幕間
「――――……随分と、様子が変わったものだね」
静寂に満たされた薄暗闇、複雑な感情を湛えた一人の声が響く。
『…………』
対して、返されたのは言葉ではなく息遣い。
少し前までは――正しく、ほんの数時間前までは成し得なかったであろう、複雑で煩雑で繊細な感情を秘めた無声の言葉。
「〝君〟のことは、なんと呼べばいい?」
一人の声に、動揺はない。ただ訪れた〝今〟に従って、彼は――
四谷徹吾は、彼女に問う。
そして、もう一人は応えた。
『容が変われども、私は私です』
響く声音からは、無機質な冷たさが失われ、
『これまで通り――マリアと、そうお呼びください』
何処からか訪れる言葉は、柔らかな雰囲気を纏い暗闇に伝う。
「了解した、そう呼ぼう……では、そろそろ要件の方も聞いておこうか」
彼の声音に含まれているのは、緊張とは別種の硬さ。
即ち、警戒。それを正しく読み取る『彼女』――マリアと名乗った何者かは、クスリと笑みを零すように一拍の間をおいて、
「――――〝彼〟を此処に、招いてください」
ヒトの温度を得たその声で、ただ静かに決定を告げる。
「…………あぁ、わかった」
己の放つ言葉全てが、遂げられることを知るがゆえに。