ばたいてみせた。
背後から、突風に吹かれた虎一匹より苦情が入ったのはスルーする方向で。
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◇Status / RIM◇
Name:Sapphire
Lv:31
STR(筋力):10
AGI(敏捷):200
MID(精神):100
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STRは添えるだけ。