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アルカディア ~サービス開始から三年、今更始める仮想世界攻略~  作者: 壬裕 祐
桜花一片、無窮の天嵐は影と遊ぶ 第一節
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連なる獣と重なる風

 拠点構築、良し。食糧確保、良し。戦力、まあ概ね良し――と、人が集い始めてからというもの、順風満帆とさえ言えるほどスムーズかつ順調にサバイバルを楽しんでいた我らがグループ。


 職人系プレイヤーが三人しかいない偏った編成ではある。しかし少なくともその過半数の実力が魔工師として一般平均から大きく突出していることもあり、バランスを逸した構成でもなんとか釣り合いが取れた形だ。


 各々の相性も良く……というのは、人格者だらけのアルカディアでは珍しくないことなのかもしれない。が、幸いな点であることには違いないはず。


 展望を語るほど先を見通していた訳でもない。それでも総じて基本的に皆ゆるく、ふわっとした〝安心感〟を抱えていたのは確実だろう。



 ――――それゆえに、


「うーん……中々に地獄絵図・・・・


「口調が長閑だなぁッ!?」


 わかりやすい阿鼻叫喚の光景が超絶ギャップというか、平和からの落差でお祭り騒ぎ感がとんでもないというか……サクッと長物・・の首を落としつつ呟いた俺に、危機から脱した魔法士殿からも大変スピード感のあるツッコミが飛んでくる。


 二日目夜、予想に違わずVM10:00より始まった二度目の襲撃。


 前日に比しておおよそ五倍近い・・・・大規模な【星屑獣リム】の群れを相手取り、防衛線は現在進行形でどこもかしこも怒号が飛び交う大乱戦だ。


 俺のよく知る上位勢やイスティアンと比べてしまうと、ぶっちゃけ我らがグループメンバー諸君は火力に乏しい。安定志向ということか、耐久面に関しては誰も彼もしっかりしているので早々落ちる心配はなさそうだが……。


 早々はなくとも、流石に昨日と同じく一時間フルは保たないだろうなコレ。


「そしたら…………ロブさん! 半分削ればあと大丈夫かな!」


 危ない所へフォローに入った部隊のリーダーへ問いを投げれば、ちょうど狼一匹を斬り伏せた双剣使いロブラップは「はぁ?」みたいな困惑顔を一瞬浮かべて――


「簡単そうに言ってくれちゃうねぇ……んなもん余裕も余裕よ! ()()()()!」


「よし来た、お任せあれよ」


 携えた【早緑月】を軽く振って――敷いた道筋を、辿り跳ぶ。


 狼や猿は控え目スペックに加え、昨日からの慣れもあって多少の群れ程度どうとでもなるはず。猪については森を切り拓いてスペースを確保したことで、接敵までの猶予が増えたため馬鹿正直な突進を見てから後衛が余裕で処理できる。


 なのでまあ、俺が相手をすべきなのは……順当というか、新顔の三種だろう。


 新種その一、すばしっこい上にそこそこの筋力値で器用な蹴り技を見舞ってくる〝兎〟型。兎と言えば思い浮かぶのは【紅玉の弾丸兎(ルビーバレット)】だが、コイツに関してはアレと比べれば可愛いもの。


 好んでインファイトを仕掛けては来るのだが、ちっこい体躯も相まって迫力自体は大したものではない。兎らしい敏捷性を見ても、こと俺に関しては基準がバカゲー極まる殺人弾丸兎なので――この程度、愛玩レベルってなもんよ。


「《ルミナ・レイガスト》」


 起動するは、進化を果たした便利有能スキル。以前の《ウェアールウィンド》までは四肢の先端に限定されていた風を全身に纏い、近場で近接戦士を翻弄している小兎どもを目に付く傍から手足肘膝で叩き落としていく。


 俺の駆け足に反応する素振りを見せなくもないことから、()()()()()()()()()()()()()()()的な感じなのだろうが……。


 残念、精々『纏移』に対応できるようになってから出直してくれ。


「いやえっぐ……あざっす!」


 とはいえ、重量武器持ちにはキツい相手だろう。ひいこら言いながら弄ばれていた大剣使いの礼にブイサインを返しつつ、お次は長物デカブツ掃除と行こうか。


 新種その二、体長十メートル……までは、いかないか? ともあれ、プレイヤーと比べれば遥かにデカく長い体躯をうねらせて襲い来る〝蛇〟型。


 純粋に巨体ゆえのタフさを備える上、一直線に突進ばかりを繰り返す猪とは異なり攻め方が慎重で狡猾なため厄介さが桁違い――しかしながら、十分な攻撃力と間合いに踏み込む足さえ確保できていれば単に的がデカいだけ。


「いよ――っと」


 踏み込み、一閃。先にメンバーを助けたのに続いて二匹目、大蛇の首を翠刀の刃がアッサリと斬って落とした。


 攻撃行動の予備動作で一々ゆらりと鎌首をもたげるのだが、飛べば届く高さなので俺にとっては『さあどうぞ』と首を差し出されているようにしか見えない。


 攻撃モーションはコンパクトにした方がいいと思うぞ、出直してくれ。


 んで、新種その三――正直、コイツに関しては俺でも油断がならない。というのも、俺自身に対する脅威度というわけではなく……あ、やべ。


「《空翔ロケット》!」


 戦場の一角から跳ね上がった黒い砲弾が防衛線を軽々と飛び越え、弧を描いて拠点の中心部へ落下していく。そこそこのサイズ、そこそこの速度――そんな黒い毬・・・に、【海星蛇の深靴マリステイク・ブート】の補助により出力を絞った《空翔ロケット》で追い付くと同時、


「曲芸サマーソルトぁッ‼」


「――うわっひゃい!?」


 我ながら奇天烈な身体駆動で放った空中回し蹴り(風エンチャ)のクリーンヒットを受けて、()()()()()……もとい、丸々とした〝羊〟型がサッカーボールよろしく彼方へカッ飛んでいった。


 どうやら流石にHPは削り切れなかったらしい、しぶとい奴め。


 あれこそが例の新食材候補。昼間は遭遇しても基本あの馬鹿げた跳躍力で逃げてしまうらしく、残念ながら今日の夕飯ではありつけなかったマトン様である。


「っと、大丈夫か?」


「こ、腰抜けるかと思った……!」


「むしろ抜けてないんだ?」


 おそらく、間近で派手な蹴撃のインパクト音を聞いてのことだろう。悲鳴を上げて尻餅をついていたニアを引っ張り起こ……すのはノノさんに任せて一定距離を維持。不満げな目を向けられるが、ただいま暴風を着ているゆえ許されたし。


「いっやぁ~流石流石ピンチにバッチリ駆け付けましたねぇ!」


 と、例によってノノさんから弄りが飛んでくるが、そう言う彼女も腰が引けているのを隠せてはいない。隣の鉄さんは辛うじて平静を保っているものの……。


「やっぱ危ねぇな……大人しく屋内で隠れててもらったほうがいいかも?」


「えー、折角なら見学してたいんですが」


「怖がってんだかいないんだか……」


 気持ちはわかるが……いや、うん、そうだな。


 気持ちはわかる。ゆえに、彼女らが観戦を続けられるよう奮闘に努めるべきか。ランダムターゲット――否、標的を定めているのかすら怪しい〝羊〟の大暴投に関しては、俺が責任持って一つ残らず墜とせばいいだけの話だ。


 そしたらば、


「ニア、ちょっと預かっててくれ――あ、重いぞ。持つなら気を付けろ」


「へっ? あ、う、うん。いい、けど」


 右腰から鞘ごと【早緑月】を外し、傍の切り株に置いて相方に託す。インベントリが満杯なので仕舞えないというのもあるし、腰に提げっぱなしだと若干重たいというのもあるし……なによりも。


 まだまだコイツら相手では、お師匠様の刀は威力過剰で耐久力が勿体ない。イベントが終わるまで、他の誰かに整備を任せる訳にもいかないからな。


「っし、サクッと間引いていきますかね」


 両手に小兎刀を呼び出し、少し迷ってから《転身トランス》起動。先程は焦って思わずぶっぱしたが、戦場の端からでも素の脚で羊の対処は間に合うだろう。


 てことで、いざ。


「んじゃ、いってきます」


 軽くヒラリと手を振って、三者三様に呆れ交じりのお顔を一瞥した後――脚に火を入れ、昼間に皆でえんやこらと均した平地を疾く駆ける。


 傍を通り過ぎればピクリと耳を立てて反応する〝兎〟を疾駆の動作で片手間に薙ぎ払い、いっそ止まって見える悠長勢の〝蛇〟を頭の先からぶつ切りにして、目に付いた〝羊〟は跳ね飛ぶ前に片っ端から小兎刀連打で穴だらけにしつつ間に合わなければ追って叩き墜とす。


 ――――結論。少なくとも俺には、()()()()()()


 ――――しかし同時に疑問。()()()()()()()()()()()()()()()()


 初日の襲撃は最悪、俺がいなくとも対応可能な範疇だったと思われるのでまだわかる。が、今回のは多分……まあ序列持ちレベルまで行かずとも、上位帯の戦闘員がいくらかいなければ完勝は難しかったのではなかろうか。


 良くて辛勝、下手をすればジリ貧で犠牲者が出ていてもおかしくない規模だろう。二度目にしては、難易度の上がり幅が大き過ぎる気がしないでもない。


 さて、なぜか……というのは、まあ多少なり推測は出来てしまうのだが――おっと、これはこれは結構な団体様が御来場だ。


 ご予約は承っていないが、回れ右してお帰り願っても叶うまい。


 しからばブレーキ無しに()()()()()()()()()()()駆ける先、外周の森からドバっと溢れ出した大規模な群れをターゲティング。



 既に〝チャージ〟は十二分。



 実戦運用は初だが……ここらで盛大に、ぶっ放してみるとしようかねぇ!


「悪い! 空けてくれッ‼」


「ッ――散開! ()()()()()()()()()逃げろ逃げろぉッ!」


 注意喚起に素早く対応してくれた部隊が『影響予測範囲』から退避したのを確認して、緩めていたアクセルを一気に踏み込む。


 行く手には猿や兎など小物から始まり、猪や蛇などの大物まで勢揃い。わらわらと湧き出したザっと三十体前後の群れへ突貫する身体を取り巻くのは……轟々と膨れ上がり、極限まで圧縮された風の渦。


 《ルミナ・レイガスト》――術者を取り巻く風の護りは、疾く駆けるほど、長く駆けるほどにその暴威を加速度的に増していく。


 そして限界まで溜め込まれた風が、一度この掌から解放されれば、



「そら、ぶっ飛べ――――《威風慟導デストラクト》」



 巻き起こるのは、目前全てを呑み込む大嵐。


 長い白髪と衣装の裾が激しくはためき、地に突き立てた両脚アンカーが盛大に土を抉って後退する。しかして一瞬後、風とは思えぬ轟音が過ぎさり残されたのは、


「うっっっっっっっわぁ……」


「ヤバ過ぎ」


「怖過ぎ」


「逆らわんとこ」


「次元が違い過ぎて笑けてくるんよなぁ……!」


 口々に好き勝手を言われても仕方ないと、諦めざるを得ない大惨事。


 想像を遥かに超える威力を叩き出し、()()()()()()()()()()()()己が一撃の余韻をマジマジと視界に納め……静かに、首肯を一つ。


「………………た、対群性能は、まあまあかな?」


 チラホラと降って来る落ち葉を髪から払い落としながら――冷静を努めて口にしたつもりの独り言は、僅かばかり震えていたかもしれない。


 我がことながら、予想の三倍はエグくてビビり倒したのは秘密にしておこう。







・《ルミナ・レイガスト》――《ガスティ・リム》派生第三段階。

 前身《ウェアールウィンド》から風域の範囲が拡張され四肢以外にも護りが及ぶようになった他、術者の移動速度&移動距離に応じて風力が蓄積。『暴発リリース』の強化が出来るようになり、限界値まで溜めると特殊アサルト《威風慟導デストラクト》を発動可能。


 巻き起こす現象の規模は派手に見えるが、威力的には『そこそこレベルの雑魚』を吹き飛ばす程度が精々の対群広範囲中威力スキル止まり。タイガー☆ラッキーレベルの強者なら鼻歌交じりで突破してくる。ビックリはさせられるかもしれない。


 ついでに風力の蓄積量に応じて攻守の強化性能も増していくため、一定以上にチャージが貯まってくると防御だけではなく攻撃アクションの威力上乗せエンチャントとしての働きも期待できるようになる……が、上限まで蓄積した状態を維持し続けると最終的には暴発して自傷大ダメージを受けるので要注意。


 大前提としてマグロみたいに戦場をアホな速度で駆け回り続けるような変態でなければ大して風力を蓄積できないので、お手軽に範囲火力へ転用できてしまうのは主人公が特例。そもそも現時点でユニークなので特例もなにもないけれど。



 よし、まあまあな性能だな。




作者ついXにて、自称メイドに続き専属魔工師殿のキャラデザを公開中。

気になる方は御覧くださいませ。


あ、アルカディア書籍版は明日発売! あっという間だぁ!!!

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― 新着の感想 ―
[一言] 予約してたので購入、読破致しました! 面白かった、イラスト付くと余計神作品やったわ…
[一言] 今確認したら電子書籍版の予約がやっと開始してたのでポチりました。とても楽しみ。 (著者がコントロールできる部分では無い認識ですが) 先週だったか確認した時はまだだったので、電子書籍版は予約…
[気になる点] > これは果たして、大衆向けの難易度か? キル数に応じてエネミーが増えるに一票。 狼の段階でハズレかと思ったけど、やっぱり干支? 実は1番ヤバいの、小さくて多いネズミ型じゃないかと…
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