手に入れたるは
毒スライムの蔓延る密林型ダンジョン【毒泉の憩場】の奥地。瘴気湧き立つ毒の泉に出現するボスエネミーは、まあ大方の予想通り毒スライム(特大)。
とは言っても物理無効と数しか能のない【毒霊の御使い】とは異なり、アルカディアの正規フィールドらしくよく造り込まれた〝強敵〟ではあった。
あったのだが――
◇【怨呪の死毒霊】を討伐しました◇
◇称号を獲得しました◇
・『鎧袖一触』
・『強者の戯れ』
・『弱きを掃う者』
◇スキルを獲得しました◇
・《水魔法適性》
・《魔力運用効率化》
――と、いった感じで。
数多の毒生物が融合したようなクッソ気持ち悪い巨大キメラスライムといえど、もう自惚れではなく事実として俺が強くなりすぎてしまっているため瞬殺も止む無しといったところでちょっと待て今なんか重要な情報が流れたなぁッ!?
「いきなり来たぜ魔法適性ッ‼」
「うわビックリした。え、スキル? おめでとう?」
「ありがとう‼」
思わず声量のツマミがイカれてしまい、隣で戦利品を検めていたテトラを驚かせたのは申し訳ない。しかしまあ、今回ばかりは目を瞑っていただいて。
だって魔法だぜ『魔法』。元々ソラの魔剣も羨ましく思っていたが、四柱で多くの魔法士を目にする機会があってから地味に憧れが募っていたのだ。
「ちょっと待って、俺まだ魔法についてよくわかってないんだけどコレもう使える? 使える感じ? いつもみたいに脳内インストールがビビッと来ないんだけど大丈夫かこれバグってない?」
「あーうるさいうるさい。喜んでるのはわかったから、ちょっと落ち着いてくれるかな近い近い」
いかん嬉しいにしても少々はしゃぎ過ぎたか。テトラに軽く引かれて我を取り戻し、それでもなお逸る気持ちでひとまずスキルウィンドウを展開する。
「とりあえず魔法適性ツリーをアクティブにして。適性は武器と魔法で一本ずつ共存できるから……ちなみに、属性は?」
「水だった」
「うっそ似合わな」
喧しいわ――と思ったが、心の底から同意せざるを得ないから許してやろう。
いや確かになにがどうして水……ソラの〝光〟やテトラの〝影〟はハマり過ぎってくらいハマってるのに、俺に〝水〟のイメージとか一切なくない???
◇《水魔法適性》がアクティベートされました◇
◇スキルを獲得しました◇
・《アクア》
「あ、えっ……なんかメチャクチャ素っ気ない名前の魔法覚えたんだけど」
「属性毎に決められてる基本スキル、水だと《アクア》だっけ。アクティブにしたなら、使い方も入ってきたんじゃない?」
というテトラの言葉通り。魔法スキルツリーを有効化した瞬間、【Arcadia】の十八番が作用して俺の脳内にスキルの使い方が刻まれる――
「――…………」
「っ……、…………」
そして言葉を失う俺&笑いを堪えるテトラ。
うん、まあとりあえず……要領としては、アレだ。【刃螺紅楽群・小兎刀】の運用で散々やっているイメージの具現化と同じ感じでいけるっぽい。
――さあ、ではやろうか。ハイこちらの右手にご注目ー!
「《アクア》」
バシャっ。以上おしまい。
「………………参考までにさぁ」
「ふ、く……う、うん。なに?」
「真っ先にこのツリーが生えてきた場合、初心者はどうすりゃいいの?」
勢いのある水流でもなく、威力のある弾丸でもなく、単に魔力に応じた水を垂れ流すだけのスキルでどう戦えと?
「いやまあ、一応便利っちゃ便利なんだよ? それ理論純水てきなアレだから、生産職界隈では重宝されてるらしいし」
「へぇ……で、戦闘には?」
「氷属性の魔法士と組めばいいんじゃないかな。純粋な氷魔法適性ツリーの使い手なんて、数えるくらいしか知らないけど」
「ダメじゃねえか!」
いや、別にいいけどさ!
明確に戦力アップを目的として望んでたわけじゃないけどさぁ‼
「……ま、安心しなよ。水魔法は『初期スキルが断トツでショボい』って有名だけど、大器晩成型としても知られてるから。もう先輩は魔法が無くても十二分に強いんだから、むしろ都合がいいでしょ」
「そう言われたらまあ……ちなみに、サポ特化で属性付与含む攻撃手段が皆無ってオチは無いだろうな?」
「大丈夫だってば。先輩が習得できるかは知らないけど、ちゃんと付与も攻撃魔法も確認されてるよ」
ふむ……ふむ。初っ端で期待を裏切られた感がなくもないが、先輩が断言するなら信じて良いのだろう。
なんにせよ、このバシャバシャも視覚的には魔法に違いないしな……。
………………ちなみにさぁ?
「これ、魔力に応じた量の水を出せるんだよな?」
「いや、僕も詳細までは知らないけど。システムに教えてもらった先輩がそうだって思うならそうなんじゃない?」
「それじゃ、例えばだけど」
「うん」
「MID:650のプレイヤーが魔力フルで注ぎ込んだら、どうなるんだ?」
「うん?――は、え、なん……六百???」
使っててなんとなく理解したけど、多分これ固定出力タイプじゃないんだよね。つまり、ソラの《オプティマイズ・アラート》と同じく増減の調節が効くはず。
「ちょっと待ってよ嘘でしょ? なんでその戦闘スタイルで純魔よりMID積んで……じゃない待った、ストップ! 冗談じゃないよ〝実験〟なら一人で――ッ」
「つれないこと言うなよ先輩」
せっかくもしものことがあってもデスペナ免除のダンジョン内なんだ。楽しげなことには是非にご一緒願おうか?
あとはまあ……笑われたことへのちょっとした仕返しということで一つ。
しからば――滾れ魔力、唸れ我が新たな力よッ‼
「っしゃいくぜオラァッ‼ さーん、にーい、いーち――‼」
「ちょ、ふざ――!?」
「いでよ――《アクア》ぁアッ‼」
さて、今回の〝おふざけ〟で俺が学んだことは二つ。アルカディアにおける『溺死』は別に苦しくはないが、超怖いということ。
そして――
「遅い、次。あと二十周」
「ハイただいま‼」
俺の先輩もまた、怒ると超怖いということだった。
溺死というか、猛毒の泉の傍で洪水起こしたらそりゃダメでしょ。