余韻
司令塔を潰された【星屑獣】の軍勢は所詮、烏合の獣。
プレイヤーレイドの密な連携をもってすれば、多少の数的不利など大した問題ではないだろう――と思っていた俺こそ、所詮は盛り上がりに酔っていただけの非リーダー適性のアホであったと言わざるを得ない。
結果的に例の〝子〟が敵の『頭』だと断定した決め打ちは間違っていなかった。爆速で取って返した拠点で暴れていた【星屑獣】たちの動きが、明らかに精彩を欠いたものに変わっていたことからソレは確定。
しかしながら、そっから先がヤバかった。
いつまでも閉じる気配を見せない馬ゲートから定期的に湧き出す追加の群れ。そして小隊めいた組み分けを投げ捨てて絶えず森から溢れてくる星空の津波。
いや長くね?
いつ終わるんだよ?
そろそろ終わるよね?
ちょ、待っ……――――とまあ、そんな感じで。
三日目夜のように限りがあると思い込んでいたゆえの開幕フルスロットルが見事なまでに裏目り、開戦から二十分と保たずにMP切れを起こした俺はスキルの大半及びサファイアの召喚と星剣の自律機動を縛られ超絶弱体化。
頼みの綱である『決死紅』はニアに魂依器の力を回収してもらうため髪飾りを渡した瞬間に途切れており、右腕は当然のこと絶賛ぷらぷら継続中。
そんな間違っても『序列持ち』とは名乗れないレベルの絶望的なコンディションで戦い抜いた、しっかりきっかり一時間の果てに――
◇ワールドイベント【星空の棲まう楽園】の全行程が終了しました◇
◇『鏡面の空界』閉鎖時刻まで 00:00:59:59 ◇
◇プレイヤーは順次ログアウトしてください◇
◇ログアウト後、一定時間ログインが制限されます◇
◇ワールドイベント【星空の棲まう楽園】の全行程が終了しました◇
◇『鏡面の空界』閉鎖時刻まで 00:00:59:34 ◇
◇プレイヤーは順次ログアウトしてください――――
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――…………
◇称号を獲得しました◇
・『星海に触れし者』
・『星影の主』
◇スキルを獲得しました◇
・《星魔法適性》
◇スキルが成長しました◇
・《浮葉》⇒《影葉》
「――――あなうんすがあたまにひびくぅえ……」
「だ、大丈夫……?」
「どっからどう見ても大丈夫じゃないと思うよ?」
うつ伏せで地に伏す俺の後頭部に降って来るのは、気遣い半分呆れ半分のニアボイス&面白愉快十割のノノボイス。
久方ぶり――という訳でもないが、無理を押してのノンストップアクションにてキツめの幻感疲労が脳内を占拠している。頭をつつかれようが椅子にされようが、今の俺には如何なる逆襲も成し得ないだろう。
「……起こすか?」
「たのます」
不甲斐なさアピール代わりに土ペロ続行も吝かではないが、まあみっともないので早々に立ち上がるが吉……ではあるものの、アバターが動かねえ。
ので、続いて降ってきたお声のご厚意に甘えさせていただくことにする。
ぐでんぐでんな身体を鉄さんにガッと持ち上げられ、ヒョイと切り株の上に座らされる。一瞬踏ん張ってはみたものの、力及ばず後ろへ転がりそうになった背中はワタワタと相方が支えてくれた。
毎度のことながら締まらねえ……やっぱ俺は大局観が甘いというか、改めて指示出しリーダーは向いていないと自認させられたと言えよう。
ともあれ――
「ハハ、死屍累々」
「キミが一番ソレだけどね……」
幸か不幸か、ぶっ倒れているのは俺だけに非ず。うつ伏せ、仰向け、その他アクロバティックな有様で軒並み伏しているレイドメンバーたち〝三十三名〟は、一人残らず強烈な幻感疲労に囚われて行動不能となっている。
本当に、死屍累々としか言いようのない光景ではあるが――全員生存、見事に達成だ。よくぞ戦い抜いてくれた勇士諸君。
「残り一時間ほどありますけど、打ち上げってテンションでもないですよねぇ」
「無理だろう。そこで全員生存が崩れかねないぞ」
「ハハ」
「ねぇ、一ミリも頭回ってないでしょ」
条件反射的に乾いた笑いを漏らせば、背もたれになってくれているニアに頬をつつかれてしまう。が、その勢いはいつになく優しいというか遠慮がち。
マジで動けない状態になっているところを見られるのは、思えばこれが始めてか。心配させてしまったのかね。
「大将さんもそんな感じですしぃ……名残惜しさはあるけども、今日のところはサラッと解散にしちゃいましょうかー?」
俺たちだけでなく、皆に向けて呼び掛けたのだろう。
墓場のような光景に似合わぬ相変わらずの元気な声が響けば、半死半生の者たちから賛成を示す呻き声が上がる。
俺も賛成――しからば、グダグダなりに通達はしとかなくちゃな。
「あー……伏したままで結構なので総員傾聴フレンド諸君。できればそう遠くない内に、なんか企画して召集掛ける。ので、都合の合う人は奮ってご参加ください以上解散おつかれ楽しかったぞ野郎共ぅおー」
「それ、私たちも呼んでいただけるんですー?」
「ご迷惑でなければ勿論。別に戦闘要素なしのピクニックとかでもいいだろ」
「やったぜわーい! 一鉄君お弁当作ってね三十六段重ねで!」
「重ねる必要がどこにある」
疲れ果てて感嘆符すら機能していないヘロヘロの宣言ではあったが、推定三十名以上から返されたと思しきリアクションはどれもこれもポジティブなものだったので万事ヨシ。
リーダー役は向いちゃいない。けれども、こうして慕ってもらえるのは……まあ、なんだ。全くもって、悪い気はしないってな次第で――
「それじゃまあ、とりあえず解散の方向でまとまったところで……現実的なお話を一つ。この散らかりまくった戦利品の山はどうしま――」
「イヤです」
「やめてくれ」
「おほしさまきらきらできれい」
「もう疲れちゃって」
「全然動けなくてぇ……」
「欲しい人が拾って帰ればいい」
「ここだけガチの不満点……‼」
「なんでインベントリ機能してないんすかねぇ……」
一時間にも亘る無限湧きと思しき【星屑獣】との死闘。それが齎したのは当然というか、地上に広がる一面の星空。
数を数える気にもなれない【星屑の遺石】の海。その回収作業に俺たちが乗り出したのは……結局、それから十数分ほど死に体を継続した後のことだった。
だって(少なくとも初回から)そこまで稼がれることを想定していないんだもの。
ということでワールドイベント偏、一旦の了。第一節はもう少しだけ続きます。