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世は回りて道は続く

「……オーケー。それじゃ、アーカイブのほうはそんな感じで」


「うん、わかった。伝えておくね」


「あぁ、よろしく――任せっぱなしで悪いけど、後は頼んだ」


「力になれて嬉しいから、悪いことなんてないよ――冒険おしごと、頑張ってね」


「……頑張るというか、俺は楽しいだけなんだよなぁ」



――と、申し訳なさそうな笑顔を残し講堂を出て行った姿を見送り、楓もまた席を立つ。傍に目を向ければ、離れた位置で待機していた美稀たち三人もやってきた。


 ……待っていてくれたのはありがたいのだけれど。できればそのニヤニヤも仕舞ってくれたら、もっと嬉しかったりする。


「多忙なスターの()()()()()()は大変だね?」


「もうっ……からかわないで、翔子ちゃん。私はただの連絡役ですー」


 翔子の言葉をヒラリと躱しつつ、その〝役目〟を全うするべくメッセージを一つ二つと『家族』へ向けて送り出す。


 本当に、どういう経緯でそうなったのやら――あれよあれよと、かの【曲芸師】のスポンサーとなってしまった四條の者たちへと。


「なにがどうなるか、わかんねえもんだよなぁ……」


()()()()、出来過ぎなくらい都合が良かったから」


 しみじみ呟く俊樹に、淡々と事実を述べる美稀。


 ()()()()()()()であるはずの楓はといえば……これまで知る由も無かったその〝事実〟を、未だに上手く呑み込めずにいるのだが。


 驚きも驚き――あの『四谷』が、まさか『四條』の分家であるなどと。


 〝四〟繋がり? 本当にもう、なにからツッコめばいいのやらといったところ。ちなみに元は分家と言えど、現在の上下関係は言うまでもない。


 四谷が〝彼〟を支援するための隠れ蓑、サポートの補助、そして機密の厳守。


 それらを是非も無しと承諾する程度には、二家の立場は逆転している様子。もっとも、両親……特に四條の実権を握っている母は大喜びだったけれど。


 それはもう――拒否権は無しと言わんばかり、楓に〝彼〟へ尽くすよう申し付ける程度には。全く、自分の娘を何だと思っているのだろうか。


 ……まあ、断る理由など無かったのだけれど。


「――お待たせ、いこっか」


 連絡を終え、待たせた友人たちと共に講堂を後にする。


「早いとこ、編集作業くらいはパパっとできるようになんねえとな」


「まーなんとかなるでしょ。スパルタ教師も付いてるし」


「風香さんなぁ……絵に描いたようなほんわかお嬢様と思いきやだぜ」


「昔から、専門分野では妥協しない人だから」


 本当に、思い描いていた大学生活からの脱線具合が甚だしい。しかしそれも悪くないと思ってしまうのは……もしかすれば、この状況に酔っているだけなのかも。


 ――でも、


「楓?」


「なんでもない。お姉ちゃん待ってるって、早くいこっ!」


 こんな非現実、流されなければ勿体ない――と。


 大人になりきれない自分たちが冷静さを欠き、欲のままに夢中で走り出してしまうのも……また、どうしようもない摂理であると思ってしまうわけで。


 突然に敷かれた新たな道の行く先は、明暗すらも未だ見えず。


 少しでも早く、彼方へ駆けていく〝友達〟の力になれるよう――早期の()()()()()()を目指して、やるべきことは山積みであった。



 ◇◆◇◆◇



 ()()()()数日。四谷の準備が整うに至り、本格的な俺へのサポート体制が敷かれ始めてからしばらくのこと。


 体面上は不干渉を貫く四谷の隠れ蓑として、同級生の実家が表向き俺のスポンサーになるというまさかの展開があったり。


 それに伴い、その『四條グループ』の令嬢である楓が俺専属のマネージャー……というか、メッセンジャーとして抜擢されたり。


 更にさらに、『俺と楓に近しく信用に足る者を挙げてほしい』と言われ俊樹たち三人を列挙すれば、フットワークの軽い人員が欲しいとかなんとか言って俺専属のチーム・・・として雇用するとかいう超展開。


 メチャクチャやってる四谷も四谷だが、二つ返事どころか噛り付くような勢いで引き受けてみせた友人たちも友人たちだ。


 気持ちは分かるし、かの『四谷開発』からのオファーに飛び付かない人間のほうが稀有だと理解もできるのだが――


 ……いやまあ、素直にありがたいと思っておこうか。現実世界のアレコレを、彼らが俺の代わりに引き受けてくれるからこそ、



「――ドライブ・オン」



 俺はこうして、ただ仮想世界へ向き合うことができるのだから。






「――どーよっ!」


「はいはい、ニアちゃん凄いマジ天才」


「そうでしょうともむぎゅっ……!」


 機嫌よく周囲をクルクル回る――だけに飽き足らず、隙あらばと擦り寄ってくる藍色娘を押し退けながら。


 訪れた彼女のアトリエで受け取った品々を身に着けた俺は、ざっとその詳細に目を通してから頷いた。相変わらずの見事な仕事だ、文句など一つもない。


「なんだよぅ……褒めてくれたっていいじゃんかー」


「火力を抑えてくれるなら、考えなくもないんだけどな……」


 先日あれこれあってからというものの、ニアのノンブレーキっぷりには正直やられっぱなしだ。初めのほうこそ俺も甘い顔をしていたのだが、際限なくタガの外れていく彼女の様子に恐れをなして今に至る。


 アイリスといいニアといい、ガチで手加減無しで迫ってくるものだから青少年には猛毒のような日々。答えも出せないうちから理性を飛ばさないよう、自衛をしないわけにはいかないのだ。


「ちぇー……――ま、冗談はさておき」


「どの辺に冗談があったのかな?」


「引っ張るなら取り下げてもいいんだけど?」


「マジごめんなさい真面目モードでお願いします」


 もう本当に勝てねえ。女の子つよい……。


「首飾りのグレードアップと、左の指輪と右の腕輪は新調。流石にハイエンドまでは行かないけど、それでも中の上くらいのスペックはある……かな? とにかく、十分に一線級ではあると保証しましょう」


 ――とのことで、先日預けた【岩食みの大巣窟】の戦利品から制作してもらったアクセサリーを受け取った次第。


 間に合わせとして作ってもらった【魔晶の首飾り】&【天翠玉シリーズ】から、一応の本装備品へ変更と相成ったわけだ。


 首飾りのほうは、元々の『非戦闘時に自然回復の余剰MPを蓄積することで予備タンクとして使用できる』という性質をそのままグレードアップ。


 魔力親和性の高い水晶系素材を複数融合させ、生み出された混合物から制作された――その名も【魔混水晶の首飾りメイガスタル・オブ・カラー


 指輪と腕輪のほうも、変わらず『MID補強一極』を要としたコンセプトだ。


 それぞれ、【翡王翠の指輪】と【翡王翠の腕輪】――【エルメリア・エメラルド】という稀少宝石から制作されたセット装備で、効果は占めてMID+100。


 更新前とトータルは変わらないが、元は三部位セット効果込みの数値であったことを考えれば順当に強化はされている。


 二部位で+100というのは、以前ニア本人から聞かされた基準で言えば『超一級品』を上回っているので……まあ、当然文句などあるはずもなく。


「冗談抜きで、完璧だよ。サンキューな」


「ん! それからこれ、ソラちゃんの分ね。渡してあげて」


「そっちもサンキュー。説明が必要なものは無い……よな?」


「だね。基本キミのと同じエルエメ系のMID補強アクセだから。ソラちゃんの魔晶は、首飾りじゃなくて髪飾りにしたよ」


 展開したトレードウィンドウ越しに、ソラ用の品をインベントリで直接受け取る。相棒の()()()()アクセは腕輪が二つに指輪が一つ――三部位でMID+150か。


 これでそれぞれ、精神ステータスの実数値は俺が650のソラが700――二人とも純魔法士ではないというのが笑えてくるようなビルド構成である。


「確かに頂戴しました――で、お代は?」


「今回は素材持ち込みだしねぇ。ん-……それじゃ、このくらいかな」


 そう言って、目の前でフラれるピースサイン。


「なに、二億?」


「馬鹿なの? 二百万(2メガ)ですー!」


「お手頃な値段だなぁ」


「自覚してね、それ金銭感覚ぶっ壊れてるから」


 いやぁハハ……旦那を除けば、トップレベルの職人としか交友がないもので。


 実際問題、まだまだ有り余っている所持金も使い道があまりないんだよ。武装のメンテは必要だが、それにしたってホイホイ大金が飛んでいくほどでもないし。


 とにもかくにも、メインウェポン三種が偉過ぎるんだよ。耐久値の概念が存在しない『魂依器アニマ』に語手武装テラー、そして自動修復持ちの兎短刀の並びがさ。


 加えて俺もソラも、それぞれの方向性で()()()()()スタイルだから……防具というか、衣装の修繕も早々必要にはならないのだ。


「あとは、まあ服だよね」


「うん?」


「ふーくっ! 【蒼天の揃えそれ】も別にハイエンド品ってわけじゃないんだから、もっと高位の素材が手に入ったら新しいの作ったげるよ」


 と、当たり前のように言われるものの。


「え、いいよ別に。これ気に入ってるし」


 同じく当たり前のように返せば、ニアは一瞬言葉を詰まらせ――あっやべ。


「き、気に入ってくれてるのは、嬉しいけどさぁ……」


 ほら、これである。


 あれ以来、()()()()()()への切り替えが『スイッチ』どころか『タッチパネル』ばりに敏感なニアちゃんである。


 実際いまの言葉選びとて、なにも取り立てて意識されるようなものでも無かっただろうに……ニマニマと、嬉しそうに頬を緩めた彼女の様子は――


「っ……じゃ――じゃあ、そういうことで‼」


 とりもなおさず、俺にとっては()退()()()()と同義。


「へっ……あ、なん、ちょっ待――」


 接近の気配を察知して部屋を飛び出せば、背中に届くのは何とも後ろ髪の引かれる声音……だが、勘違いしてはいけない。


 如何に健気な振る舞いで心を乱されようと、もはやアイツは――



 ◇新着メッセージがあります◇



【Nier】――『貸し一つ。デートを求む』



「……、…………逃げようが、逃げまいが……かぁ」


 負けじと俺を振り回す、無敵の恋する乙女ヒロインであるからして。







――――――――――――――――――

◇Status◇

Title:曲芸師

Name:Haru 

Lv:100

STR(筋力):200

AGI(敏捷):250

DEX(器用):0

VIT(頑強):0(+50)⇒0(+150)

MID(精神):300(+350)

LUC(幸運):300


◇Skill◇

万能ノ腕ガンダールヴァ

《コンストラクション》

《フリップストローク》

《ウェアールウィンド》

《エクスチェンジ・ボルテート》

《欲張りの心得》


・水魔法適性

《アクア》

《フラッド》 New!


・Active

《リフレクト・ブロワール》

《ブレス・モーメント》

空翔ロケット

《浮葉》

先理眼フェイタルリーク


・Passive

《体現想護》

《アウェイクニングブロウ》

《過重撃の操手》

《剛身天駆》

兎乱闊駆ヘアリアル

《ランド・インシュレート》

流星疾駆フローティングスター

《極致の奇術師》

《危輝回快》

《削身不退》

《守護者の揺籠》

《魔力運用効率化》


《以心伝心》


◇Arts◇

【結式一刀流】

飛水ひすい

打鉄うちがね

天雪あまゆき

枯炎かれほむら

七星ななほし

鋒雷ほうらい

 口伝:《結風ゆいかぜ

――――――――――――――――――



仮説:王道を謡う楔鎧(アン=ル・ガルタ)】語手武装:腕輪 VIT+100

 神を祀る楔の一柱、神楔の王剣(アンガルタ)より下賜された英詩の欠片。

  真像へと回帰を果たし、担い手を認めた朽ち欠けの指先。

 進むべき道は見えた。歩む先、彼方の先に、目指す黄金は確かに在る。



魔混水晶の首飾りメイガスタル・オブ・カラー

 本編で説明された通り、予備の魔力(MP)タンクとして活用可能なアクセサリー。

【岩食みの大巣窟】の蟻さんたちから採取可能な上質の魔水晶が大量に必要なため、それなりに高級な品……ではあるが、『MP拡張アクセ』とかビルドに関わらず人権レベルの装備なのでほぼ全ての高位戦闘職が所持しているメジャー品。

 主人公は首飾り、ソラさんは髪飾りとカテゴリが違ったように任意の部位に合わせて加工可能。各々プレイヤー毎に素材を注ぎ込んではグレードアップを図っているため、品質はピンキリ。主人公たちの品はニアちゃんが言った通り『中の上』くらい。

 現在確認されている最上位の品であれば、MID:300相当のプレイヤーひとり分のMPを蓄積できる。所有者はどこぞのちっこいの×2。


※プレイヤーのMP容量=MID無振りの状態を100%として、

MID:100=200% MID:250=350%といった具合に最大値が上昇する。

なお自然回復量もステータスに左右されるため、トータルで運用できる魔力量の差は更に広がっていく。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます。 デイリー小ネタの方も合わせて楽しく見させてもらっています。 装備品の性能詳細もホントに助かります。 [気になる点] ちょっと気になったのですが、アクセサリーの装…
[良い点] まさか四谷が四條の分家だったとは…今は立場が逆転しているようですけど それでも四條側が根に持っている、とかは無いようで何より 四谷側も四條へ理不尽なことは出来ないはず(=ハルソラが怒る)…
[良い点] ニアかわニアかわニアかわニアちゃんかわいいニアちゃん可愛いニアちゃん可愛いニアちゃん可愛い [一言] 根源的藍玉の妖精同好会の者です。 急なブローにお兄さん驚いちゃったよボウヤァ、興奮しち…
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