ながら解説
「――なるほど、です……やっぱり、どこかちょっとパズルみたいですよね」
「お、流石ソラさん。ズバリだな」
【四辺の混塔】攻略後。次なる目的地へと先導するトラ吉を追いながら、腕に抱えた相棒と二人で先の戦闘の反省会を行っていたところ。
ボス戦のギミックについて『MMOは特にああいったものが多い』的な解説をしていたのだが、それに対してのソラの感想である。
的を射ていらっしゃるというか、実際その辺は『パズル』とか『大縄跳び』とか言われることが多い。
先程の【無睨の十頭】で言えば、魔力球を喰わせるやつとかだな。あれも別々の属性を一つずつ喰わせなければならなかったりと、いわゆる『間違いなくこなさなければ甚大な被害を被るタスク』というやつだ。
個人的には嫌いではないが、そればかりになってしまったり難易度調整を間違えると結構な確率でクソゲー判定を下される要素でもある。
俺も以前MMOで『フィールドに出現する謎の玉をプレイヤー全員でパスを回してからストラックアウト形式で謎の的当てを行いビンゴを達成したらボスのバリアが剥がれて攻撃可能になる』とかいうボス戦を経験したことがある。
勿論プレイヤーから大不評を喰らっていた。
その〝謎の儀式〟をこなしている間も無敵状態のボスが軽率に大暴れするわ、どこからともなく大量の雑魚が常時湧き出してくるわ、ギミックを達成しても一度にHPが一割程度しか削れないわと、やりたい放題だったからな。
『〝難しい〟と〝面倒臭い〟を履き違えている』とフレンドがツッコミを入れていたのを鮮明に覚えている。
その点に関しては、アルカディアはまあまあ丁度良い塩梅ではあるかもしれない。基本的な難易度調整はボス自身の戦闘力で行われているし、『パズル』や『縄跳び』に関してもアクセント程度に留められているから。
……【砂塵を纏う大蛇】? 【砂塵の落とし子】?
いましたね、そんなチュートリアルマップにあるまじきクソエネミーも……。
「他に気になったことはある?」
思い出話も交えつつ、解説にひと段落付いたところで次を問うてみる。ソラは「そうですね……」としばし何事か考えた後――
「リンネさん、って……先程の戦闘ではどうやって〝敵愾心〟を煽っていたんでしょうか? ずっと攻撃を防いでいただけで一度も手を出していなかったのに、最初から最後までターゲットが外れませんでしたよね?」
「あぁ、それな」
敵愾心――つまり『敵からどれだけターゲットにされやすいか』を表す指標的なものだが、ゲームにおいてソレは明確な数値として存在している。
例えば、攻撃するとヘイトが1上昇する。
回復を行うとヘイトが2上昇する。
アイテムを使うとヘイトが3上昇する。
などなど、ゲームによって様々だが基本的にはプレイヤーのあらゆる行動に数値が設定されており、それを最も稼いでいる者が狙われるといった仕様だ。
始めたばかりの頃は俺もソラとの共闘で気にしていたが、ペアということでヘイトコントロールは容易だったし、比較的すぐにソラが前衛兼任となったことで詳しい解説をする機会を逸していた。
「わりと珍しいタイプだと思うんだけど、このゲームって『攻撃を防ぐ』とヘイトが爆上がりするみたいなんだよね。つまり攻撃するプレイヤーより防御するプレイヤーの方が狙われやすい」
無論、攻撃が激し過ぎればターゲットはそちらへ流れるだろう。しかしながら、アルカディアはトータルで見れば『盾に優しいゲームメイク』と言える。
矢面になってパーティの〝盾〟となるのが役目のはずなのに、ヘイトが稼げないから防御ではなく攻撃に徹しなければいけない……とかいう訳の分からんゲームも数多存在するからな。
そして最終的には最高効率を求めて『盾いらなくね?』とか言われる。大活躍する作品だって勿論存在するが、わりと不遇なイメージがあるポジションだ。
「あとまあ、多分だけどリンネは挑発スキルも持ってるな。ちょいちょいそれっぽいエフェクトが見えた気がする」
「タウン、と」
ゲームを齧っていると結構な確率で触れることになる単語だが、確かにあまり習うようなイメージはないかな?
「『馬鹿にする』とか『嘲る』みたいな意味だけど、要するに敵愾心増幅の類だな。効果時間中に稼ぐヘイトを増やしてくれたり、時限でターゲットを強制的に留めたりとか……これも色々と種類があるよ」
「なるほど……」
と、そんなこんなで反省会は一区切り。
律儀に「ありがとうございました」なんて言うソラから謝意を受け取って和みつつ、機械的に足を動かしていると――
「ぁ……ハル?」
「あぁ、お呼びだな」
前を見れば、グワングワン跳ね飛びながら爆走しているトラ吉の斜め上。不可視の《虎牙操躁》に乗っかっているリンネが何やら手招きをしていた。
速度を上げて並走に移れば……俺たちの〝反省会〟を見ていたのだろう、【音鎧】殿の顔にはニマニマした表情が若干だが滲み出している。
そうだよ仲良しだよ、羨ましかろう。
「どうした?」
「にゅふふ……えっとですねぇ、この先ルート候補が二つほどあるそうで――」
なにが『にゅふふ』か――と、巡り巡って最終的には俺のダメージになりそうなツッコミは控えつつ。
アバター操作に専念しているトラ吉から会話役を仰せつかったのであろうリンネ、そして時たま注釈を入れてくれるマルⅡの二人と旅の行方を相談する。
「ふぉぁあぁああ……いいなぁ……! やっぱ推せるぅ……!」
――俺たちのお姫様抱っこスタイルを見ては、時折発作的に悶えだすリンネのリアクションをスルーしたり、
「人を抱えて喋りながら、よくその速度域でアバター制御を維持できますね……」
――と、今更ながらにマルⅡ氏から呆れられたり、
「なるほどね――ソラさん、どっちに行きたいか決めてどうぞ」
「へぁぃっ……!?」
提示されたルートの選択を唐突にソラへ丸投げして、驚かせてみたりと――
賑やかで楽しい旅の道程は、まだまだ始まったばかり。
気のいい仲間と果てなく先へ駆け行く脚は、いつまでも軽いままであった。
お姫様抱っこ。