頻繁にレッドゾーン
「――――なるほど。まとめると……」
『はい』
「寂しくなって、来ちゃったと」
『まとめすぎだよ! はずかしい子みたいじゃん!』
「それ以外どう評せと???」
普通に忘れてきただけという本人のスマホを取りに戻らせるのも面倒かと思ったのだが、むしろこっちの方が面倒だったかもしれない。
紙とペンを与えて会話を成立させているのだが、十八番の超高速フリックと比べてレスポンスが死んでいる。ニア自身も面倒臭がっているのか、度々会話を放棄して『もういいからくっ付かせろ』と襲い掛かって来る始末だ。
なにもよくない――いやまあ、説明していただいた胸の内に関しては、理解が及ぶ範疇で『よかった』と言えるのだけれども。
曰く、目覚めてからカレンダーやら時計を見て『この三日と少しの出来事は本当に在ったことなのか』と不安に襲われたのだそうな。
そういう言い知れぬ不安に突然襲われる感覚は覚えがあるし、そうなったときに頼る先が『不安を共有できる相手』になるのも理解できる。
そんな相手が〝隣〟にいるんだから、我慢できずに勢いのまま家凸してきた気持ちもわかるというものだ――ゆえに、俺からの文句は一つだけ。
「別に夜に訪ねて来るのも構わないし、体当たりは最早いつものことだけど……服は着ようねリリアニア・ヴルーベリ嬢」
『着てますぅ。フルネームやめて』
「寝巻きは外出用の衣服にカウントされな――やめろ見せんでいい捲るな!」
チラとTシャツを捲りショートパンツを見せてきたヴルーベリご令嬢の手を引っ叩き、己の魅力を自覚しているのかいないのか不明な暴虐を止めさせる。
わざとらしく手を擦りながらジト目を向けられるが、力加減は完璧だった自負があるので正義は依然こちらだ控えおろう。
「お前は……! というかお前らは……! もう少しというかもっと女子としての警戒心というか俺はアレでアレなアレとはいえ正真正銘の男なわけで理性のメーター的なアレは曲がりなりにも実装はされちゃいるんだよわかるかなぁ!?」
俺は別に人畜無害な草食系というわけではない――と自己分析ができるほど俺も俺のことをわかっちゃいないが、少なくとも女性を異性として意識することくらいは正常にできる男であることは間違いない。
だから、そこを履き違えられると非常に辛いものがある。
まかり間違っても答えを出す前に手を出したりしないよう、これでも理性と自制をもって御三方と接しているという事実を正しく認識していただきたい。
――――というのを、もうぶっちゃけた。
恥を忍んで、どんなリアクションも覚悟して、未来に起こり得る事故を危ぶみ胸の内を吐き出した結果……結果、頬を緩めてニマーっと笑顔を浮かべるままソファをスライドして詰め寄って来るニアちゃステイステイステイ‼
「話聞いてましたかね? そういう直接的な迫り方だけは遠慮していただけると大変幸いですという旨を伝えさせていただいた次第なんですけどね?」
どこに触れても薄いし柔らかいし温かい特級危険物をクッション二刀流でガードしつつ、もう逆に制圧してしまえという気概でソファの端に押し込める。
それでもなお隙間から覗く表情は変わらず。ニュッと突き出された手が求めるところを察して、テーブルに放置された筆記具を渡してやった。
すると五秒、十秒と時間を掛けて――
『うれしいことしか言わないの、わざと?』
「っ…………ん、なぁあぁぁあああッ……!」
わかってるよ。わかってるけど、他に言いようがないだろうが!
魅力的過ぎて思わず手を出してしまいそうだから自重してくれってヤベーこと言ってるのは自覚してるよキッパリしっかりハッキリなぁ‼
仕方ないだろ、無理だって。好きとか恋とか以前に一人残らず、極々単純に女子として……あぁ、もう、本当にさぁ。
――――丁度いい機会、かな。
ここらで、ニアにもアレコレ打ち明けとくべきなんだろう。詳しく語らず俺のスタンスを理解しろってのも、無茶な話ではあるだろうからな。
『おかしくなってしまう』のが怖いってのは、伝えとくべきだ。
で、それをもってして……。
「あのさぁニアちゃん」
『ん』
「俺、兄弟がいたんだよね」
『なに』
『ま』
『まっていきなりなんのはなし』
そんなアレコレを告げられるくらいには信頼しているし、転じて大事にしたい相手であることを――少しでも察していただければ、幸いということで。
別にシリアスにはならないです。