そして楔片は王道を歩む
「――さあ、感想を聞こうか?」
「そりゃもう――控え目に言って〝最高〟」
恙無く進化を遂げた語手武装の、詳細な性能確認を終えて。
違和感を消すために左手を開いたり閉じたり、俺は手首をグルグル回しながら……問いつつも自信満々の顔でこちらを見る紡ぎ手殿に、空いた右手でサムズアップ。
「……とはいえ、まさかコイツまでこうなるとは思わなかったけどな」
その〝意外〟は、奇しくも同じような道を辿った二振りの『剣』に向けられたものだ。先日『指輪』として俺の右手中指へ納まった【空翔の白晶剣】並びに――
【仮説:王道を謡う楔鎧】――『剣』ならざるモノへと変貌し、俺の左腕を占領するに至ったこの語手武装へと。
新たに左腕へと嵌められたその姿は、一言で表すなら幅広の腕輪飾り。手首の少し下、関節の可動域を邪魔しない位置でピタリと馴染んだ白金の輝き。
鉄塊時代からも刀身を彩っていた精緻な彫刻が、アクセサリーとしての体を取ったことで正しく『美』として機能することになったわけだ。
――まあコイツも白剣と同じく、アクセとしての姿は〝ガワ〟だけなんだが。
ともあれ、籠手と言いつつほぼ手袋状の【流星蛇の籠手】と競合しなかったのはありがたいことだ。前腕を覆う革地の上から身につけても、少なくとも俺が見る限りはデザイン的なミスマッチも感じない。
「語手武装は性質上、蓄積した経験によってガラっとカタチを変えるもんだからね。それに関しては、どちらかと言えばアンタの『魂依器』がおかしいんだよ」
少なくとも、『剣』から『指輪』へ姿を変えたモノなど聞いたことがない――と、カグラさんは呆れたように……では、ないな。
至極面白そうに、俺の右手を眺めて言う。
「右にも左にも愉快なもん抱えて、より【曲芸師】らしくなったんじゃないかい?」
「……称号にも愛着湧いてきたことだし、悪い気はしないけども」
ただしそれも『十全に使いこなせるのであれば』という注釈が付くのが、問題と言えば問題。なんだか思わぬ〝優等生〟の道を歩み始めた気配がする左と比べて、右のじゃじゃ馬っぷりがどうにもこうにも……。
いや、マジもんの兎短刀と比べたら【空翔の白晶剣】は別カテゴリか。なんというか――そう、こっちは言うなれば反抗期の子どゴッ‼
「い゛ッ――……てぇッ!?」
瞬間、勝手に顕現した白剣の柄頭が後頭部をジャストミート。
目を丸くするカグラさんの前で情け容赦なく俺のHPを抉ったThis is 反抗期は、まるで何かを言い捨てるように宙で一回転してから再び指輪へと姿を変えた。
「ッ……、…………」
「………………ふ、ぐくっ……!」
クッソ……! そりゃ傍から見たら完全に絵面はギャグだろうよ、こっちは誇張抜きで視界に星が散って強制硬直まで喰らったというのに……‼
「ふ、ふふっ……あ、アンタ、それはもう〝特級の個性〟だよ……! 魂依器は元々『意思を持つ装備』だけど、そこまで明確なのはそうないっての……!」
完全無欠の『ユニーク』だと腹を抱えて笑い出す魔工師殿に、なに一つ言い返せない俺は恨みがましくジト目を向けるのみ。
そう、カグラさんには言い返せないし、コイツにも文句は言えない。
ハルゼンの旦那曰くの『また随分と嫌われた』――その原因は、他でもない俺自身が武器を乱雑に扱っていたせいであるからして。
……追々、機嫌直してくれよな。もう足蹴にしたりしないからさ。
いやまあ、『もうしない』というか『もうできない』が正しいんだけど。
「さて……ともあれ、ひとまずの〝依頼〟は完遂だ――あぁ、今更お代がどうとか下らないこと言いだすんじゃないよ?」
「それはもう、今後の活動で目一杯に返させていただきますとも」
本当にもう、俺たちの間では今更のこと。
敬愛する職人様に、失礼な態度を取るつもりなど毛頭ない――そう思い二ッと笑って見せれば、カグラさんは機嫌良く俺の胸を小突いてきた。
「そしたらさっさと〝冒険〟にでも行って、アタシが知らない素材の一つや二つ持ってきな。退屈なんて御免だからね」
「それは無茶ぶりが過ぎるってものでは――あぁ、ハイハイ仰せのままに……!」
いつもと同じく、気持ちがいいサバサバっぷり……けれど。
追い出すように俺の背中を押す両手、頼もしすぎる本人のイメージに寄らない華奢な指先から伝わってくるのは――隠す気など一切ない、清々しいまでの上機嫌だ。
……そしたらとりあえず、未確認エネミーでも求めて遠出に興じてみるか? 専属魔工師殿のオーダーとあれば、俺に〝お断り〟なんて択があるはずもなく――
幸いこの自慢の脚は、彼女が求む『突っ走る』ことに長けているのだから。
性能詳細おあずけ。




