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夜明けて白、葬送を唄う始まりの名は 其ノ陸

「――っ、ハル! アイリスさん! 二十秒くださいッ‼」


 〝表〟に存在していたモノとは動きが全く異なる、巨体に比して嘘のように素早く鋭い『白』の挙動。


 それと渡り合いながら冗談のように『拮抗』を築く二人のパーティメンバーへと叫べば、両者は言葉なく()()()()()をもってソラに応えた。


「範囲指定――……制限、解除ッ!」


 二振りの剣が閃き、光帯が乱舞し、巨体が飛び回る埒外の戦場を基点にして、宙を飛び交う砂剣が巨大な円を描くように次々と大窪地へと突き立っていく。


 もう少し、あと少し――そして、円は成る。


「《陣地構築》……! いきますッ‼」


 瞬間、まるで初めから示し合わせたかのように。


 見向きもしないまま少女の意気を読み取った二人が、左右から押し込むように『白』へと挑み掛かり……足を止められた白竜の上下に、()()が生じた。



 剣によって描かれた円の中は〝魔剣の主〟が統べる陣地――ならば今この時、目の届く全ての空間が魔剣を生む彼女の指先。



「――――《千々に灼き砕くリヴェルメント・蒼炎の大顎キーファリオン》ッッ!!!」



 大地と空の双方より生み出された計十本の蒼き巨塔が、まさしくの〝顎〟となって白竜の巨体へと喰らいつく。


 これが効かなければ、なんなのだと叫ばずにはいられない真の意味での〝必殺技〟――しかし、それをもって終幕に至らぬからこその異常存在カラード


 ゆえに、


『――――――――ッッ!!!』


()()()()……‼」


 竜の悲鳴を聞けども、手は緩めない。



「《爆ぜ散るエクスプロード……炎焔ペルフラム》ッ‼」



 それは正確には技ではなく、制御を手放された炎剣フラムの行き着く先。鍵言が響き渡り、『白』を抑え込んでいた二人が即座に距離を取った瞬間。


 竜の咆哮も、なにもかもを呑み込んで――十本の巨塔が一斉に炸裂し、激烈な破壊と爆音をもって世界を揺るがした。


「――っ、ぅ……く…………」


 まだ動ける、しかし膝を突くのが止められない。


 初の大規模戦闘にも関わらず、全てのプレイヤーの期待を上回り続け、大役を全うし続けた少女の()()


 幻感疲労はここに極まり、もはや高度のパフォーマンスは望めないだろう。


 けれど、()()()()()


 元より新なる……真なる『白座』とまみえた瞬間、きっと三人の意志は統一されていたはずだから。



 もう後など考えず、全力をもって叩き伏せるしかないと。



 間違いなく、彼女は果たしたのだ。


「二人の番、です……っ!」


 終と見定めた短期決戦――〝最後の一撃〟へと繋がる、第一手を。



 ◇◆◇◆◇



 ――羨ましい。


 この局面で胸中を駆け巡ったそんな言葉に、思わず笑みが零れてしまった。


 それは自分自身への呆れの意を含む、自嘲の笑み。そんな場合ではないというのに、なにを暢気に嫉妬心など抱いているのかと。


 迫り来る光帯を叩き伏せ、払い落とし、頭上から振り下ろされた大木のような尾の一撃を横へ跳び回避する。


 今がこんなに楽しいのに……人間、手に入れば『もっと』を求めてしまう生き物ということか。つくづく救えないと、呆れる他なかった。



 この〝嫉妬〟は、二人に向けられたもの。



 二人が――ハルとソラが、互いを最高のパートナーとしてここに至る冒険を歩んできたことを思って、それを心の底から羨む心。



 かの少女の全力全霊を受けて翼を灼き払われた白竜が、怒りか否か強い意志を浮かべた金眼をアイリスへと向けて……その顎が開かれる。


 喉奥にチラつく火は見えずとも、予想は叶う。


 ドラゴンと言えば――竜の息吹それを持ち得ないはずがないのだから。


 回避一択、咄嗟に跳び退ったその場を襲ったのは()()()()()()()()。人が思い描くであろう『竜の息吹』に代わり、不可視のなにかが大地を深々と抉り取った。


 おそらくは、空間ごと葬り去るのであろう消滅の息吹……ここに来て、相も変わらずやりたい放題の無茶苦茶性能だ。


 ならば、



剣炫解放・・・・



 更なる無茶苦茶をもって、真正面から斬り伏せるのみ。


 ……言うまでもなく、初めてのこと。


「『剣ノ王の名をもって――」


 仮想世界せかいが認める必殺たるこの一振りを、


「――いま此処に、神威を示す』」


 誰かに、次を繋ぐために放つなど。



 ゆえに――――ゆえにこそ、



「世界を、紡ぐ……――!」



 待ち望んだ『誰かと並んでの冒険』に、高鳴る鼓動が抑えられないのだ。



「――――【故月を懐く理想郷アルカディア】ッッ!!!」



 初めて、その技の名を、自分ではなく誰かのために詠み綴る。


 天を目指して空を昇る、凄絶なる白銀の大閃。『境界』を司り〝空間〟を我が物とする白竜へと、『世界』を司り〝力〟を具現する『剣』が迫り――


 その身を守るように振るわれた尾を断ち斬り、更には竜の頭上に浮かぶ光輪をも粉々に打ち砕いて呑み込んだ。



 そして、



「――――……ハル、あなたの番」



 次手は果たされ、繋がった。



「格好良いところを見せて、私の王子様」



 空高く、その手に星のような眩い輝きを携えた――白蒼の姿へと。

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