Before / After
思い切りの良さを見せた南の序列持ちタッグを皮切りに、周囲のプレイヤーたちにもチラホラと各自の判断で【転身の硝子玉】を砕く者が現れ始めた。
こういう取り返しのつかない類のものは人柱……もとい先人のレビューなりを待つのがゲームの常道と言えるが、他でもない自分たちがその『先人』である。
そうして『我こそは』と先陣を切った者たちからの情報共有もあり、二種の『転身』は多少なり詳細な仕様が見えてきた。
まず《転身》だが、こちらはステータスに関してのランダム要素はないので主に外見――アバター性転換後の姿について。
端的に言えば、少々の面影を残して《転身》後の外見は完全にランダム。オーリンのように髪と瞳の色に加えて目元なんかの雰囲気が似ている……なんてのは、まだ変化前の特徴を引き継いでいる方だ。
基本的には、言われなければわからない『似てない兄妹か姉弟』といった容姿になる模様。加えて言えばファンタジーらしい美形にはなるのだが、どこかモブっぽいというか……こう、創り込まれた超美形というよりは〝自然な容姿感〟が強い。
これ、正直アルカディアにおいては逆に特別感が出る要素だと思う。
外見に関しては自由自在なクリエイトが可能な仕様であるからこそ。ランダム生成による弄れない容姿は、ある意味で真の唯一性となるだろうから。
まあ、俺は元から純正オリジナルなわけだが……ちなみに、転身システムに関して『VRE』による操作性云々は気にしなくていいらしい。
理由は謎。しかし、いつもの如く脳内インストールされた知識が『問題ない』と言っているのだから信じる他ない。
なんでだよ性別変わったり耳や尻尾が生えても問題ないなら顔くらい変えたって問題ないだろうがよ。なぜ『問題ない』のか内訳を説明しやがれ。
納得いかないから、機会があれば千歳さん辺りに質問凸しよう。
さておき、《転身》の方は大体そんな感じ。追加情報としては、ステータス二枚持ちに際して『装備セット』なる新機能が実装されるくらい。
元ステータスと転身ステータス各々で装備を設定しておき、スキル起動によって裏返るのと同時に自動で対応装備へ変更されるようだ。
配慮が行き届いているようで誠に結構。誰もが《クイックチェンジ》で瞬間お着換えできる訳じゃないので、必須の機能であると言えるだろう。
総評――ステータス二枚持ちはシンプルに便利だし間違いなく強い。あと性別ごと引っくり返ってマジの『別人』になれるのが普通に面白そう。
次に《纏身》について。こちらに関してはあまり追加情報はないというか、ほぼほぼシステムが伝えてきた前情報通りの仕様だ。
VIT、STR、AGI、DEX、MID、LUCの六ステータスの内一つが消滅する代わりに、他のステータスを大幅に引き上げる……いくつかの先人の例によって詳しく見えてきたのは、ステータスの変動パターンについて。
総合的な上昇幅についてはやや個人差があるようだが、基本的に消滅したステータスの数値分+200ポイント前後が残されたステータスに振り分けられるようだ。
単純に二十レベル程度の強化。メチャクチャ強力ではあるが、やはり振り分け先が今のところ推定ランダムである点が博打要素強め。
ただしかなり有情な点として、どうも『最もポイントが振られているステータス』は消滅を免れるらしい。データ件数はまだ二十件程度ではあるが、その全てが同じ結果になっている以上はそういうことであると考えていいだろう。
つまり、ビルドが機能停止して役立たずになるという最悪は……まあ、人にもよるがある程度は回避できるということ。
これは《纏身》使用時にステータスリセット機能を用いて数値を調整すれば、確実に任意の一部位は守れるということでもある。
なお同値一位が複数ある場合、どうなるかは不明。AGI、MID、LUCが300で並んでいる俺は現状のままだとランダムガチャに震えるしかないため、こちらを選ぶならステータスリセットの活用は必須だろう。
――ということで、以上の情報を元に……結論は固まった。
「…………んじゃ、折角だ。一斉に行くとするか」
自然と男性陣と女性陣で別れて相談に臨んでいた序列持ちが集い、相変わらず困ったような気まずいような微妙な顔したゴッサンが音頭を取る。
気持ちはわかるというか、ぶっちゃけ俺も似たような顔はしているはずだ。
だって……なぁ? 女性陣はそりゃいいよ。アバターとはいえ美人揃いなんだから、耳を生やそうが尻尾を生やそうが『あらかわいい』で済む。
《転身》だって、彼女らがイケメン男子に変身したら外見的にも精神的にも映えるだろうよ。世の女性ファンもキャーキャー言うに違いない。
そこんところ野郎共は、事と次第によっちゃ大事故だ。
いやね、もっと言えばピンポイントで俺。知る限りの同じリアルフェイスで言えば囲炉裏も同類だが、あっちは素材が良過ぎて流石に比較にならない。
最近は自己評価の改善に努めちゃいるので卑下するつもりはないが、それでも流石に『絶世の美男子』でもなければ『超絶イケメン』でもないからな。
なによりも、俺自身が『俺のまま』という自覚をこのアバターに抱いている以上……認識的にはどうしても、素面でコスプレをするようなもんだ。
シンプルにキツい。んで、俺ほどではないにしろ男性陣は似たような恥ずかしさやら躊躇があるのだろう。
ゴッサンを筆頭にテトラや囲炉裏もなんとも言えない顔をしているし、あのゲンコツさんですらやや渋い顔で硝子玉を持ち上げている。
総じて――今か今かと明るい表情でワックワクの女性陣とは対照的だった。
あぁ、どうせこの期に及んで『保留』なんて逃げの一手は打てないんだ。せめて現実逃避代わり、隣に並んだ相棒の転身姿がどうなるかを楽しみにするとして……ひと思いに、握り潰してくれるとしようか。
「よし…………いくぞ、せぇのおッ!」
既に選択を終えたルクス、オーリン、フジさんのみならず、当然とばかりレイドメンバー全員からの注目を集めながら。
示し合わせて輪になった序列持ちメンバーが、ヤケクソ気味なゴッサンの号令の下で一斉に硝子玉を割り砕いて――
舞い散った光の粒子が宙にほどけて、襲い来るのは絶大な違和感。
二枚目のステータスに切り替わったことで、ポイント無振りの素状態へと能力が急落したせいだろう。身体がひどく重くて堪らない。
ということで、俺が選択したのは《纏身》ではなく《転身》。
つまり、今この身体は――――……ていうか、前が見えねえ。
「いや、髪……なっが……」
口から零れた聞き慣れない高い声音も、また極大の違和感の元。自分の意志に従って別の誰かが喋っているような、経験のない不可思議な感覚。
背に揺れるのは首元をくすぐるどころか、下手すりゃ足元まで伸びているのではと思える超長髪。同じく長い前髪のカーテンを手で掻き分ければ――
降り注いでいたのは、夥しい数の視線。
…………What is it? なぜ見ているんです?
姿を変えたのは俺だけではないはずなのに、各々で顔を変え耳を生やし尻尾を生やした〝輪〟の面々のみならず、周囲で見守っていたプレイヤーたちの視線さえ大体が俺に向けられている気がする。
嫌な予感……というか、ただただ困惑するままに隣を向けば――
「……っ…………、………………!!!!!」
長く細い、真直ぐな髪――雪のような純白越しに視線を交わした相棒は、目を真ん丸に見開きながら……ぶわっと顔を真っ赤にして、後退っていった。
……え。ねえ、ちょっと待って?
「…………………………あの、さぁ……?」
うん、我ながら声は超綺麗だ。歌でも配信すれば人気出そう――で、顔は?
「まさかとは思うが……見るに堪えない感じの顔になってたり、します?」
いや不細工を見て顔を赤くするってのもよくわからんが、あのソラさんに後退りされるってなると……ちょっと待ってそこ無言で手鏡渡されるとマジな疑惑が膨れ上がるじゃん! コレ本当に容姿ガチャ爆死してます!?
あとなんで誰も声すら発さないの? あのアーシェすら口を噤んでいるというか慄いてるように見えるの気のせいじゃないよね?
なんなんだ……ええい、ままよッ‼
覚悟を決めたというよりは、さっさと現実を受け止めることにより『わからない』という恐怖を削ぎ落すための避難行動。
静まり返った衆人環視の中、俺はソラから手渡された手鏡を覗き込んで――
小さな丸の中に映る、少女の顔と見つめ合って。
かの【剣ノ女王】にも劣らない、正しく造り物のような白髪青眼超絶美少女と、たっぷり十秒以上も睨めっこして――
「…………………………………………面影は、何処へ???」
零した声音は、薄ら寒いほど綺麗に響き渡った。
容姿ガチャSSSSSRだぞ、ほら喜べよ。
なお本件に関しては嘘偽りなく作者の好みとは一切関係のない、
物語上必要かつ重要なファクターですのでご了承ください。
あとVRE云々は後からそれとなく説明(?)が入るのでスルー推奨。
ごめんなさい一割くらいは好み入ってます。
二次元白髪美少女は男性も女性も大抵好きだろ!!!!!!!!!!