全員勇者でガンガンいこうぜ
RPG――ロールプレイングゲームの醍醐味と言えば、その名の通りプレイヤーそれぞれが『役割』を演じて協力し合うことにあるだろう。
与えられた、あるいは自ら創り出したキャラクターを操り、各々が持ち得る特技を連ねて一人では立ち向かえない大きな敵や困難に立ち向かう。
盾、火力、回復、支援などオーソドックスなものに加えて、ゲームによっては斥候やら罠師やらと星の数ほどバリエーションが存在するのだが――
まあとにかく、RPGというゲームジャンルでは『役割』と『協力』が重視される傾向にあった。盾が強大な敵の攻撃を引き受け、その隙に火力役が相手のHPを削り、回復役が彼らを治癒して、支援役は味方の能力値を引き上げる……などなど。
この『形』にしてもゲームの数だけ存在するものだが、早い話が『単独ではなく複数の連携を前提として造られている』ということ。
そう、そんな傾向にあったらしい――というのも、俺は正直そんな『旧き良きRPG』といった代物に触れた経験があまりない。
俺がというか、同年代のゲーマー……その中でも特にライトな層は、大体がそういった者なのではないだろうか。
何故かといえば――今時なかなか無いんだもの、そんなゲーム。
そりゃ『役割』の概念自体は今も継承されているし、逆にそれらが全くないRPGなんてものは相当に少ないだろう。
しかし、その〝お約束〟に元々内包されていた『一人では出来ることが限られる不自由さ』というものは相当に薄れているはずだ。
今の時代、アタッカー顔負けの超火力でタンクが敵を薙ぎ倒し、
雄々しく武器を振るうヒーラーが不死身の戦士となって大群と対峙し、
何者よりも自身を強く硬く速く強化した支援役が単独でゲームを終わらせる。
アタッカー? パパッと全クリしてソロでタイムアタック始めてますがなにか?
といった具合に……言ってしまえば、なにかとストレスフリーを求められる現代の需要に供給側が応えた結果だろう。
味方が必要となる特化ではなく、一人でなんでもできる万能を。
困難の先にある達成感よりも、気楽に掴める爽快感を。
そして不自由よりも、手軽さを。
ゲームを嗜む人間すべてがソレを望んでいるかといえば、決してそんなわけはないはずだ。しかし事実として、それが〝今〟である。
俺もMMOを嗜んだことはあるが、あくまで今風のものだったからな。
レア掘りやらなんやらといった沼要素を経験したことはあるが、あまり『役割』に重きを置いた作品には出会わず仕舞いだった。
――で、肝心の『アルカディア』がどちらかといえば……まあ両取りだな。
手軽さを突き詰めた究極系たる『誰でもいきなり最強!!!』は不可能。
しかしながら、アホみたいに強大なエネミーだけならずプレイヤー側にもアホみたいな成長の可能性が用意されているこの世界では、個人の資質と努力次第でいくらでもゲーム性を変えてしまうことができる。
そしてその果てに強くなり過ぎてしまったプレイヤーにも、更にその上を行く馬鹿アホな強さのエネミーがお待ちかねというわけだ。
例えば『色持ち』とか、『色持ち』とか『色持ち』とかな。
……結局なにが言いたいのか、よく分からなくなってきたが――
「つまりは、そう――序列持ちクラスになると、連携とか小難しいことを考える意味があんまりない……ってことだな。雑魚相手だと、基本『無双ゲー』になるし」
「…………な、なるほど……?」
「最後の一言だけで良かったやろ」
「なんかちょっとマルみたいでしたね」
「それは俺をオタク呼ばわりしてるってこと?」
はい、ソラさんを除いて見事に全員失礼極まりない。
途中で謎に熱が入ったせいで、確かに八割がた意味のない内容をくっちゃべってはいたが……まあ、ほぼ百で受け売りを垂れ流しただけなんだけど。
「自分で触れた経験があまりないのに、その知識はどこから来たんです?」
ただひとり純粋な目で『RPGのパーティプレイとは云々』についてのゴチャゴチャを聞いてくれていた相棒が、不思議そうに首を傾げ問うてくる。
知識の出所はって、それは勿論――
「前にバイトしてた頃、メチャクチャ廃ゲーマーな先輩がいてな……」
「あぁ……暇なときに絡まれたパターンっすね」
お、マルⅡ氏はアルバイト経験者か。似たような体験があるのか、やや懐かしむような微妙な表情を浮かべていらっしゃる。
……微妙な表情という時点で、おそらくネガティブな記憶なんだろうな。
「ったく、なんの話やねん……さっきも言うたが、こんなもん楽勝やぞ? ゴチャゴチャ言っとらんと、サクッと片付けて次に行こうや」
長話で腰を折られたのが面倒に感じたのだろう、トラ吉が手慰みに槍をグルングルン回しながらゴチャゴチャ言っていた俺に半眼を向けてくる。
お、いいのか貴様この場でそんなことを言って?
確かに、取っ散らかったお喋りを展開した非は俺にあるが……。
「ぁ……す、すみません、勢いを止めてしまって……!」
ほら見ろ――答えた俺が文句を言われているところを、黙って見過ごすような質問者さんじゃないんだぞ。
「なんっ、あ、ちゃうぞっ、俺は別に――」
「気にしなくて大丈夫っすよ。男同士の憎まれ口なんで」
「そそそ。このひと特に何も考えてないから、聞き流しちゃっていいんだよー」
俺は当然トラ吉の言葉に欠片の悪意もないことを察せたが、男同士の馬鹿漫才を物珍しそうに見ていたソラがそれを読み取れるはずもなく。
慌てた少女から頭を下げられ、秒でバグる虎とフォローに入る後輩二人。
なんというか、威厳の無い師匠である。
「というか、当たり前のようにいきなり突撃しようとしたトラさんが悪いですよー。普通、急造パーティなら軽く連携の打ち合わせくらいしますってば」
「むしろ、待ったをかけてくれたソラさんに感謝するべきっすね」
「そうだぞ、感謝しろ」
「……あの、どちらかと言えば真先に突撃しようとしたのはハルですよ?」
と、虎に追い打ちを仕掛ける二人に追従したら許されなかった。
どうだ、うちのパートナー様は可愛く優しく思慮深いだけでなくフェアな思考の持ち主なんだぞ。敬意をもって接するがいい。
「ハル?」
「ごめんなさい」
ちなみに馬鹿なことを考えていると、このように高確率でバレる。睨まれたくなければ気を付けることだ、わかったかトラッキー。
「あーもう、ほんに……! いつまでやっとんのや。そのアホの言う通り、俺らに連携の打ち合わせとかいらんやろ。心配せんと大丈夫やて!」
少なくともここでは――と、トラ吉はガリガリと頭を掻きながらそう言った。
ぶっきらぼうに振舞ってはいるが、初対面の美少女との距離を測りかねて戸惑っているのがバレバレである。
「まあ、そっすね。むしろ、ながらで互いのできることを確認するには、もってこいの舞台じゃないかと」
「だねー。さっきも言ったけど、いざとなれば私一人で対応できるし! 更にいざとなれば、ソラちゃんのパートナー様がなんとかしてくれるでしょ!」
そっぽを向くようにして窪地の縁へと歩いていった先達を追いながら、マルⅡとリンネが重ねて気遣いを置いていく。
正直言えば、俺もガチガチの役割パーティをVRで経験してみたくはあるが……。
「ということで……先輩方を信じて、気楽にやってみようぜ」
「わ、わかりました……あの、フォローお願いしますね?」
「そりゃもう、任せなさい」
ま、今回は〝旧き良き〟は諦める他ないだろう――良くも悪くも、五人全員の実力が一般平均を跳び抜け過ぎているのだから。
前回の引き的に開幕突撃だと思ったでしょう? 私もそう思ってた。
文句がある方は「待った」をかけたソラさんへどうぞ、曲芸師が相手になります。
※作者体調不良でダウンしております。おそらく大丈夫だとは思いますが、万一更新が滞る場合はついXのほうで告知しますので気になる方はチラ見してください。