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ひとりごと
――――膝を抱える誰かを、誰かが見ている。
それは遍く空白が満たす、無の狭間。
見上げようとも見下ろそうとも、意味を成さない虚無の小部屋。
一粒ずつ零れ落ちていく意識の欠片は、果たしてどれほど残されているのか。
それとも、まだ残されていると錯覚しているだけで、
『私』という存在は、既に泡沫となって消えてしまっているのか。
――星が見たいと、そう思った。
空が見たいと、そう思い続けていた。
もう一度だけ……月に逢いたいと、叶わぬ願いは永遠に。
子供のように膝を抱える『私』を、
大人のように膝を抱える『私』を、
人のように膝を抱える私を――――誰かが見ている。
色無き世界に沈む誰かの、遠い尊き記憶の中で、
『白』に寄り添い、瞬いた『赤』の囁きが、
夢か現か鳴り響いて、小さな世界に木霊した。