地に足着けてフライハイ
「――――やー、チラっとしか見れなかったけど、まぁた腕上げたなー? さっすがニアちゃん私もうかうかしていられませんなぁ!」
「常に全力投球で〝うかうか〟の対極にいる人がなに言ってんの……?」
「それに『彼』のあれもニアちゃん作でしょー? 相変わらず、男女どちらでも得手不得手ないのは強いよねぇ嫉妬しちゃう」
「一極型の『隣の芝は青い』だよそれ。本物の超一流が中途半端を羨まないの」
「…………よく知らんけど、お前も自分のこと中途半端とか言っちゃいけない立場なんじゃないのか? 数多の細工師&裁縫師が仕事投げ出すだろ」
「ハイほんとそれー! 彼氏さん良いこと言った‼」
まさかの有名人、それもニアの友人を含む職人ペアと合流してからしばらく。
周囲一帯の猿を狩り尽くしてしまったのか、はたまた『化物』を警戒して近寄って来なくなったのか。帰ってきた平和を謳歌しながら森を歩きつつ、俺たちは賑やかに親睦を深めていた。
いや、主に〝賑やか〟レベルなのは一人だけではあるのだが。
「一応、彼氏ではないです」
ニアの心情を慮ってぼかすべきか迷ったが……ここはまあキッパリ言っておくべきだろうと決め、否定を返せば向けられるのはにんまり顔。
「え~? それでですか~?」
「言われてるぞニアちゃん。そろそろ離れなさい」
「イヤですー! 大体、そっちが隙在らば擦り寄ってくるからでしょうが!」
とかなんとか言いつつ荒ぶりだし、賑やかの一員に加わったのは俺の左腕にぶら下がってる藍色娘。警戒心を露に、友人相手に「シャー」と威嚇していた。
猫かお前は。
「別に擦り寄っては……」
「まあ擦り寄ってますけども」
「いるんかい」
んで、このノノミちゃんさんとやら。どうにもキャラクターが掴み辛い。外面フレンドリーで人懐っこさの化身のように見えて、なんか距離感が独特というか絶妙な『線』を感じさせる。
おそらくこれ、距離感を見誤った男が即死するタイプの女子(?)だ。装っているのか素なのかは知る由もないが、友人の友人と油断せず注意して接することにしよう――ま、所詮は俺個人の見解ゆえ杞憂かもしれないが。
「そりゃあ擦り寄りますともー。四柱戦争の劇的爆裂ドラマティックデビューから始まり、先日公開された『白座』討滅戦も含めて話題沸騰中のスターですもの。お近付きになっておいて、損はなさそうですし?」
「現在進行形で、友人に警戒されるという〝損〟をしてる気がしますけども」
「可愛い友達の可愛い嫉妬姿が見られたので、プラマイちょいプラス寄りですね! ご馳走様です!!!」
「元気いいなぁ……」
しかしまあ……ニアが威嚇しつつも本気で怒る様子は見せないところを鑑みるに、それが許される程度の関係性ではあるのだろう。
そういう意味では、あまり気を張る必要などないのやも。
「――ノノミ、ほどほどにしておけよ。あまり面白半分に揶揄うものじゃない」
と、こちらの相方さんが終始落ち着いたトーンでストッパー役となってくれているのも、安心材料の一つではある。
素直に言うことを聞く……という感じでもないが、むしろ彼が自分を止めること前提でアクセルを吹かしている気配がしないでもない。
「わかってますよーだ。ごめんねニアちゃん――――さてさてそれじゃ、本格的に今後の相談でもいたしましょうかー?」
膨れっ面を向けている友人にカラッとした笑顔で謝罪を一つ、直後にバチッとスイッチを切り替え真面目な顔を披露するノノミちゃんさん。
その様子が、こう言っちゃなんだがニアにそっくりで笑いそうになった。
「合流可能な距離に他のペアがいることは、わかった。安定を求めるなら、この輪を更に広げていくべきだろうな」
「それか、既に出来てるかもしれない大集団に私たちが加わるかだね。なんにせよ、森を抜けないことには始まらない気がするけど」
「……むしろ、切り拓いて拠点にしちゃうのもアリじゃない? この森、結構あれこれ素材が豊富だったし。それができる人もいることだし」
一鉄さんから始まり、ノノミちゃんさんからニアの流れでひとまず意見が出される。すると最後の提案を理由に、自然と俺へ三人の視線が集まった。
そりゃ、やれと言われたら伐採くらい朝飯前だけども――
「俺が存分に力を振るっていい前提なら、とりあえずもっと簡単に今後の指針を考える材料を提供できるぞ。どうする?」
既に迫り来る脅威をワンマンで蹴散らした後であるため、気を遣うのは今更かもしれない。しかしながら、皆で考えて楽しむ系のイベントとしてこの状況を捉えるのであれば……俺も、地に足着けて楽しんだ方が〝得〟だと思うわけだ。
ゆえに、進んでやりたい放題やるのは自重していく所存。必要とあれば、また求められれば便利ツールとして働くのも吝かではない――むしろ喜んでといったところではある。そのため、判断は同行者たちに丸投げしてしまおう。
「んー……ちなみに、なにするつもりです?」
俺の言葉から内心を読み取ったのか否かは定かではないが、首を捻って考える素振りを見せたノノミちゃんさんが問うてくる。
その質問に、俺はただ当たり前のごとく人差し指で〝上〟を指して――
「空から、森の全貌を確認する」
「「「あー……」」」
また当たり前のごとく簡単な方法を伝えれば……各々の名声はともかくとして。ステータス的には一般人でしかないであろう三名は、皆一様に『その手があったか』と感心したような顔をしてみせた。
これも戦闘員と非戦闘員の間で生じる、思考の乖離というやつだろう。
――と、いうことで。
「……それじゃ」
「お手数おかけしますが!」
「よろしくー!」
「はいよ、任された――っと!」
目指すは空、ひとっ走り行ってきますかね。
戦闘員と非戦闘員の間で生じる ×
曲芸師とその他の間で生じる 〇
そういうとこだぞ。