神を祀るは楔の王剣、世界が記すは二人の英譚 其ノ壱
参ります。
――宣言に違わぬ、全力全開。
白へ、蒼へ、同時に突っ込んだ俺たちは、こちらの全速に当たり前のように反応して見せた鎧騎士へそれぞれの剣を振りかぶる。
従えた八本を重ね、束ね、一の砲弾と成した魔剣を『白』へと放ったソラが――
「《この手に塔を》ッ‼」
当然の如くそれを容易く打ち払った『白』に、更に当然の最大火力を真上からぶち込んで――残念ながら、今は隣の〝結果〟までを見届ける暇などなく、
「《ウェアールウィンド》」
そして《リフレクト・ブロワール》を並列起動。〝素〟とはいえ俺の最高速を上回る対応速度で左右から迫った双剣を、左の腕鎧と右の白剣で打ち払い、
《コンストラクション》――騎士が侍らす魔剣をライバルとでも定めたのか、白剣が飛び出していき空となった右手に喚び出すは、銀甲の小盾。
剣戟を落とされた瞬間に跳ね上がった左脚の蹴撃までを【輪転の廻盾】で叩き落し、好機に握り込むは左の正拳……ファーストアタックは、勿論お前だともッ!
「ふっ――」
『――――――』
「――っ飛べやぁッ‼」
暴風を纏った鎧拳が、体勢を崩し切った『蒼』の胸甲に着弾。
敏捷も筋力も、今の俺は素のステータスだけならそこらの軽戦士と大して変わらないが――先日の配信以来、物議を醸しているらしい機動力スキル諸々に『纏移』を含めた高速歩法による慣性ブースト。そして何より、
重量数百キロの大鉄塊と同値のエネルギーまでが上乗せされた左ストレートは、流石に効くだろう? 今なら暴風のオマケつきだ、遠慮なく受け取っとけ‼
これで踏ん張られたら度肝を抜かれていたところだが、流石にそこまでメチャクチャな相手ではないらしい。
拳撃と暴風で盛大に跳ね飛ばされた『蒼』を追い、追撃に移る瞬間――
「グッドラック‼」
「ですッ!」
『白』をその場に張り付ける相棒と声を交わして、
漏れ出す笑みはそのままに――俺は一切の憂いなく、前へと踏み切った。
◇◆◇◆◇
見送った背中は、もう遠くない。
何度噛み締めても胸を熱くさせるその事実が、顕現する魔力の奔流となって少女のアバターを包み込む。
意気は十分、コンディションは最高――ならば今こそ、夢見た姿を。
「《終幕》」
宙に従えた大小の魔剣を解き、手に喚び出すは一振りの砂剣。
「《この手に求むは、ただ一振りの剣》――いきます」
溢れる魔力を、ステータスに変換――新たに獲得した《魔力纏衣》のスキルが、術者の意志に応じてアバターのスペックを変遷させる。
真向から巨剣を打ち逸らしてみせた『白』の騎士が、体勢を立て直すのに要した時間はコンマ五秒。即ち、既にその大剣は認めた敵へと振り落とされており、
「――――ッ……‼」
琥珀色の瞳を薄く輝かせた少女は、おかえしの如く。
気合一閃――その剛剣を、真向から打ち払ってみせた。
更に大剣を真横に薙ぎ払った勢いのまま、有り余ったエネルギーを回転へ変換。剣を凌がれながらも動じず跳ね上がった膝撃と擦れ違いながら……《オプティマイズ・アラート》起動。
右手一本から、諸手。
片手直剣から大剣へと姿を変じた魔剣を、
「――――ふッ‼」
遠心力と捻転力を存分に注ぎ込んだ二の太刀へと転じて、叩き込んだ。
瞬間、両手に伝わってきたのは激甚な手応え――しかし、響き渡ったそれは快音とは言い難く。
「っ……どこかの」
跳ねるように宙へ跳び、縮めた身を大剣の影に隠すようにしてソラの一撃を受けた『白』は……その五段重ねのHPバーに傷を付けることもなく。
衝撃を乗りこなして軽快な機動で距離を取ると、まるで何事もなかったかのように構え直してみせた。
「誰かさんみたいなことをする、鎧さんですね……」
身軽さも、機動力も、〝前回〟の【神楔の王剣】とは桁違いだ。加えて剣を交えた感触からして、その膂力は以前に劣らずのもの。
その事実に――怯むでもなく、嬉しく思ってしまうのは、
もう本当に、仕方のないことだろう。
「『はしたない』って……叱られてしまうかもしれませんね」
でも――と、小柄な体躯に似合わぬ砂塵の大剣を掲げて、
「私だって、もう〝剣士〟なんですから」
憧れた冒険譚を、その身で辿る少女は、
「多少の大暴れは、許してもらいましょう」
ただ楽しそうに微笑んで――今、力一杯に剣を振るう。
「――――あ、れ……?」
……振るいながら、首を傾げる。
はて、自分が相対する『白』に侍っていた二振りの〝魔剣〟は、
いったい、どこへ行ったのかと。