締まらぬ音頭取り
◇称号を獲得しました◇
・『木こり』
「端的が過ぎる」
素っ気ない二つ名を寄越してきたシステムに地味な笑いを零しながら。一仕事、二仕事……絵面の規模的には、十仕事くらいを終えた心持ちで伸びを一つ。
直径にして百メートル程度、だろうか。
綺麗な円――になっているかはわからないが、三棟のログハウスを基点にグルリと樹を刈り取って随分と見晴らしが良くなった。
情け容赦なく〝拳〟を振るう最中に『これって純粋なる自然破壊なのでは?』と良心が声を上げたが、まあゲームだからの一言で樹木諸共バッサリ両断。これもイベントを生き抜くためということで、お許しいただきたい。
といった感じに、昨日に引き続いての伐採作業が終わったわけだが……。
「「――――――……」」
比喩なく山と積まれた大樹の数々を見て、遠い目をしているのは女子二名。
これから始まる作業の途方もなさを憂いてのことだろう。藍とオレンジ、それぞれの瞳から光が消えているように見えるのは気のせいじゃないはず。
せめてインベントリが通常通り機能していれば片付けも……容易、ではないか。素材系アイテムの容量圧迫に関してはシステムの忖度が働くにしても、流石に巨樹を丸ごと仕舞おうとすれば一本で『鞄』が膨れてしまいそうだ。
まあ別に、そっくり全てを加工する必要もあるまい。
「ざっと枝やら葉っぱやらだけ処理して、大部分はそのまま〝壁〟に使っちまおう。設置や固定にちょっと頭使えば……ま、なんとかなるだろ」
そう言って平和な案を出せば、わかりやすく安堵した様子のお二人さん。いや流石にね、そこまで全力全開で負担を掛けるつもりはないともさ。
ただし、実際になんとかするためには問題が一点だけ――俺、拠点建築系わりと苦手なんだ。苦手というか、あまり拘れない性質なので適当になりがち。
ゆえに、今後の生命線となるであろう防壁構築の音頭を俺が取るのは……若干というか、かなり不安。いやもうぶっちゃけると、やりたくない。
ので、
「皆が戻って来たらヘルプを頼もうか。で、もしクラフト系のゲームを嗜んでた人なんかがいれば丸投げ――もとい、陣頭指揮を執ってもらおう」
「さんせーい」
「そしたら、皆さん帰ってくるまではお家の方を弄りましょうかー」
異論はないようなので、昨日の〝絵〟に続き微妙なセンスを晒さずに済んで一安心……いや、アレに関しては本当に違うんだよ。
普通に紙とペンで挑めばイラストなんかも人並み程度に――
◇◆◇◆◇
「昨日から気になってたんだけどさぁ」
「うん?」
「アレ、なに?」
「さぁ…………イン、テリア……?」
「なんて書いてあんだろな」
「まず、絵ですか?」
「文字じゃね?」
「あぁ、象形文字的な……」
………………………………。
「やめろ、そんな目で俺を見るな」
狩りに出ていた野郎共が帰還した後、昼食時。
天井から吊るされている謎の木片を見た彼らが口々に零す疑問を耳で拾ったのだろう、ニヨニヨと笑みを浮かべて俺を見るノノニアに半眼を返す。
今更『とくと見よ』などと言ってリベンジするにしても、ゆうて別に得意という訳でもないので……ハードルが、手の届かないところまで上がってしまった感。
誠に遺憾である。
二日目半ばにして、既に安心と信頼を勝ち取っているシェフの用意した昼食を囲みながら――ノノニアが頭を悩ませ俺が身体を動かし拵えた机や椅子が並び、そこそこ立派に『食堂』めいた雰囲気を醸し始めた宴会場にて。
あれこれ〝戦果〟を持ち帰った男衆から報告を聞いたり、鉄さんが言っていたように『これからの方針』を改めて問われたり。
リーダー……というよりも、求められているのは音頭取りなんだろうな。
元々、アルカディアにおける戦闘員は難易度設計的に集団行動が基本。その『基本』を守る最たる者たちである一般勢は、人の多さには慣れている模様。
しかしというべきか、だからというべきか、それゆえに。彼らは円滑な集団行動をこなすため、なあなあではなくしっかりと『頭』を決めたいのだろう。
んで、まあ……他でもない序列称号保持者、だからなぁ。俺自身は別に下っ端としてヘイコラ働くのも吝かではないが、そう振舞うことこそが彼らの負担になってしまうと考えれば納得せざるを得ない。
恥ずかしながら、大役謹んでお受けしようではないか。
「――――ということで……じゃあ悪いけど、建築作業班はオークス氏の指示に従って防壁設置を最優先でよろしく」
「りょうかいーっす」
「頼んますぜ大将」
「あ、あんま期待しないでね? ほんと、ちょいサバクラ齧った程度だから……」
とりあえず今夜までに敷設を済ませなければならない、目下最優先事項である防壁に関してはそんな感じで。タワーディフェンス要素のあるサバイバルクラフトゲーム経験者とのことらしい斧戦士、オークス氏に作業を一任。
なんか今更になって謙遜を始めているが、さっき聞いた語り口からするにそこそこ『それ系』をやり込んでいるものと思われる。
預けた五人の部下共々、上手くやってくれるのを期待しよう。
「で……他二班に関しては話した通り、現状維持だけど〝役割〟をちょい意識で。調査班の方は、あまり戦果の持ち帰りとか気にしなくていいから」
「ういっす!」
「いろいろ探ったり試してみますわー」
班分けするにしても、元より流され上等のサバイバル。あまり細かく分割するのも不要にゴチャるだけということで、残る二十七名はざっくりほぼ半分こ。
引き続き【星屑の遺石】をメインに物資集積を目的とする狩猟班と、例の『調伏』システムや周辺環境などアレコレ調べてもらう調査班だ。
現状維持ということで、彼らには引き続き森へ入って狩りに勤しんでもらう。
時間経過か戦利品の蓄積量か……なにがトリガーかは謎のままだが、既に昨日からいろいろと様変わりしているらしい。遠くから寄ってきたのか、はたまたそこらで湧き出したのか、ともかく順調にイベントは〝進行〟している模様。
昨夜と比べ早速ながら種類が増えているとのこと。もし今夜また襲撃があるとすれば、昨日より一層賑やかなものになると考えておいた方が良いだろう。
「狩猟班には新食材、期待しときますね」
「いやぁ、アレは……」
「狩れるかなぁ」
「不意打ちワンチャン……?」
なにやら面白い、かつ食材として期待できそうな奴も現れたという話なので――机の端っこで大人しくしつつも、キラキラお目々から期待が漏れ出しているニア共々に期待を掛けさせていただこう。
わりと肉食か? ともあれ、ミーティングは終わりということで。
「んでは、そういうことで。ハイ解散っ!」
スパンと景気よく拍手を打ったつもりが、元の身体と比して小さな両手から上がったのは『ペシン』と間の抜けた頼りない音であった。しからば向けられるのは、なんとも言えない生暖かい視線。
締まらない真似をしたのは百パー俺の責任だ――が、しかし。
恥を誤魔化すように《転身》を再起動して裏返った途端、方々から残念そうな溜息が聞こえたのは許さない。男ですがなにか問題が?
「ん゛んッ…………どうした諸君、疾く仕事に掛かりたまえ。ん?」
腰にある刀の柄へ特に理由もなく手を添えニコリと微笑めば……わかりやすくノリ良い男性諸君は賑やかに、かつ逃げるように席を立ち駆け出して行った。
ハハ愉快、囲炉裏の真似は効果抜群だったようである。
……波が引くように静かになった食堂にて、一つ気になる点といえば。
「なんで急にニヤつき始めたの?」
「いや、あの、ちょ……っと」
冗談交じりの演技で剣聖様大好き侍の冷たい威圧声をトレースした結果……何故か隣の相方殿が、ほっぺの制御を失ったことくらいだろうか。
なんだその妙な視線は、突然どうしたというのかね。
(乱暴な口調や冷たい声音が若干ながら)癖です。
私のじゃないです、ニアちゃんのです。