灯火
賑やかな宴を経て、遂に訪れた最終日のVM10:00――その十分前。
元気溌溂、やる気満々、意気は揚々と各々完璧なコンディションで迎えたフィナーレ直前。例の砲台設置用とは別の御立ち台に乗っけられた俺は、直径三百メートルの巷で『目の保養』と評判の美少女フェイス with 仏頂面で固まっていた。
「なんか一言と申されましてもねぇ……」
「「「そこはほら、ノリだから」」」
「おい既に息バッチリだろこれ。意思統一の鼓舞とかいらねえじゃん」
なんとなく嫌な予感はしていたが、ズバリといったところ。
開始直後は実に百二十六という大きな数字を示していたカウントダウンクロックに残されているのは、ここに至って僅か二時間のみ。
イベント終幕の祭りとなるであろうラストの襲撃の規模も構成も予測できない以上、どんな終わりになっても良いよう予め〆ておこうというのは自然な流れだ。
で、メンバーが総勢三十六名もいる以上、サッパリ終わらせるのであれば代表者一名がそれっぽいことを言う形に限るだろう。そしてその場合、誰が『代表者』に祭り上げられるかなど言うまでもないってな訳で……。
指示出し程度ならともかく、これ系の経験値はないのよ俺。勘弁してくれ。
「あー…………それじゃ、そうだな。まずはここまでの慰労と感謝の意を互いに伝えようということで――三泊四日、お疲れさまでした」
職場の付き合いの幹事役かな?
と、我ながらお堅い口調になってしまったのは自覚している。やまびこと共に少なくない者から忍び笑いを頂戴してしまったのも仕方なしといったところ。
お恥ずかしい限りだがゴッサンやアーシェみたいなのを期待されても困るし、皆も俺にそんな期待はしていないだろう。
俺がどういった人間なのかは、この三日と少しで十分に示せたはずなのでね。
――――で、それゆえに。
「なんというか、いいグループだったと思うよ。そんでもって、いい〝パーティ〟だった。俺、オーバーレイドは経験済みだけど普通の三十六人編成は未経験だったんだよね。だからまあ……そう、あれですな」
それっぽいことをそれっぽい顔で言うくらいしか能のないリーダー役に、よくぞ最後まで付いてきてくれましたということでね。
「皆のおかげで、一発目が良い思い出になった。ありがとう」
こっぱずかしいが言うべきことは言っとこうと、口にしたのは正解だった。俺もスッキリしたし、グループ……もとい、パーティメンバーの顔を見渡した限りじゃウケはバッチリだった模様であるからして。
若干二名、女性陣のニヤニヤ顔は見なかったことにしておこう。
こんにゃろう。一秒で壇上に拉致して立場を逆転させてやろうか……と思いはしたが、それで取り乱すのはニアだけだろうな。
ノノさんの方は壇上挨拶くらいサラッとこなしそうだ――と。
そうそう、最後にもう一つだけ。
「といったところで、今更だけど全員にフレンド申請なんか送らせていただこうかってな次第ですが……さて、如何でしょうかね?」
タタタッとウィンドウを操作して、申請メッセージの送り先に指定したのは視界に納まる三十五名――うち既に登録が済んでいるニアと鉄さんの二人を除いて、計三十三名の目前に小さなシステムウィンドウが展開した。
願わくば、暇を見つけて再び集まる機会でも持てたら――とか考えたわけだが、果たして結果は五秒と掛からず。
誰が言ったか『有名人名簿』と化していた俺のフレンドリストに、多くの〝普通の友人〟の名が刻まれたのは……実に、喜ばしい限りである。
――――しかして、十分後。
御立ち台の高度を地上約十メートルに移し、照れその他を原因とする顔の熱を冷ましつつスタンバイする俺の肌が異常を捉える。
木々が揺れ、葉が鳴り、伝わり来る森のざわめきは疑いようもなく過去最高。これまでにあった四度の襲撃を踏まえて幾つものパターン想定は用意しており、また各種対応策も設定&共有済みだが……さて。
まるでプレイヤーたちを焦らすように、森の闇から未だ〝星空〟は現れない。そしてその時点で、今朝と同じくこれまでの夜襲とは性質が違うことは確定だ。
明らかにコントロールされた攻め手――つまりは十中八九、連中は烏合の衆を脱していると考えた方がいいだろう。
「…………〝子〟か〝丑〟か〝酉〟か〝午〟か……さて、頭はどいつかね」
おそらくはラストイベントの要となるであろうギミック。単一の特殊固体か、はたまた複数体の司令塔型か……知る由もないことだが、ともあれ。
数多の影が一斉に森を突き破った次の瞬間、俺の役目は確定した。
それ即ち――
「望むところではあるけど、そればっかだな俺」
舞い上がった数え切れない『翼』の大群を迎え撃つ、孤軍奮闘の対空殲滅。
昨夜から出現した〝竜〟の巨体のみならず、小型の新顔である〝鳥〟も含めて夥しいほどの数だ。オマケに、なにやら特別感の漂う竜の親玉らしきデカブツが真直ぐこっちを見つめているとあれば――――
「パターンD……そしたら、地上は頼むぞ野郎共」
眼下。空に続いて群れが現れ始め、中にはこちらも親玉らしき〝虎〟のデカブツが見て取れるが……地上は、彼らを信じて任せる。
もちろん、最後まで全部をという意味ではない。
いい加減に己が立場の自覚は十二分――なんて、何度も心の中で呟いてきたが……此度先頭を往く者として、今こそ正しく果たそうではないか。
この身に求められているであろう、完全無欠の活躍を。
さあ、悉く狩り墜とすぞ相棒。
喚び出したるは【真白の星剣】。どうもコイツはそれ系のムーブというか、英雄的云々の盛り上がりを好んでいるような気がして仕方ない。
根源を辿ればまあ理解もできるが……それにしたってわかりやす過ぎるというか、ノリノリであることを示すように仄かな光を放つ星剣に苦笑を一つ。
鍔に埋め込まれた紅の玉石へ手を翳して、唱えるは鍵言。
「真白ノ追憶――――《赤円》」
見据えるは星空、携えるも星空。おそらく気のせいではないのだろう、まるで『どちらの輝きが強いか示す』とでも言わんばかり、
強く強く、光り輝いた玉石から――『赤』の奔流が溢れ出した。