神を祀るは楔の王剣、世界が記すは二人の英譚 其ノ弐
「――手数の暴力ぅッ‼」
一、二、三――計六本。両腕で操る双剣だけに飽き足らず、四本の空飛ぶ黄金の魔剣が四方八方から俺を滅多打ちにしてくる。
勘弁してくれよソレ本当にダメなやつ。
AI操作の敵に渡しちゃダメな類の力だろうソレはよぉ‼
「のッ……ぎ、くぉ!? ちょ、まっ……づ、んのぁッ――!」
右、左、正面、頭上、右下、背後、正面、正面、後後右後ひだ
「りぃッ!?」
間一髪。
離脱もままならず、足を止めての迎撃を強いられている俺の意識を擦り抜けた魔剣の一撃――その致命を、唯一の生命線が見事にカットしてみせた。
ついでとばかり、その勢いのまま『蒼』に斬りかかった【空翔の白晶剣】の対処にリソースを割かれたのだろう。
生じた一瞬のブレイクポイントを見逃さず、包囲を抜けて一時離脱。
その辺は以前と似たような性質を持っているのか、距離の離れた鎧騎士は『仕切り直しだ』とでも言うように腰を落とし構えを正した。
この野郎、正々堂々を気取りやがって――
「援軍はズルいだろ……いろんな意味で」
単純に対処がキツいのもそうだが、それより何より『自分に目もくれずもう一方へ加勢とか』これ絶対に後でソラが拗ねるやつ。
悪くないよな……? 俺は悪くないよな……!?
こちらの内心など知ったこっちゃないと、『白』から『蒼』へと移り四本組となった魔剣が恨めしい。畜生め、俺の味方は一本しかいないんだぞ。
加えて、
「戻れ」
その一本の燃費が最悪ときた。まだまだ暴れたりなさそうにビュンビュン周りを飛び回る白剣に心の中で詫びながら、指輪へと戻す。
緊急避難で自律機動に頼ったものの、常用するなどとんでもない。さっきの十数秒であっという間にMPが一割近く消し飛んだぞ、笑えねえっつの。
いやはや、思ったよりも、ヤバい。
本格的に、出し惜しみできる相手ではなさそうだ。
《先理眼》を頼りにガチで突っ込めば対処は効くだろうが、それもまたMPがしんどいことになってくる。
出し惜しみはできずとも、最低限の温存は考えなければ――MMOの高難度ボスってやつは、基本的に第二第三の変身的なアレを持ってるもんだからな……。
「……オーケー、そしたら」
久々だが、なんとかなるだろう。公の場で散々悪さをした罰が下ったのか、進化に伴って一部若干の下方を喰らっちまったが――
「いくぜ蒼騎士――お手玉の時間だ」
それ以外は軒並み順当に強化された、俺の十八番。
その真価の一端を、お見せするとしようかッ!
《兎乱闊躯》及びに《ランド・インシュレート》――俺の機動力を支える屋台骨に火を入れ、失われた《瞬間転速》の瞬発力を『纏移』の多段加速で無理矢理に補いスタートアップ。
ついて――来れるよなぁ知ってた。数値的にはどっこいってとこか?
周囲を回る軌道で踏み切った俺に反応し、追ってきた『蒼』は並の軽戦士であれば軽く上回るであろう敏捷を見せつけて、
しかし、追い付けず。
『纏移』の連打、止まらぬ多段加速であっという間に差が開いていき――《流星疾駆》の起動をもって、わずか数秒で鬼ごっこの勝敗は決した。
AGI換算500の最高速に届くであろう超速疾走、視界は当然の線一色。
しかし相手が追走を諦め、『対応』一本で腰を落ち着けたとなれば……一方的を押し付けりゃ、視界がアレでもなんとかなるさ‼
さあ、それでは始めようか。
「――《コンストラクション》ッ‼」
喚び出したるは、特大の矢玉。
第一投は……【巨人の手斧】に決めたぁッ‼
右手に召喚した大戦斧の重量、その一切を無視しての全力投擲。極悪な風切り音を上げてカッ飛んで行った黒の大塊が、曖昧な視界で蒼い影に迫り――轟音。
ヒットの有無は後のお楽しみ。今はひたすら、次弾装填。
第二射はお前だぜ新入り。おいでませ懐かしき大鉄塊、かつてのエースの生まれ変わり――その名も、大戦鎚【愚螺火鎚】。
名前の意味もセンスも知らん! しかしその重量と破壊力はこの上なくご機嫌な専属魔工師殿渾身の品だぞ文句あるかオッッッッッラァッ‼
「せぇ……んのァッッ‼」
まさかデビューでぶん投げられるとは職人も武器も思っていなかっただろう。またも重量の一切を無視して軽々と投擲された大戦鎚が……着弾、轟音。
全く、楽になったもんだぜ――グレーゾーンだと思ってた『重量反映のラグ』が、まさか正式な能力として実装されるなど予想だにしていなかった。
その代わり《ブリンクスイッチ》から《コンストラクション》へ進化するにあたり、『瞬間的な座標固定』というもう一つの副作用が失われてしまった訳だが……まあ、だからこその《空翔》なんだろうな。
今度は裏技ではなく、真っ当に飛んでみろってか?
まともに飛べるかっつの、あんな雑な翼でさぁ‼
さておき――『わずかな一瞬』から『切り替え直後の五秒間』へと猶予が拡大され、超重量武器の取り回し難度が一気に緩和された現状。
前はこんな風に全力疾走しながらお手玉する余裕なんざ無かったが――どうだよ蒼騎士、地獄みてえな戦法だろ?
回収、装填は自由自在、弾数無限の速射大砲だ――受け切れるもんなら、
「受けて、みやがれァッ‼」
『――、――――』
視界が機能せずとも、ユーザーインターフェースまでが霞むわけではない。
果たしてこの無茶の具現とでも言うべき連弾が届いているのか、効いているのかは――ゴリゴリと削れていく、奴のHPバーが雄弁に物語っていた。
《コンストラクション》――全武器適正専用スキル《ブリンクスイッチ》と《コンボアクセラレート》が統合進化した上位ユニーク。作中では『切り替え後の五秒間だけ重量を無視出来る』と主人公が言っているが、正しくは『切り替えてから五秒間だけあらゆる武装を完璧に使いこなせる』という能力を備えている。つまり重量だけではなくステータスによる装備制限なども時限で一切を無視することが可能。
なお喚び出した瞬間の座標固定効果が消去されたため、操作をトチると武器を取り落して事故る。この変態が今更そんな事故を起こすのだろうか。
ついでに『戦闘中に使用した武装の数が多ければ多いほど補正倍率が増していく』というオマケパッシブ付き。ニ十種類くらい使えば専用ツリーを超えるかも。
【愚螺火鎚】制作武器:大戦鎚
『重量の化身みたいな鈍器が欲しい』というアレな顧客の注文に応え、【遊火人】が手掛けた頭の悪いコンセプトの具現化。
ベースは【巨人の手斧】にも使われている【黒龍鱗岩】という超重量超耐久の岩石素材で、外見も手斧と似たトップ〝ド〟ヘビーな短柄タイプ。
本編ではまだ活用されていないが『兎』の素材が組み込まれている。打面が『紅』でコーティングされており、ちょっとした内部機構もアリ。
【黒龍鱗岩】――『採掘場』と呼ばれるようなスポットであれば何処にでもあるような珍しくもない岩石素材。特徴と言えばその無暗矢鱈な重量と耐久性なのだが、前者が行き過ぎているためマトモに扱える者が少なく需要が死んでいる。
一部愛好家の間では『筋トレ用品の素材としてもってこい』と持て囃されているが、純然なステータスによって『筋力』が定められる仮想世界での筋トレに何の意味があるのかは謎。おそらく愛好家も分かっていない。