表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
274/977

心の天秤

 ――――、――――、――――、――――――――


『――……はい、春日です』


「やあ、さっきぶり。少しいいかい?」


『大丈夫です、けど……なにか?』


「ちょっとね。話しておいた君以外の入居者について……本当は明日にでも紹介するつもりだったんだけど、いろいろあって急かされてしまったんだ」


『はぁ……うん?』


「できるだけ早く顔合わせがしたいってことだよ。だから悪いけど、今日この後どこかで時間をもらえるかな」


『いやぁ……ちょ…………っと、今日はアレというか……あの、俺またすぐに仮想世界むこうでソラと合流する予定もあって』


「ふむ……――春日君。これは一応、善意からのアドバイスなんだけど」


『はい』


「さっさと会ってしまうほうがいい。俺も想定が甘かったというか、()()()()だとは思ってなくて……あまり我慢させると、反動が怖そうだ」


『…………あの、俺は一体〝なに〟と顔合わせをさせられるの?』


「ごめんね、サプ――守秘義務で、まだ言えない」


『おい。今サプライズって』


「――ともかく、できれば今日中に時間を作ってほしい」


『…………いや、まあいいけどさ……ただ、ソラとの約束は優先させてもらう。個人的に、話さないといけないこともあるから』


「構わないよ。向こう・・・も『時間はいつでも構わない』と言っていたからね」


『〝向こう〟ねぇ……了解。そしたら遅くなるけど、十一時頃とか?』


「OK。伝えておくよ」


『あぁ、ハイ……よろしく。えと、それじゃ』


「うん、突然ゴメンね。こちらこそ、後程よろしく頼むよ」




 無事に約束を取り付けられ、密かに安堵しながら通話を切る。


 数分前。とある〝催促〟の連絡に『YES』を返すしかなかった千歳は、なんともいえない顔で端末を眺めつつ――


「性懲りもなく、またなにかやらかしたな」


 覇気のない、どこか弱り切った様子の声音を思い返して苦笑い。


 この後も()()()()()()に見舞われることが確定した彼は、果たして正常なメンタルで明日を迎えられるのか――


 『無理だろうな』と他人事のように笑い、千歳は再び〝仕事〟をこなすべく端末を手に取った。手早く操作してメッセージを送れば……返信は即座。


 見るからに素っ気ない、端的に了解の意を表す文面の裏に……何ともまあ、どうしようもなく逸る気持ちが透けて見える。


 順調に混沌を極めていく現実は、どう足掻いても――


 春日希を、逃すつもりがないようだった。



 ◇◆◇◆◇



「――大丈夫ですか……?」


 パートナースキル《絆の道扉メルトラクション》を用いて、合流してからの第一声。


 どことも知れぬ森の中に転移したソラは、相棒の思わぬ様子を見て反射的にそう問いかけていた。


 あれこれ用意していた挨拶の文句は、出番を逸してお蔵入りである。


「…………即バレするとは思わなかった」


 対するハルは、()()()()()を崩して苦笑を一つ。取り繕った平静を数秒足らずで見抜かれて、彼は困ったように頬を掻いてみせた。


 パートナーですから――と……そんな軽口を、少し迷った末に呑み込む。


 様子がおかしいのは見破れたものの、その内情が読み取れない。困っているのか、弱っているのか……いつもであれば、互いの考えがわかるのに。


 こそばゆくも、密かに誇らしく思っている以心伝心――ソラはその理由カラクリを、なんとなく理解していた。そしてそれは、おそらくハルも同じく。


 ()()()()()


「ほら、行きましょうっ」


「――っと……!?」


 パートナーの手を取って、見覚えのない森の風景を意に介さず走り出した。


 グイと遠慮なく引っ張れば、ハルは驚きの声を漏らしながらも後に続く。されるがままの彼を連れて、ソラは日が落ち始め薄暗い木々の間を駆けた。


「っ……ソラ、どこに――」


「どこだっていいです」


 遠慮無しに引っ張りながら駆けても、もはや流石の身のこなし。苦も無く追走しながら、しかし当然の戸惑いをもって口を開いたハルの言葉を遮って。


 振り返り、返すのは笑顔だ。


「今日はもう、難しい話はお腹いっぱいですから。なので――」


 困った顔、弱った顔、なにかを悩んでいるような顔。


 ()()()()()()()、いつだって笑顔を見せてほしい……なんて、勝手でわがままな感情を、ただ押し付けたりするつもりなどないから。


「私、ハルと冒険がしたいです」


 笑顔を引き出す努力くらい、いくらでもしてみせる。



 ――以心伝心の理由カラクリは、()()()()()()()()()()()()()から。



 ワクワクする、ドキドキする――二人で一緒に冒険を続ける間、自分たちはいつだって心を曝け出していた。


 〝楽しい〟に夢中になって、


 〝悔しい〟にムキになって、


 二人一緒に、子供のように。


 考えてることがわかるなんて、当然だ。


 仮想世界このせかいに生きる【Sora】として、【Haru】として――ただ心に浮かぶままの感情を、何度も交えてきたのだから。


 だから、今だって。()()()()()ということが、わかっている。


 そう考えれば――


「今日は、私がエスコートしましょうか? それとも……」


 以心伝心は、いつも通りだったのかもしれない。


「いつもみたいに――ハルがどこかへ、連れて行ってくれますか?」


「……………………はぁ……なんというか、ソラも手強くなったな」


 相変わらず『困ったような』が頭につくものの――笑顔を一つ引き出せたのなら、及第点と言えるだろう。


 そうとなれば……先程は呑み込んだ、軽口の出番。


「えへへ……あなたのパートナーですから」


 差し出した手を取られ、引かれて――その腕に抱えられるのは、もう何度目か。


「それじゃ……ちょっと遠いから、全力ダッシュを覚悟してくれよ」


「ハルの全力は、バリエーションが多過ぎてよくわかりません」


「そりゃごもっとも――……あとで、少しだけ話がある」


「……はい。では、あとで」


 だから今は、いつぶりかの冒険へ。


 音もなく疾走を始めた相棒へ身体を預け、風に吹かれる髪を押さえながら――


「――…………」


 こっそり見上げたその顔に思い抱くのは、代えがたい安心だけだった。






『信頼』>>>『  』


『信頼』≒『  』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
正妻は是非ともソラに、、!!
[一言] なんかニアニアしてきたな…
[良い点] ぅゎパートナーっょぃ [気になる点] 今の全速力ってステ振り直し前と比べてどんくらいになってるんだろう
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ