暴風エンカウント
――全プレイヤーを対象とした、任意参加の超大型公式イベント。
大小様々な事件や騒ぎであれば日夜そこら中に転がっているものの、明確にゲーム側で用意された〝本物〟となると話が違う。
かの四柱戦争や『色持ち』レイドなど。天上の戦闘強者たちが集うゲーム最高峰の祭典は、名高き序列称号保持者たちの心意気もあって観客側でも十分以上に楽しめる――けれども……けれども、なのだ。
本音を言えば、やはり自分たちだって参加する側に回りたい。踏み入ることのできないお祭り騒ぎを見てはしゃぐのではなく、この身をその場所へ投じてみたい。
高難度の戦闘ばかりがメインではなく、幅広い者が楽しめるような……そんな緩い舞台を求めていたプレイヤーは、数多く存在していたはずだ。
だからこそ。遂に無条件で提示された『特別な舞台』への招待状を、一切の躊躇いなくノータイムで掴み取った者は膨大数に上る。
躊躇なく、喜び勇んで……人によっては、テンションのまま考え無しに。
更に核心を突くとするならば、自分たちは慣れ親しんだはずの仮想世界を知らず知らずのうちに舐めていたということだろう。
門扉広く全てのプレイヤーを受け入れるがゆえ、必然的にそうならざるを得ない『大衆向けの難易度設定』が察せられるといえども――
「うなぁああぁあああああああッ! 誰か助けてぇええぇえええッッ‼」
「やかましい……、…………走れっ……‼」
流石に非戦闘員×2のペア構成は、あらゆる意味で舐めプが過ぎた――と。
街周辺の『大森林』によく似た森の中。転移によって放り出されたイベントフィールドにて、いつも通り口数が少なく不愛想な相方を他所にわーわーはしゃいでいられたのは一時間程度。
テンションを撒き散らし過ぎて呼び寄せてしまったのか、はたまた〝一時間〟というキリの良いカウントが開始直後のセーフティだったのか……定かではないが、黒地に点々の不気味な猿の大群にエンカウントしてから早数分。
見たことも聞いたこともない外見だが、少なくとも高レベルのエネミーというわけではないらしい。いかな生産職でも工房に引き篭もっているようなのは稀、『お出掛け』用に最低限確保した身体ステータスで追いかけっこは成立している――が、
「ねえこれ引き離せてる!? 後ろのガサガサ増えてないっ!?」
「いいから走れと言ってる! とにかく逃げる以外どうしようもないだろう‼」
それは、どこまで行っても同速の鬼ごっこ。逃走の体を果たしているのかも怪しく、追手を撒くなど夢のまた夢。惨憺たる現状だ。
戦闘系プレイヤーと比べれば天と地だが、腐っても古参のカンスト勢。
走りやすい平地であれば、数値だけは積み上げた敏捷性を遺憾なく発揮して逃げ切ることもできただろう。それか相手が少数であれば、レベル差を盾に強引な戦闘もどきを展開することもできただろう。
しかしながら、足場も不安定な森で数十を超える大群を相手にすることなどできようはずもない。それに加えて考えるまでもなく森は連中のホームグラウンド、比喩ではなく囲んでボコられゲームセットが既定路線だ。
そのため、いくら相方から『やかましい』などと言われても結局は――
「やぁあもぉおっ……! 誰でもいいから戦えるひとぉおぉおおおっ‼ 要救助者がここにいます変な猿に食べられちゃう助けてえぇええぇええええっ!!!」
声を枯らす勢いで、恥も外聞もなく必死に救助を求める他にできることはない。願わくば、一定範囲に纏められるという〝グループ〟の誰かへ、
このイベントで縁が繋がった誰かさんへ、届きますようにと。
――――そして、風が吹いた。
「うぇっ!!?」
「ッ……なんだ――」
突如行く手の木陰から飛び出し、そのまま横を奔り抜けて行ったのは真白の髪。驚いて足を止めかけた……ところを相方に引っ張られ逃走継続。
まだ距離を離すべきという判断だろう、冷静な友人に従いしばらく足を動かした後――振り向けば、視界に映る光景は想像の遥か彼方。
「…………だ、誰でもいいって言ったけどさぁ」
「…………」
珍しく素直に驚きの表情を見せている相方と並び、彼女――ノノミは相も変わらず絶好調な己が悪運を思い、その顔に引き攣った笑みを浮かべた。
「あのレベルの上澄みが来るとは、思わないじゃん……?」
オレンジ色の大きな双眸に映るのは、乱舞する紅刃の嵐。そして台風の目の如く、その中心で吹き荒れる刃を従えているのは――凄絶な美貌の見知らぬ少女。
更に、プラスアルファ。
「――うーわ、やっぱノノミちゃんだった。やっほー元気?」
「へぁっ……!? ちょ、え、ニアちゃん!?」
いつの間にか傍らに立っていた同業の友人に、大層驚く彼女の横では、
「………………見覚えのある武器だな」
飛び交う紅刃を眺める〝相方〟が、息を整えつつ冷静な呟きを零していた。
キリ良くカット。覚えてる人いるかなぁ?
それから本編とは関係ありませんが、本日午後ついXにて