夜明けて白、葬送を唄う始まりの名は 其ノ肆
「ゴルドウ、私たち今から抜ける」
「 な に ぃ ッ ! ?」
「言葉が足りなさ過ぎる……‼」
時に指揮、時に自ら前線へ上がりと大忙しの【総大将】の元へ赴いての第一声。アーシェ渾身のキラーパスを受けてゴッサンが鎧の奥で目を剥いた。
当然ながら余裕のなさそうな司令塔の叫びと俺のツッコミに対し、当のお姫様は「まだ途中」とばかり薄っすらと不服顔。
勢い込んでの暴投は初めだけ。地頭も要領も良い彼女にかかれば、俺の魂依器の異常がなんだの由来がどうたらこうたらといった煩雑な説明もお手の物だ。
しかして、ものの数十秒足らずで状況は完全に伝えられ――
「……なるほどな、大体わかった――で、誰が行く?」
「もう決まってる」
あちらも流石の理解力でアレな展開を容易く呑み込んだゴッサンが問えば、アーシェは当たり前のように即座に返した。
「――私とハル、そしてソラの三人」
「なんて???」
そんなノータイムの返答に、今度は俺が目を剥く番だった。
「待て、なにがどうしてそう……なにがあるかもわからんのに三人だけで――」
「なにがあるかもわからないから、なにがあっても大体は対処が利く構成かつ少数で飛び込むべき。パターンは幾つも考えた、これが最善――信じて」
異論無し……というよりは、彼女にしては珍しい言葉の圧に黙らされる。別に怯むまではいかなかったが、反射的にそうすべきと思い口を噤んだ。
「……リスクヘッジ、後の保険、未知とこっちの両立を考えたら……それが無難な手、になっちまうのか」
「どの道、これに終わりがあるのかもわからない以上は踏み込むしかない。少なくとも、この場に求められているのが『数』なのは状況的に示されてる。もう一面でも同じものを求めるなんて、人数制限が設けられている『色持ち』討滅戦のゲームデザインが破綻するようなもの……だから、ないと思いたい」
……いや、すげぇな。十秒ほど黙っていただけで納得させられてしまった。
言われてみれば、そりゃそうだ。対大群の防衛戦、乱戦の強要、それらに求められている攻略の要素は防衛力&制圧力=『数』である。
その上で俺の魂依器が指し示す〝穴〟の先で、同時にもう一つの攻略要素が待ち受けている二正面作戦と仮定すれば――
そこに在るのは、少数で対処可能な〝なにか〟である可能性が高い。
高い、というのは願望ではある。しかしながら結局のところ、この戦はどこまで行っても強制初見のアドリブ突攻。俺たちプレイヤーにできることは、示されたヒントから『もしかして』を導き出すことだけ。
そうしてアーシェが出した答えが、対応力と限界少人数を両立させた構成――即ち『最強』と『万能』と『ビックリ箱』のスリーマンセル。
遠中近の全てに対応可能かつ、それぞれが単体での生存&能力発揮に優れた個。アーシェの単体性能は元より、俺とソラは同じ空間に在れば単騎でも遠隔で連携可能というインチキ存在だ。
万能枠の相棒が治癒魔法まで備えているとなれば、消耗線を強いられたとしてもある程度のリカバリーまで望める……自惚れを承知で言わせてもらえば、
「一応は最適解……かもしれん、のかな」
「あぁ、それは認める――しかし、せめてテトラのやつも」
「彼はダメ。ソラが抜ければルクスと【熱視線】が範囲殲滅に割く負担が跳ね上がるから、息切れした瞬間に押し込まれる――ハル、パーティを再編成して」
「わかった、ちょい待ち」
今度こそ、正真正銘の異論無し。迷っている暇があるならば、それっぽい可能性に賭けて迅速に動いた方がいいだろう。
どの道、なにが正解かなんて終わるまでわからないのだから。
再びシステムウィンドウを開き、二度目のメッセージ送信。宛先となったパートナーの反応は即座。リーダー権限によりパーティが一時解散されて、視界端のステータスバーが消え去り――すぐに、新たな申請が飛んでくる。
受諾画面に表示されている『Yes』を叩けば、再度並んだパーティUIには【Haru】、【Sora】、そして【Iris】の名前が点灯した。
放り出される形となったテトラとルクスにもソラから連絡が行き、すぐさま雛世さんを含めたもう一つのスリーマンセルが組み上がったことだろう。
準備は整った――グズグズしていれば、悪戯に消耗が積み重なっていくだけ。
「こっちはお願い。その後の状況判断は、全て任せる」
「……――あぁ、任せろ。行ってこい!」
似つかぬ友人同士の会話は、端的かつ信頼に満ちたもので……長々とした激励やらをなにもかも省いて指揮に専念し始めた【総大将】を他所に、俺に目を向けた【剣ノ女王】が静かに微笑んだ。
「ハル、あなたのパートナーを迎えに行って」
「あいよ了解――と、言いたいところだけど」
まだ短い付き合いだから無理もないが、ウチの相棒は正真正銘の『お嬢様』ながらお嬢様らしからぬ主人公気質という欲張り仕様なんだ。
ゆえに、
「――――お待たせしました、行きましょうっ!」
一々迎えに行かずとも、求められる場には自ら颯爽と登場してくれるんだよ。
しかして、集った三人は一斉に駆け出し〝穴〟を目指す。一つの戦場に背を向けて、その先にあるであろうもう一つの戦場へ挑み掛かるために――
「いっせぇ……!」
「……の」
「――でっ‼」
推理半分、どうにでもなあれ半分のバトルハイな勢いのままに、窪地に口を開けた真紅の大穴へと――踏み切った。