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序説の先へ

「――お久しぶりあーっすッ‼」


「…………あ、あぁ……六日ぶり、くらいかい?」


「遅ればせんなりましたがぁ! 先日の四柱につきましては手厚いサポートのほど重ねて感謝申し上げたくッ‼」


「いや、うん……アーカイブは存分に鑑賞したよ。アタシも楽しませてもらっ」


「そういうわけでこの度は新たな依頼をば抱えて馳せ参じた次第でございましてぇッ! カグラさんにおかれましてはご予定など如何かなと愚考する次第で」


「――うるっっっさいんだよ何なんだいアンタそのテンションは!?」


 現実世界でアーシェを送り帰した後、無心で飛び込んだ仮想世界にて。


 いつぶりかにログインしているその名前をフレンドリストに見つけた俺は、一も二もなく彼女の工房へと突撃をかましていた。


 ご無沙汰していた我が専属魔工師殿は、相も変わらず格好良い姐さんスタイルかつ取っ付きやすさの化身であらせられる……あぁもう本当にこの安心感よ。


「ったく……そのヤケっぱちな様子を見るに、予想通り大変さんざんみたいだね」


「語れば一日が終わる程度には……」


 同情すれども半分他人事のような絶妙な距離感の笑顔に、思わず秒で弱音をオープンしてしまう。追加の気安い肩ポンも心に染みること染みること……。


「ま、せめてアタシはこれまで通りでいてやるさね。アンタも潰れるなんて許さないよ、まさかもう〝一番上〟だなんて思ってないだろう?」


「…………誤解を恐れず敢えてハッキリ言わせてもらいますけど、姐さんマジ愛してる一生ついていくっす」


「馬鹿言ってんじゃないよ、アタシについてきてどうすんだい。先へ突っ走るのはアンタの役目だっての――あと、姐さん言うな」


 ソラとは別ベクトルの絶大な信頼感に加えてこの遠慮のなさ、プライスレス。


 これが〝気遣い〟だってわかるから、マジで頭が上がんねえんだよなぁ……。






「――ようやく……と感じるのは、誰かさんが提供してくれた時間の密度が濃すぎたせいだろうねぇ」


「ポジティブに受け取らせてもらいます」


 しみじみと呟いたカグラさんがジッと見つめる先――ニアのオシャレ工房にあるものとは造りの異なる、大きく無骨な作業台の上。


 横たえられている巨大な鉄塊は、拍動する淡い光を放ち周囲を照らしていた。


 盛大なトリを飾った囲炉裏戦から続き、対アーシェの大一番では残念ながら直接の勝利を納めるには至らなかったが――それでも、〝経験値〟は十二分。



 我が……否、我らが・・・語手武装テラーアーマメント、堂々の進化の時である。



「また、結構時間かかったりします?」


「いいや、進化に関してはすぐさ。この場で始めようか」


 やったぜ。


 『魂依器アニマ』――【白欠の直剣】から【空翔の白晶剣エヴァークォーツ】への強化に関してもそうであったし、なんとなくそんな気はしていた。


「顔がニヤけてるよ」


「それはお互いさまでは?」


 ワクワクしないわけがないだろう。紡ぎ手と担い手……それぞれが語るこの剣ものがたりの次章を、目にすることができるというのに。


「勿体ぶる必要はないね――やるよ」


「頼みます」


 待ったをかける必要などナシ。彼女の職人としての腕を疑うことなど、俺にはできようはずもないのだから。これまでも、これからもな。


 一歩退き、見守る先。


 着物姿の魔工師が、物言わず待ち受ける鉄塊の肌を撫でる――瞬間、【序説:永朽を謡う楔片(アン=リ・ガルタ)】の全身が煌々と光り輝いた。


 光る――ではなく、〝赤熱〟か。


 その身に触れている細い指先が、なぜ燃え上がらないのが理解できないほど。吹き付けた熱風が、アバターの肌を焼くようだった。


「――ハル」


 珍しく名前を呼ばれて、視線を剣から人へと移す。


 熱風に煽られてなお涼し気な顔で悠然と立つ魔工師は、真直ぐに鉄を見やる赤銅の瞳だけを激しく燃え上がらせていた。


「コイツが訊いてる――進むか・・・戻るか・・・


「………………」


 言葉無く先を促しても、彼女はそれ以上を口にしようとはしない。トランス状態にでも入っているかのように、その声音はいつになく神聖な何かに聞こえた。


 進むか、戻るか。


 剣が訊くというその問いは、言葉の意味だけを考えるのであれば一択。


 ただし〝進化〟が決定付けられたこの場面での問いと考えれば、『戻る』という言葉がネガティブな意味であるはずがない。


 これまでコイツを振ってきた俺、そしてコイツを預けてくれた彼女、おそらく二人ともに理解している【序説:永朽を謡う楔片(アン=リ・ガルタ)】の本質に関する問いかけ。



 この剣は――本来、()()()()()()()()()()()()から。



「………………二人で、決めようか」


「ひとり……いや、一振りを忘れてるよ」


「だな――俺の意見としては、そいつ・・・の意志に委ねたいと思ってるんだけど」


「ッハ、奇遇だね」


 一つ笑い、紅の髪を揺らす魔工師はその両手を剣に重ねて――



「アタシも、それが一番〝面白い〟と思ってたよ……!」



 赤を過ぎ去り、白熱した光が――【遊火人あそびにん】の工房を埋め尽くした。






あれ? 【序説:永朽を謡う楔片(アン=リ・ガルタ)】の詳細解説とか結局やってなくない?

いや、そんなはずは、いや……ッ!

能力自体は本編で全部お披露目してるしこれはセーフ……!!

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― 新着の感想 ―
[一言] 将来アイツの姿に戻るとしたら、将来のハルの構成が クソデカ鎧 飛び回る白の剣 音速で空飛ぶ本体 ばら撒かれ爆発する赤い短刀 これに場合によってはソラさんが付くと……レイドボスか何かでいらっし…
[一言] やはりソラちゃんとカグラさんは心のオアシス(気が休まる的な意味で) 進むは剣のまま強化される、戻るは剣ではない本来の姿に戻る…って感じかな?
[良い点] 【序説:永朽を謡う楔片】どうなるか楽しみです♪ [気になる点] ハル、恋愛(+α)に疲弊していて空元気なのテンション見てて分かるし「相手からの気遣い」にやたら感謝している反面、「恋愛 が…
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