おもちゃ
――少々の時を経て、場所は移り。
「な に そ れ あ た し も 欲 し か っ た ぁ ! ! !」
「うっっっっっっっっっっるさッ‼ 声でけぇッ‼」
とにかく一旦休憩ということでレイドは解散され、東の序列持ち面子が〝鍵〟を用いて帰投を果たした円卓にて。
変わり果てた俺の姿を見止めるや否やノータイムで飛び掛かって来た赤色娘に、抵抗むなしく床へ転がされジタバタするも対処不能。
「おまッ、ふざけんなヤメ――おいコラ待てこんななりでも男だっての! 乙女としての恥じらいをもう少しリィナぁあッ‼ 助けてリィナさぁあんッ‼」
いろんな意味で防御力の低い初期衣装姿で揉みくちゃにされ……真面目に身の危険を感じて助けを乞えば、心優しい青色娘が不埒者を引き剥がしてくれる。
そして床に取り残された俺は、自分自身が上げたガチ悲鳴(少女)にドン引きするまま打ちひしがれていた。男として大切な何かを失った気しかしない。
操作感を慣らすため……などと考えず、《転身》を解いて来るべきだった。
冷静に考えればテンションモンスター(赤)が暴徒と化すことくらい容易に想像ができたというのに、馬鹿か俺は。
「……白座攻略、おめでとう」
「お゛ め゛ て゛ と゛ う゛ ! ! !」
そして床に転がる俺を放置して始まる、留守番ペアと参加組の和気藹々。
この世界は俺に優しいのか優しくないのか……いろんな意味で恵まれているのはわかっちゃいるが、時たま何者かに偏愛でも向けられているかの如く唐突な苦難が訪れるのは一体なんなんだよ。
「あ、はは…………だ、大丈夫、ですか?」
「俺の味方はソラだけだ……」
差し伸べられた手を取り身体を起こせば、見上げた先には困り笑顔のパートナー。《転身》……ではなく、彼女は《纏身》を解除したいつもの姿だ。
「その…………どうですか、身体の調子は……?」
立ち上がる手助けをしてくれながら、身を寄せて小声で問いを寄越してくる。
以前なんとはなしに『現実世界と仮想世界で同じ顔だったんですね』という話題になった折、俺のVRE判定云々については伝えてあったからだろう。
「あぁ、それは本当に問題なさそう。ステータスがアレだから身体は重いけど……とりあえず、今のところ操作に関して不具合は感じないよ」
そう言って『大丈夫』と笑みを返せば、ソラは『そうですか』と言ってそっぽを向く。どうにもこうにも、俺の新しい顔が慣れないらしい。
「……ハル。冗談ではなく、本気で気を付けてほしいんですが」
「うん?」
「その顔で、誰彼構わず笑いかけたらダメですからね」
「…………えぇ……そこまでっすか」
隣に並べば大体同じような身長になってしまった相棒は、依然として微かに頬を染めながら目を合わせようとしてくれない。
俺自身の評価だけではなく、他評も含めてアーシェ並の容姿と考えれば……まあ、理解できなくもないのだが。
ゆうて中身は俺ということで、早めに慣れていただきたいもの――
「――――らうんどつぅううう……」
「うわビッッックリしたぁ……!」
至近距離から発せられた声に跳び退れば、性懲りもなく襲来した赤色がジワリジワリとにじり寄ってくる。なんだその奇怪な動きは、ゾンビか貴様。
「やいやいお姉さん」
「いや誰がお姉さんだ。男だっつってんだろ」
にじり、
「っへぇ~? ほぉ~ん? 結構な態度じゃんか、両手に翼の曲芸師さん?」
「両手、なん……はい???」
にじりにじり、
「序列昇格、おめでたいねぇ? リィナちゃんを蹴落として、あたしら姉妹に割り込んだご感想をお聞きしましょうかぁ?」
「姉妹……?」
「姉妹ではない」
にじりにじりにじり寄り――からのグワッシャァ。
俺だけでなく相方からの冷たい反論をも意に介さず、再び己が感情のボルテージに従い勢いよく飛び掛かって来る赤色娘。
――そして、回避も満足にできず再び転がされるAGI:0の俺。
「なんでわざわざ間に入ったぁ‼ そこはあたしも飛び越して五位になっときゃいいでしょうにこのロリコン美少女お兄さんめぇっ‼」
「俺の意志じゃねえよ誰がロリコン美少女だ!? ええい、貴様いい加減にしやが――リィナぁあッ‼ 助けてリィナさんコイツなんとかしてぇええッ‼」
「…………助けた方が、いい?」
「………………で、できれば、助けてあげてください」
そしてちみっことの取っ組み合いすら勝てず、好き放題されるSTR:0の俺。
いやぁ困った――新たなビルドを組んだ……いや、ビルドを組んだとも言えないステータス配分であるこの転身体、わかっちゃいたがマジで肉弾戦は無力である。
元の身体と比して細っこい手足を振り回し、無駄な抵抗に励むこと十数秒。
極めて面倒臭そうな顔でリィナが相方を引き剥がし、俺が再度ソラに手を引かれ立ち上がったところで……。
「………………あー、そろそろ始めていいか?」
「っだからさぁ……! 俺が率先してふざけてるみたいなさぁ……‼」
呆れたようなゴッサンの言葉に対し、憤慨して文句を返す高い声音は――残念ながら、それはもう悲しくなるほどに。
普段に倍して、圧も迫力も皆無であった。
楽しいね。
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◇Status / Trance◇
Title:曲芸師
Name:Haru
Lv:100
STR(筋力):0
AGI(敏捷):0
DEX(器用):0
VIT(頑強):0
MID(精神):1150
LUC(幸運):0
◇Skill◇
・万能ノ腕
《コンストラクション》
《十撫弦ノ御指》
《ルミナ・レイガスト》
《エクスチェンジ・インプロード》
《欲張りの心得》
・水魔法適性
《アクア》
《フラッド》
《水属性付与》
・Active
《リフレクト・エクスプロード》
《ブレス・モーメント》
《空翔》
《浮葉》
《鏡天眼通》
・Passive
《白竜ノ加護》
《アテンティブ・リミット》
《超重技峨》
《剛魔双纏》
《兎乱闊駆》
《ランド・インシュレート》
《流星疾駆》
《極致の奇術師》
《危輝回快》
《削身不退》
《月揺の守護者》
《魔を統べる者》
《以心伝心》
《四辺の加護》
◇Arts◇
【結式一刀流】
《飛水》
《打鉄》
《天雪》
《枯炎》
《七星》
《鋒雷》
口伝:《結風》
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